ビールをデザインするBREWERY 【ブルワリーレポート 10ants Brewing編】
ファントムブルワリー。それは特定の醸造所を持たず、委託醸造により様々な醸造所でビールを製造するブルワリーのことを言います。世界的にも有名なMikkellerはこの方式で大躍進しました。日本でもファントムブルワリー方式で活動しているブルワリーはあります。2015年3月より活動を開始した10ants Brewing(以下、10ants)もその1つです。彼らはなぜ、ファントムブルワリーを選択したのでしょうか。その想い伺ってきました。
ビールをデザインする!
「行政的、経済的理由はもちろんありました。醸造免許を取得するには長い時間を要しますし、設備を整えるには多額のお金が必要になります。それと私たちの考えとして、ビールを造る技術とコンセプトを決めていく能力は別のものという思いがありました」と月方智彦氏はファントムブルワリーとして活動について話し始めました。
「例えば、ファッションや建築の業界でみると、デザイナーと造る人は異なります。しかし、今のクラフトビール業界はブルワーがデザインから造る工程まで1人で行っています。優れた醸造技術と良いデザインのものを造れるとは限らないという思いがあります。私たちとしては、そこは分業制でも良いのではないかと思っています」と続けて話します。
「デザイナーが思い描いたデザイン(レシピ)をブルワーがその通りに造ることができる。そんな世界観がもっと広がっていってもいいのではないかと考えています」と醸造に対する価値観を語ります。
さらに「デザインする側が『このブルワーさんはこうした技術に長けているね』とか『あのブルワーさんはこうした特徴を生み出すのがうまいよね』と選びながらビールを造れるようになれば、伝統あるビール会社さんにはないブルワリーが生まれるのではないかと思っています」と語ります。
最近では、飲食店が周年ビールをブルワリーに依頼するケースも多くみられるようになっていますが、これと同じと言えると思います。
IPA専門のブルワリー!
立ち上げのきっかけは本間寛章氏(代表取締役)と月方氏(経営企画部長)がIPA好きということで意気投合し、「何かできないか」という思いから始まっています。その後、若槻周平氏(総務部長)も合流し、「以前から感じていた日本のビール文化への疑問に対して、自分たちでビールを造ってみよう」と活動を開始しました。
彼らのビジョンを達成するために「固定概念というリスクから人々を解放する」というミッションがあります。「クラフトビールが人気といっても市場の1%程度です。ビール=大手のビールと思っている方がほとんどです。私たちはIPAというスタイルを以て、その概念を打ち破っていきたいと思っています」と想いを熱く語ります。
そうなのです。10antsはIPAスタイルのビールしか造らないブルワリーなのです。
四苦八苦したパートナー探し
委託醸造という形は日本においても決して珍しいものではありません。では10antsはどのようにして委託醸造先をみつけたのでしょうか。
「突撃です(笑)当然と言われればそうなのですが、醸造経験はないし、ビール業界に携わったことのない私たちの提案を受け入れてくれるブルワリーはなかなかありませんでした。そのなかで、静岡県沼津市にある日本ビール醸造株式会社(以下、日本ビール醸造)さんが引き受けてくれることになったのです」とエピソードを話してくれました。
「日本ビール醸造さんは『私たちはこうしたものしか造りません』といったスタンスではなくて、私たちがやりたいことを楽しんで話を聞いてくれました」と当時のやり取りを振り返ります。
ストーリーから生み出されるレシピ!
創業から約2年、これまで5種類のIPAを造ってきました。彼らがビールのレシピを考案するときにどのようなことを考えているのでしょうか。
「私たちがビールを造るときに1番重視しているのが、ストーリーです」と語るのは月方氏。
「ビールのキャラクターをイメージしやすいようにこれまで造ったビールは誰でも知っているアニメのキャラクターをモチーフにしています」とビールをよく知らない方が飲んでも「あ~、確かにこの味だったら、あのキャラクターっぽいよね」と連想しやすいようになっています。
「私たちが商品に対する思いれとかを全部語れないと売ってはいけないよねと話しています。そして、語る内容もあまりマニアックになってしまうとビールマニア以外からは受け入れてもらえません」と若槻氏は話します。
10antsでは自分たちが表現したい内容に沿うキャラクターをイメージしてもらえるようビールはもちろん、ラベルまで気を配っています。
いずれは自社醸造所での醸造を!
「いずれは自社醸造所を立ち上げたいですね。その際には再現性を高められる醸造所にしたいと思っています。日本酒でいえば『獺祭』のような形でやれたらと考えています。杜氏さんがいなくても同じレベルの商品を造ることができる。ビールにおいてもシステム化できるところはしていきたいと思っています。」と月方氏は将来のビジョンを語ってくれました。
「そうすることで、海外のマイクロブルワリーのビールを日本でも受託生産できるようになって、もっと世界中のビールが身近なものになると思います」
現在でも大手ビール会社では一部の海外ビールを国内で生産しています。10antsでは海外のマイクロブルワリーのビールで挑戦しようとしています。もし、これが実現すると、船での長距離輸送における品質問題の解決への糸口になる期待がもてます。さらに国内で醸造、販売することで、関税の問題もクリアできると言います。価格が下がることは、ビールファンには嬉しい限りです。
「まだまだ夢ではありますが、パソコンで原材料をはじめ、醸造に必要な項目を選択するだけで、委託醸造を受託できる体制を造りたいと思っています」と3人は今後の展望を話します。
お話を伺うまではコスト面、委託醸造先についての話題になると思っていましたが、3人からは「10antsだからこそ可能なビール醸造」を聴くことができました。話をされているときの3人は少年のように夢を語り、その姿にとても惹き込まれました。
10antsが掲げる夢は日本だけではなく、世界のビールシーンを熱く、面白くしてくれる可能性があると思います。また、1つ大注目のブルワリーができました。
◆10ants Brewing Data
会社住所:東京都府中市四谷1-47-1
Homepage:http://www.ten-ants.biz/index.html
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。