鵺(ぬえ)の鳴く夜は…
ブラッセルズ株式会社から新しいビール「Nue(鵺)」が発表され、6月2日にテイスティング会がブラッセルズビアプロジェクト新宿にて行われた。ブラッセルズビアプロジェクト(略称BBP)とはベルギーの首都ブリュッセルで活躍中の醸造家集団だ。ベルギーでも最先端を行くとして評判の彼らが日本の京都醸造所と一緒に以前にもビールを作っているのだが、「Nue(鵺)」はそのコラボビールの最新作だ。BBPの名を冠したビアバーで行われたテイスティング会での「Nue(鵺)」の説明によると…
Nue(鵺)はもともと京都醸造所とBBPの柚子と山椒使用したコラボビール、「ゼニスゼスト」をシャルドネバレルで熟成させたものです。
このビールはBBPのバレルエイジ「トワイライトシリーズ」で全てに妖怪(怪物)の名前がついています。
前回リリースされたリヴァイアサン(旧訳聖書の龍のような怪物)はバーレイワインをコニャック樽で熟成させたものでした。
まずはもとになった「ゼニスゼスト」から。ビールが提供されてすぐの冷たい状態では山椒を強く感じるため、スパイシーさが印象的だ。味わいは軽やかにまとめられており、1年を通じて1杯目にふさわしい爽やかさ。飲むことを心地よく感じる。しかも、温度が上がってくると山椒が控えめになり、柚子が自己主張を始める。温度によって表情を変えるものの、それもまた可愛らしくビールちゃんと呼びたくなってしまう。こんな可愛らしいビールちゃんに何をしようというのだろう、という感情はお気に入りの清純派アイドルが濃厚なキスシーンのある映画の製作発表に出たときのような困惑とも似た感情を抱いた。
そもそもこのトワイライトシリーズはボトルのみの生産であり、実験的に樽詰めされたものはブリュッセルのタップルームとここ、BBP新宿でしか飲めない貴重なものだ。しかも、日本には5樽しか入荷されていない。
もう二度とは飲めないかもしれないという思いで樽の「Nue(鵺)」を口に含んだ。まろやか!柚子や山椒は角が取れ、存在を実感するのにゼニスゼストで感じたそれとはまったくの別物。ほんのりと酸味を感じるのはシャルドネの樽由来か、それともワールプールに入れたという黒文字の枝のせいだろうか。酸味の陰に隠れた甘味は温度が上がると苦味に変化する。口の中でビールがふわりと膨らむように味わいが広がっていく。また、ボトルも飲んでみたのだが、樽に比べると口に含んだときの味わいがシャープだ。より柑橘の、しかもレモンのような印象が強い。それがビー玉を床にぶちまけたように一気に舌の上に広がるのが面白い。「ゼニスゼスト」とは違うスパイシーさもあり、味わいに奥深さを感じる。
あえて比較するなら「ゼニスゼスト」をより近く感じるのは樽よりボトルだ。なのに、その印象は全く違う。「ゼニスゼスト」を昭和初期のおさげ髪の似合う女学生とすると「Nue(鵺)」は妖艶なマダム。たった3ヶ月の熟成がこんなにも彼女を変えてしまうなんて、という衝撃が再度確かめたい要求を生み出し、結果として杯が進み、気が付けば「Nue(鵺)」の虜になっていた。
げに鵺のある夜は恐ろしい…。
商品名 Nue(鵺)
アルコール度数 6.9%
醸造所名 ブラッセルズビアプロジェクト
※アイキャッチ画像、本文中の2枚目及び3枚目の写真の著作権はブラッセルズ株式会社にあります。無断転載禁止です。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。