台湾クラフトビールを訪ねて 〜台湾のビア・シーンを牽引する「北台湾ビール」訪問と、台北ビア散歩
台湾一の老舗ブルワリー、北台湾ビールへ
2015年6月、最新クラフトビール事情をリサーチすべく、台湾へと渡った。まず訪れたのは、台湾北西部の桃園(タオユェン)市にある北台灣麥酒有限公司(以下、北台湾ビール)。ここは、台湾で最も歴史のあるクラフトビールブルワリーである。一般の見学は受け付けていないのだが、今回は台湾の知人の取り計らいで特別に訪問を許可された。桃園市といえば、台湾の空の玄関口である台湾桃園国際空港のある場所。首都・台北から台灣高速鐵路(台湾新幹線)で19分ほどの、工業地帯を抱える人口 200万人の都市だ。ブルワリーは桃園空港から 1Km、新幹線桃園駅から 8kmほどで、やはり工業地帯にある。台湾ではブルワリーも工業地帯に立地しなければならないのだ。
ブルワリーではオーナーの溫立國さん、醸造責任者の段淵傑さんに話を伺った。
台湾では、2002年にWTO(世界貿易機関)への加入にともない、商業的な個人醸造が合法となった。溫立國さんはそれを機に「これからはクラフトビールの時代」と確信し、2003年10月に北台湾ビールを設立。溫さんのポリシーは、「台湾国産素材で台湾らしいクラフトビールをつくること」だという。従業員は4人で、年間醸造量はおおよそ60トン。発酵タンクは2000リットルが 5釜、1000リットルが 2釜稼働している。
■醸造設備見学
話を伺った後は、醸造責任者の段淵傑さんの案内でブルワリーの中へ。衛生的な環境の中で近代的な設備が稼働していたのが印象的で、工場内には酵母の培養室もあり、酵母の管理もなされていた。
■いよいよ試飲!
工場見学の後は、待ちに待った試飲タイム。ここでは主なアイテムを試飲させていただいた。北台湾ビールは、2014年のアジアビアカップにおいて、「ベルジャンビール」カテゴリーの金賞と銀賞を受賞。各国から多くのビールが出品されるこのカテゴリーで、金、銀の独占受賞は快挙である。では今回試飲させていただいたビールをはじめ、北台湾ビールのラインナップの一部をざっと紹介しよう。
「經典(八)」Belgian Dark Strong Ale
まずはベルジャン・スタイルのアビービール、「經典(八)」。余談だが、「經典」はいわゆる仏教の経典ではなく、「クラシック」という意味。こちらはアルコール度数8%。しっかりとしたモルトと、アビービールらしい複雑でスパイシーなフレーバー魅力的。スパイスは使っていないらしいので、ベルジャン酵母に由来していると思われる。このビールは金賞を受賞している。
「經典(六)」Belgian Ale
アルコール度 6%の「經典(六)」もある。こうしたアルコール度数によるネーミングは 「Rochefort」 を彷彿させる。酵母は8%の「經典(八)」と同じものを使用。色は薄く、 SRM 6ぐらいだろうか。こちらもスパイシーなフレーバーが魅力的でモルトの甘味も感じられた。段さんが最も好きだというビール、「Orval」に通じるものを感じる。
銀賞を受賞したウイートエールの「雪藏白啤酒」を試したかったが、ブルワリーでは在庫切れ。こちらは夜の台北の街で楽しむことに(後述参照)。
「喜願小麥工藝啤酒」 Belgian White
「喜願小麥工藝啤酒」は喜願小麦50%と大麦50%を使ったベルジャンホワイト。小麦は100%台湾産のものを使用。「喜願」というのは台湾の代表的な小麦栽培組織で、食料自給率の向上を目指して活動している。色はヒューガルデンホワイトよりも濃く、SRM 6 程度。しっかりした小麦のフレーバーとベルジャンホワイトらしいスパイス感を感じたが、こちらも特にスパイスは使っていない。ちなみにこれ、段さんの自信作なのだそうだ。
「穀雨 (Taiwan Tea ale) 」Belgian-Style Pale Ale
副原料に台湾産のウーロン茶を使用したペールエール。ホップとウーロン茶のバランスがよい。実はこのビール、「北台湾ビール」のブランドでは販売されておらず、「啤酒頭 (Taiwan Head Brewers Brewing Company)」として流通。「啤酒頭」とは、特定の醸造所を持たない、いわゆるファントムブルワリーで、北台湾ビールもこれに参加している。
