【東海ビアイベント回顧録】静岡に洋酒文化を浸透させた「静岡クラフトビール&ウイスキーフェア 2017」
東海地方在住の筆者が、2017年に東海地区で開催されたイベントの中から、特に印象深かったもの2つを紹介するシリーズ(ひとつめは「第3回 岐阜ビール祭り」)
ふたつめは、こちらも今年で3回目を迎えた「静岡クラフトビール&ウイスキーフェア2017」
7月23日(日)にJR東静岡駅前の「グランシップ」で開催された。
目次
会場を拡大し、一気に濃度を増した3回目
昨年は静岡浅間神社の宴会場で開催された同イベント。
ところが、当初の見込みを大きく上回る来場者によって会場は息は息苦しさを覚えるほどの混雑だったため、今年は会場スペースを大幅に拡大。JR東静岡駅前の大型多目的施設「グランシップ」の大型バンケットに移した。「グランシップ」は数千人規模の大規模なイベントや展示会が開催される、県下最大級の施設だ。県内外から訪れる来場者が快適に過ごせるようにと、十分すぎる会場が用意された。
出店するビールメーカーも第2回の6社から倍の12社に増え、ウイスキーブースは6社、さらにおつまみやウイスキーと相性のいい葉巻ブースも出店し、ウイスキーもビールも存分に楽しめる環境が整えられた。
規模拡大に伴い、ボランティアスタッフの数も増員。
多くのスタッフにより会場設営も手際よく終わり、開場時刻には会場外に長蛇の列ができていた。来場者はパンフレットを手に、どのブースをまわるか、どのセミナーを受けるか、思い巡らせている。
そして11時、開会。
司会者のアナウンスでビールやウイスキーのカップを手した来場者がステージ前に集った。
そしてイベント主催者で、静岡市玉川地区の“ オクシズ ” と呼ばれる山間部にある「ガイアフロー静岡蒸溜所」の代表、中村大航社長による開会の挨拶の後、参加者全員で杯を合わせた。
今年も県内外から大勢の来場者が訪れ、広い会場内はみるみるうちに来場者で埋め尽くされる。
小規模であればウイスキーとビールの両方をテーマにするイベントもあるが、これだけの規模でウイスキーとビールが同時に楽しめる地方開催のイベントはそれほど多くはない。
ビールは大胆かつ斬新なラインナップ
出店ブルワリーのラインナップは他のビールイベントと大きく異なる。
ウイスキー好きが多いことを意識して、少々風変わりなラインナップを組んでいる。簡単に言えば、ストロングエールやバレルエイジなどフルボディが多い。真夏に開催されるイベントにもかかわらず、ハイアルコールなビールが集まる。そういった意味でも、このイベントはユニークだ。
今年初出展のいわて蔵ビール(岩手)からは、看板銘柄の「山椒エール」や「オイスタースタウト」を含む6種類が登場。代表の佐藤航社長に出展を決めた理由を伺うと、
「とてもお世話になった方に誘っていただいたこともありますが、ウイスキーとビール、両方が経験できる機会はなかなかありませんよね。それに、最近静岡のお酒文化がアツい! 今年は弊社も何かとご縁をいただいていて、僕が静岡に来たのはこれで3回目です(笑)。静岡ってお店とお客さんの仲がいいですよね。みんなが繋がっている感じ」
とイベントの印象も語ってくれた。
そして同じく初登場の志賀高原ビール(長野)は、「Miyama Blonde」「其の十」「ゆるブルwheat」など5種類を提供。
「実は静岡でのイベントは僕自身も初めてなんですが、皆さん弊社のビールをよくご存じで驚いています。ありがとうございます。先行開栓のビールもあるので皆さんの反応が見たいですね」
そう語るのは、ヘッドブルワーの佐藤栄吾社長。
よなよなエール(長野)も初参加。
コンビニやスーパーでも見かけるため知名度は高いものの、県内で樽生が飲めるお店は少ないので貴重な機会。時間ごとに提供されるスペシャルビール「軽井沢高原ビール」の夏季限定や木樽熟成の「バレルフカミダス」が目を引いた。
御殿場高原ビール(静岡)と伊豆の国ビール(静岡)も初参加。
イベント当時、御殿場高原ビールのブルワーを務めていた金丸氏曰く「ハイアルコールに飲み疲れた方が、さっぱりしたピルスナーやヴァイツェンを求めてブースにいらっしゃるようです」
箕面ビール(大阪)も初参加ながら、スペシャルビールをひっさげて登場!
