ブルワーズ・カンファレンス
11/5(土)、両国「花の舞」で開かれたブルワーズ・カンファレンスに参加した。
キリンビールOBで現在はアウグスビールの本庄氏、博石館といわて蔵ビールOBで現在、甲府で開設する「アウトサイダー・ブルワリー」の準備中の丹羽氏が衛生管理に関するセミナーをおこなった。
本庄氏はドイツ留学や長年の大手ビールメーカー勤務で得た『微生物管理・微生物混濁乳酸菌のリスク・想定外菌種が生まれるバイオフィルム』など、丹羽氏は日本のクラフトビール創設期から現場で経験した具体的な事例をもとにタンクやケグの雑菌の除去法などを伝授した。
内容はどちらも、実に素晴らしかった。日本国中すべてのブルワーに聞いて欲しい内容だと思った。
セミナー後の質疑応答では、参加したブルワーから突っ込んだ質問も多数あり、有意義な会だった。
このようなカンファレンスを今後もおこなっていくことが日本のクラフトビール業界にとっては非常に重要だと感じた。
私は日本各地の醸造所を取材しているが、それぞれの醸造所にそれぞれの”やり方”があるんだなぁと感じることが多い。
そして、時としてそれが”我流”になってしまっているケースにでくわすことがある。
今回のカンファレンスに集まったり、各フェスティバルに集まるブルワー達は志が高いため、さほど心配ではないのだが、なかには「本当にこれで大丈夫なの? これでイイものが造れるの?」と首をかしげたくなる(と言うか背筋がゾッとする)醸造所も存在する。
そのほとんどが、十数年前に外国からほんの数週間だけやってきたブラウマイスターやビアコンサルタント(?)と称する人達に習ったことを延々と繰り返しているだけの醸造所である。そのうえ、その知識も設備もすっかり経年疲労している。
なかには、何年間も初期比重すら計ったことがなかったり、自分の造っているビールのIBUすら把握していないブルワーもいた。そのような人にかぎって、こちらが突っ込んだ質問をすると「俺はドイツの○○さんに習ったんだ!」と逆ギレすることが多いのでタチが悪い。
私は、日本にクラフトビールが解禁された数十年前に故マイケル・ジャクソン氏が日本のクラフトビールに対して語った言葉を思い出していた。
「ブルワーはわからないことがあれば他のブルワーにどんどん質問をしなさい。そして、それを訊かれたブルワーはその質問に知っていることをすべて語りなさい。
そんなことをすると大切な企業秘密が漏れてしまうと考える人もいるでしょう。
しかし、疑問を抱えながら間違った方法で造られた質の悪いビールを飲んだ消費者は『クラフトビールって不味いなぁ』と言うでしょう。
質の悪いビールを造ってしまったビール会社のビールを名指して『不味い』と言うのではなく、クラフトビール全体のイメージが『不味い』と思われるのです。
クラフトビール界全体が協力してクラフトビールの基準を高めていかないと、評価は上がりません」と。
クラフトビールは職人気質のブルワーが手作業で造りあげる作品である。だからこそ、技術やテクニックは伝承する必要がある。
門外不出、一子相伝などという時代ではない。いまだにそのようなことを言っている伝統工芸品がどんどん衰退していっていることを目の当たりにしている。
そしてそれは、マーケットの責任だけでなく、造り手の責任も大きい。自分で自分の首を絞めているにすぎないのだ。
独り勝ちしようとすれば、結局は全員で負けてしまう。独り勝ちではなく全員勝ちが理想ではないか。
今後、クラフトビール職人は横の関係を築き、さらにはその技術を伝承していく縦の関係(教育システム)も作っていく必要があるだろう。
もちろん、そのためにはブルワーだけでなく多くの人々の協力が必要となる。JBJAはその協力を惜しまないし、消費者もまたサポートしてくれると信じている。
2010年に私がシカゴで取材したブリューワーズ・カンファレンス(次回は2012年にサンディエゴで開催)では、醸造だけでなく販売、ブルーパブ・マネージメント&マーケティング、ビア&フードなど49もの講座が4日間で平行しておこなわれていただけにその規模の違いはまだまだ大きいが、今回のカンファレンスが日本における今後の第一歩となることを願っている。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。