啤酒頭ではこの他に、アメリカンペールエールの「立夏」も販売しているが、これは北台湾ビールが醸造するアイテムではないためブルワリーには置いていなかった。(台北のビアカフェで飲むことができたので、後述参照。) 「穀雨」「立夏」など、二十四節季にちなんだネーミングがユニークだ。続いて「夏至」「立秋」もリリースが予定されているという。そのうち「立秋」については北台湾ビールが醸造を担当している。
さらなるビールを求めて台北の夜の街へ
充実の工場見学の後は、台北市内へ。ブルワリーで飲めなかった北台湾ビールと、啤酒頭の「立夏」を求めて夜の街に繰り出した。台北のビア事情はなかなかにアツい。店それぞれに個性があり、扱うビールには店主の好みが現れているようにも思う。今回目的のビールを求めて歩いた3軒をご案内する。
「家途中啤酒屋」 (Way Home Beer House)
まずは、MRT台北小巨蛋駅から5分ほどの、いわゆる角打ちできるボトルビールショップ、「家途中啤酒屋 (Way Home Beer House)」 に行ってみた。店名の通り、「家に帰る途中にちょっと寄って飲む」というコンセプトの店だ。こちらでは、冷蔵庫で気持ちよく冷えたビールを軽食とともに楽しむことができるのだが、残念ながらドラフトビールは置いていない。ラインナップとしては海外のビールが目立つが、棚の一角はしっかり北台湾ビールが占めていた。
こちらの店にも啤酒頭の「穀雨」は販売していたが、「立夏」は売り切れ。ということで、ブルワリーで飲めなかった「雪藏白啤酒」を飲んでみた。小麦が爽やかなヴァイツェンに近いビールだ。
「北義極品咖啡」(North Italy Ratting Coffee)
次はMRT小南門駅から10分ほどのビアカフェ「北義極品咖啡」で、「經典(八)」と「經典(六)」を。「北義」は「北イタリア」の意味で、イタリアンテイストのコーヒーにこだわっていることからつけた店名なのだそうだ。ここは、海外のビールを中心にドラフトで6タップほどを提供している。ボトルビールの販売も多く、冷蔵庫の中の物は店内で飲むこともできる。軽食もあり、台北ではお勧めのビアカフェのひとつだ。
「啜飲室」
夜のビア散歩はまだまだ続く。次はMRT忠孝復興駅から5分ほどのところに今年オープンした「啜飲室」。「啜」は日本語で「すする」と読むので、名前をからはあまり上品な印象を受けないが、台湾では「ゆっくり味わって飲む」という意味もあるらしい。20代~30代の若者が多く、モダンでおしゃれな店内。キャッシュ・オン・デリバリーでカジュアルに飲むことができる。ここでは啤酒頭の「立夏」のドラフトをオーダー。ホッピーで爽やかなビールだった。
さて、これで目的のビールはほぼ制覇。そしてなお、夜の台北のビアバー巡りはまだまだ続くことになるが……。台北ビアバーの詳しいレポートはまた次の機会にとっておこう。
台湾クラフトビール、今後の展開は?
1994年の日本の地ビール解禁から遅れること 8年、2002年に台湾でも地ビールが解禁された。それから10年以上が経ち、現在では 10社以上のクラフトビールメーカーがしのぎを削っている。食べ物が全般的に安くて美味しい台湾だが、クラフトビールは日本と同等以上の値段。つまり台湾ではまだまだ高級品なのである。それでも多くの若者がクラフトビールを楽しんでいる状況を目にして、もしかすると3年後には、日本よりも活気あるビア・シーンが展開されているかもしれないと感じた。クラフトビール愛好者としては、台湾の素材を使い、台湾の食事、気候、風土にマッチしたビールが今後ますます増えることを願うばかりだ。
●関連リンク
北台灣麥酒有限公司
https://www.facebook.com/NorthTaiwan
啤酒頭 Taiwan Head Brewers Brewing Company
https://www.facebook.com/taiwanheadbrewers
家途中啤酒屋 Way Home Beer House
https://www.facebook.com/wayhomebeerhouse
北義極品咖啡
https://www.facebook.com/NORTHITALYRATINGCAFE
啜飲室
https://www.facebook.com/chuoyinshi
北台湾ビールの買える店
https://www.facebook.com/notes/10151175438672689/
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