【第3部】『 Highbury 』が持つ魅力とは何なのか?- Cask Ale ・ GUNNERS BREWING 編-
【第2部】『 Highbury 』が持つ魅力とは何なのか?- Thornbridge ・ Fashion ・ YEBISU 編- より続き。
「プラズドロイ」「エビス」「ジャイプールIPA」。
同店にはもう一つ、語らずにはいられないビールが存在する。
最終章ではそちらにスポットを当てていこうと思う。
■「カスクエール」というカルチャーを伝えることの使命
ハイブリーでは、【ビールで世界を表現する】というテーマを掲げている。安藤、榮川両氏がこれまで見て聞いて、感じたことをアウトプットする場でもあるのだ。
しかしそれは、前述したように「ソフト(=ビール)」に限った話ではない。「ハード」、そして「カルチャー」も伝えていきたいと意気込みを見せる。
例えば、「カスクエール」もその一つだ。
ご存知の方も多いだろう、「カスク・コンディションのもと、炭酸ガスではなく自重によってサーブされるエール・ビール」のことである。
この手のビールは、醸造所からタル詰めして送られてきたあと、提供まで少なくとも2、3日を要する。
「ベンディング」と呼ばれる作業が必要なのだと、安藤氏は解説する。
まずは届いたビールを部屋内で24時間静置。液体の温度を12℃に合わせるためだ。
そののち「ハードペグ」と呼ばれる栓で樽側面についた穴を撃ち抜き、すぐに「ソフトペグ」に切り替える。この「ソフトペグ」は樽内の余分な空気だけ抜けていく構造となっている。
この状態で24-48時間置くことで、イーストなどの不純物を沈降させ、かつカーボネーションを適正数値まで落ち着かせていく。その適正なガスボリュームにするためには「12℃」の部屋が絶対条件なのだ。
そして、店舗に届いてからここまでで2-3日。ようやく開栓…となるわけだが、さらにここからも大変である。
提供し始めてからは5日ほどで撃ち抜かれなければ、酸化や菌による汚染の影響で望んだ味が出せなくなってくるのだ。
「酸化と、酵母の発酵による還元反応のせめぎ合い、それによる味わいの変化。そしてこの見極めがカスクエールをやる醍醐味なんです」
上述のような手間がかかるため、まず取り扱おうとするお店は少ない。
それでもなお、安藤氏は今後「GUNNERS BREWING(ガナーズ ブルーイング)」という屋号のもと、このビールの醸造も開始する。それを造るより先にパブをオープンしたのは、その要である「エンジンルーム」を用意するためでもあった。
しかし、なぜカスクエールなのか?
「ケグで持ってくることができるものは、持ってくればいい。ただ、カスクだけは、最新技術を使ったところで持ってこれない。持ってきても意味がない。だからこそ、国内で造り、そのカルチャーを伝える意義があるんです。」
ハイバリーはこの「アナログ」なビールだからこその魅力を、エゲレスの文化として「伝える」場所でもある。
現在はまだ醸造は行っていないため、常陸野ネストビールのカスクを常時繋いでいる。
今回いただいたのは「常陸野ネスト アマリロセッション」のCask ver.だ。
ホップ由来のトロピカルやグレープフルーツの香りが漂うも、よくあるアメリカンスタイルのIPAほどではなく、どこか落ち着きを見せる。
一口飲めば、通常ver.との違いは歴然。低刺激でおだやかなカーボネーションにより、麦の甘みとホップの苦味とが表面化。それでいて、飲み口には十分なハリを持たせている。ホップビターを舌に感じたあとも、モルトの芳醇な旨味を余韻に振りかえさせるバランスだ。今後のオリジナルのビールの醸造も楽しみでしょうがない。
「お店が落ち着いたら醸造を始める予定です。醸造も自分の手で行いたいので、月1程度の仕込みになるとは思いますが、オーソドックスな英国のものに自分なりのこだわりを盛り込んでいきます。楽しみにしていてください。」
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「ソフト」·「ハード」·「カルチャー」。
多様で多彩。これだけの魅力が詰まっていて、人が惹かれないわけがないのだ。すべてにおいて妥協しない彼らのスタイルは、確実にビールシーンを変えていくに違いない。
【第1部】- Pub Culture ・ Nostalgie Tap ・ Plzeňský Prazdroj 編- はこちら。
【第2部】- Thornbridge ・ Fashion ・ YEBISU 編- はこちら。
《”佐藤翔平”Back Number》
【手軽に牛料理のペアリング】コンビーフを使ったリエットと英国ビールと。 「宅ビアさん」の今宵飯(17)
https://www.jbja.jp/archives/14419
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