大定番の「W-IPA」を貴重な「イチローズモルト(ベンチャーウイスキー/埼玉県)」のウイスキー樽でおよそ12カ月じっくり熟成させたストロングビール「イチローズモルト バレルエイジW-IPA」。ビールを超えたビールというレアな一品に、「箕面のアレ試した?まだなら飲んでみて!」とビアファンは興奮気味。おそらく、この日かなりのモルトファンが殺到したビールだ。
第1回目から参加しているベアードブルーイング(静岡)は、「ダークスカイ インペリアルスタウト」が大好評。
静岡でもごく一部の地域でしか飲めないサムライサーファービール(静岡)の「サムライサーファーレッド」も登場。スペシャルなビールが多くのモルトファンを魅了した。
各地の地ウイスキーを楽しむ
会場には国内外から人気のウイスキーやスピリッツが集い、来場者はブースでスタッフと熱心に話し込んだり、グループで飲み比べたりして、個性豊かなジャパニーズウイスキーを楽しんだ。中には稀少価値が高く高価なものもあったが、皆ここぞとばかりに堪能している。メーカーやインポーター、酒販店側はウイスキーに馴染みの薄い新たな層(ビールファン)にもプロモーションをかけることができるため、新規顧客の獲得にもつながる期待がもてる展示会だ。
初参加の福島県南酒販は、福島県郡山市の酒類卸売メーカー。
ブースには代表銘柄のブレンデッドウイスキー「963」のラベル違いが登場。力強くスモーキーな黒ラベルと、なめらかな口当たりの赤ラベルを比べて味わうことができた。
江井ヶ嶋酒造(兵庫)では代表銘柄の「あかし」を飲み比べられる。
信州マルス蒸溜所(長野)や、世界的にも注目を浴びる「イチローズ・モルト」のベンチャーウイスキー(埼玉) ブースは常に人だかりで、人気の高さをうかがわせた。
そしてガイアフロー静岡蒸溜所からは、輸入ウイスキーやラムの他に、テイスティンググラスやポロシャツなどのオリジナルグッズも並んだ。さらに、昨年秋より蒸溜を始めたばかりの静岡蒸溜所のニューポット(樽詰め前の原酒)も登場。熟成前の原酒をテイスティングできる機会はなかなかない。
充実したフードもポイントが高い。
静岡市内で人気の居酒屋やバーの名物料理が来場客をもてなした。
知的好奇心を満たすプロフェッショナルのセミナー
コンセプトは、「気軽にクラフトビールとウイスキーを楽しむ!」
しかし、このイベントはただお酒を飲み比べられるだけではない。
ビールとウイスキーそれぞれで、その道のプロフェッショナルが講師を務める45分間のセミナーが開催される。どれも初心者から玄人まで満足できる内容だ。今年は昨年より数が増えてビールとウイスキーで3コマずつ、計6コマ開催されたが、数に限りがあるため、今年も受付開始からわずかでほとんどが満員となった。
そこで受講した3つのセミナーを簡単に紹介したい。
【よなよなエール/バレル(木樽)熟成ビールについて】
講師はバレルエイジ担当の田上氏
バレルエイジの歴史、熟成樽とビールの組み合わせ、エイジング(熟成)、ブレンディングの種類について解説。そしてヤッホーブルーイングのバレルエイジドビール「バレルフカミダス」の紹介。
どんなスタイルのビールで、どれぐらい寝かせたものを、どのタイミングで、何回ブレンドするのか。それをどのような環境でどれぐらいの期間熟成させるのか……。そんな気が遠くなるほどの工程を経て造られるバレルエイジドビール。組み合わせの妙で味わいも無限に広がるため、完成したビールはまさに一期一会だ。
ジャパニーズウイスキーが世界的にも注目を浴びる中、日本のクラフトウイスキーと日本のクラフトビールを組み合わせたら、どのような一期一会のビールが誕生するのか? そんなバレルエイジの尽きない魅力と醍醐味を、田上氏が良く通る落ち着いた声で語ってくれた。
【反射炉ビヤ/若者視点のクラフトビールとユニークなビール造り】
3名で平均年齢20代という若手の醸造チームで成り立つ反射炉ビヤ。
最初に講師を務めた山田氏は、「若者の酒離れ」をテーマに、統計データに基づくクラフトビールのマーケティング分析をプレゼン。入社9カ月で20種類以上のレシピを考案し、80回以上の仕込みを経験したという山田氏の「同世代が楽しめるようなビールを造り、クラフトビールを通じてお酒好きの若手を増やしたい」と熱弁をふるった。
