[イベント]2011.9.5

日本におけるホームブリューの今後について考える

 残念ながら「日本では、酒造免許を取得せずにアルコール度数1%以上の飲料を造ることは違法」である。
 個人で楽しむ範囲であっても、自宅でアルコールを醸造することは御法度なのだ。

 私はこのことを常々言い続けているのだが、「ホームブリュー(自家醸造)という行為そのものが悪い」とは思っていない。
 私は「法を犯すことはよくない」と言っているのだ。どんな法であれ、法は法である。その国に暮らす国民としては法を遵守する義務がある。
 しかし、私達には法を変える権利もある。方法もある。
 結論から言えば、私は「日本のホームブリューは正しい手順を踏んで合法化・解禁するべきだ」と考えている。

 酒造に関する法律は国によって違うが、お酒を造ることは歴史的に見て自然発生的なものであり、太古には免許も法律もなかった。
 それを免許制にしているのは、税金と食品衛生の両面が原因であることが多い。
 日本のビールの酒税は、1リットル222円である。これはドイツの17倍、アメリカの9倍(国によってアルコール度数による課税などもあり、違った計算となる場合もあるが)である。
 また、日本国内においてもビールの酒税は日本酒やワインに比べて非常に高い。(アルコール度数1%1リットルあたりの税金はワインが6.7円に対してビールは44.0円)

 さらには、現在日本でビール免許を取得してビール造りするためには年間60kリットルのビールを醸造できる設備を構える必要があり、醸造所の敷地・建設費や起業後の人件費や広告費などランニングコストを含めるとその費用は数千万円以上になることが多い(年間6kリットルの発泡酒免許ならばコストが下がるものの数百万円の出資は必要である)。
 このような”高い酒税”と”高い投資”いう現在の日本の情況で、一般の人達が無税でビールを造ることはビールメーカーを圧迫することになりかねない。
 また、食品の安全性から考えても、人を酩酊させるアルコール飲料を造ることや人体に害を及ぼすバクテリアが繁殖するおそれのある作業を無責任・無知識におこなうことは危険である。
 以上の観点から、日本では自家醸造が禁止されていると考えられる。

 一方、他国に目を移してみると、ホームブリューが認められている国のビール文化が、認められていない国のビール文化よりも高い傾向にあることは紛れのない事実である。
 アメリカなどビール事情が非常に華やかな国の背景にはホームブリュー文化があることは明らかだ。
 ホームブリュワーはビールに対する目(舌?)が越えているし、ホームブリューワーからプロのブルワーに転身した人も多い。
 
 ホームブリューという文化自体は悪いことではない。
 
 しかし、(くどいようで恐縮だが)残念ながら日本の法律では、家庭で自家醸造することは認められていない。私がホームブリューをバッシングしたりネガティブキャンペーンをはっていると勘違いしている人がいるようだが、私が警鐘を鳴らしているのは「違法行為をしてはならない」ということである。
 法治国家で生活する者として当然の行動であり言動だと確信している。
 
 結論を再び言えば「日本のホームブリューを正しく解禁する必要があるだろう」ということだ。
 しからば、この「正しく」とはどのような状態なのだろうか?
 それは、ここではまだ決められることではない。今後、議論していくべきことであろう。諸外国とは酒税の重さや起業のリスクも違うので、他国の法律をそのまま流用するわけにはいかない。
 日本独自のルール作りをして、国も酒造メーカーも一般消費者も折り合える場所を見つけて着地する必要があるだろう。たとえば、ひとつの案としては「ホームブリュワーがいくばくかの酒税を納める」というのはどうだろうか? どのような趣味でもそれなりのコストが必要だし、なんらかの税金が科せられる趣味(例としてはゴルフ場使用税など)もある。
 もちろん、反論も多々あると思うし、この案にも脆弱な部分や矛盾点もあるだろう。しかし、このような議論を重ねてこそ前進するのではないだろうか?
 さらには、日本のビールに対する高すぎる酒税やクラフトビール起業に対する高い投資リスクについても平行して語り、改善していかなければならないだろう。

 以前、あるホームブリューワーがプロのブルワーが造るビールを飲み「このペールエールは日本で2番目に美味しい」と言ったのを耳にした。私が「2番? では1番はどのペールエールですか?」と尋ねると「1番は僕の造るペールエールだよ」と答えた。
 彼独特のジョークなのか? レトリックなのか? その自信の高さは相当なものだと感じた。しかし、残念ながらそのペールエールを私は飲むことは出来ない。それが美味しいのかそうでないのかを確かめる術もない。
 
 本当に日本のビール環境の向上を考えるのであれば、アンダーグラウンドで違法行為を繰り返すのではなく、その自信ある技術を社会的に還元するべきではないだろうか? ホームブリュワー自身が解禁活動をし、その”素晴らしい日本1のビール”を世に出す努力をするべきではないだろうか?  
 日本のホームブリュワーは、本当に解禁を望んでいるのだろうか? それとも、自分たちだけで密かに楽しむことを良しとしているのだろうか?

 法律が間違っていると考えるならばそれを正す行動をするべきである。
 「法律が悪い」から「守る必要はない」といった考え方は、その思想を正当化・合法化する最大の障害である。

 ホームブリュワー自身が、ホームブリューの解禁運動を正しい筋道を経てさらに進めていくならば、私を含む多くのビールファンが応援するに違いない。
 もし、ホームブリュワー達が正しいアプローチで法改正などの解禁活動を始めるならば私はそれを応援しサポートしたいと考えている。

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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