後半、阿久沢氏(※)のスピーチは、ブルワリーの歴史と概要、ビールのラインナップやユニークなネーミングの由来、そして反射炉ビヤが目指すところについて。反射炉ビヤを “ ビール業界のインディーズバンド ” と表現した阿久沢氏は、「海外発祥のものに独自の技術や文化で改良を重ね、昇華させる日本の改良力」と、自身が考える「日本らしいクラフトビール」についての考察を紹介。その独創的なアイディアや、流れるようなトーク力に聴衆は一気に引き込まれた。
※現在は反射炉ビヤを退職(情報は2017年7月取材時点)
【ガイアフロー静岡蒸溜所/静岡から世界へ!〜静岡蒸溜所の挑戦〜】
セミナーのトリは、ガイアフロー静岡蒸溜所の中村社長。
テーブルに置かれた8つのサンプルとリストを目にして、参加者のテンションは一気に高まる。やはり、話を聴きながら実際に試飲できるセミナーは魅力的だ。
中村社長からは静岡蒸溜所の紹介と、2016年秋から始まった製造の様子がスライドで伝えられたあと、試飲タイムへ。8種類のサンプルは、比較しやすいように2種類がセットになっている。同じ原酒で樽の違い、加熱方式での違い、熟成前のニューポットと熟成して2か月、3か月、5ヶ月が経過したものの違い、さまざまな角度から比較できるような配慮がされている。
筆者のようなウイスキー初心者でも、これがとても貴重な機会だということが理解できる。
ガイアフロー静岡蒸溜所でウイスキーをつくるのは、日本のクラフトビール黎明期からブルワーとして第一線で活躍し、数々の魅力的なビールを世に送り出してきた高浩一氏だ。高氏がその豊富なビール醸造経験も活かして生み出す静岡の地ウイスキー。どのような形で琥珀色の液体に溶け込み、発現するのか。2020年のオリンピックイヤーが今から楽しみでならない。
洋酒文化の高まりと期待を肌身で感じられる
大盛況のうちに幕を閉じた「静岡クラフトビール&ウイスキーフェア 2017」
主催のガイアフロー株式会社の中村社長に、イベントの所感と今後の展開について伺った。
「3年目となる今年は、前回の倍の規模で開催したところ、ご来場もほぼ倍となる1,200名ものお客様にご来場いただき、『とても楽しかった!』という感想をたくさんの方々からいただきました。クラフトビールとウイスキーのジョイントという、全国的に見てもユニークな試みに対し、着実にファンが増えていることで、静岡に洋酒文化が広く、そして深く浸透していく手応えを感じています。
本年は、静岡フェアが全国的にも認知されてきたようで、静岡県外から来場された方も多くいらっしゃいました。実際、前日に開催した静岡蒸溜所のオープンデーでは、参加された100名弱のうち、4分の3の方は静岡県外からお越しいただき、ボランティアスタッフも県外から多くの方にご協力いただきました。静岡という土地が人気の日本酒だけでなく、ビールやウイスキーなどでも豊かな文化を持つ地域だということを多くの方に知っていただけたら嬉しいです。
来年は、さらに多くの方に楽しんでいただけるよう、より広い会場や複数日での開催を検討しています。静岡をクラフトビールとウイスキーで染めていく週末にしていきたいと思います」
かつてお酒といえば日本酒、吟醸の国として知られていた静岡だが、洋酒文化は確実に静岡に溶け込み始めている(もちろん日本酒も変わらず人気だ)。事実、静岡市ではここ1~2年で個性あふれるビアパブやバーが一気に増えた。
ウイスキーファンがビールへ、ビアファンがウイスキーへ。
それぞれのファンが交流し、互いに知識を深め、楽しみを広げている。
静岡に洋酒文化が根を下ろし始めている証だ。
来年の開催日は、2018年7月28日(土)~29日(日)の2日間。
会場は「静岡市民文化会館」と決まった。
JR静岡駅周辺の繁華街が近いこの会場なら、参加ついでに静岡市内のバーやビアパブをまわることができる。遠方の場合は宿泊にすれば静岡の夜を存分に楽しむことができるだろう。
さらなる盛り上がりと刺激が約束された2日間だ。
※最新情報はガイアフロー静岡蒸溜所HPのブログや公式facebookページでご確認を。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。