[ビアバー,ブルワー,新商品情報]2018.1.19

ビア女の酒場放浪記(46)世界遺産の屋久島で捕まえろ!「Catch the Beer」

屋久島は鹿児島県本土から南南西へ約60kmの太平洋に浮かぶ周囲132kmの島。
鹿児島空港から飛行機で約35分、鹿児島市内から高速船で約2時間の場所にある。

千尋(せんぴろ)の滝。花崗岩の一枚岩を水がドウドウと流れ落ちるダイナミックな眺め

島のほぼ全域が山地で、九州最高峰1,936mの宮之浦岳を始めとする山々がそびえる。
雄大な山岳や苔むした原生林は大変美しく、島は1993年にユネスコの世界自然遺産にも登録されている。

そんな屋久島に2017年7月、クラフトビール醸造所「Catch the Beer」が誕生した。

生まれてくる子供のために移住を決意

屋久島でビールを造るのは江川竜彦(えがわたつひこ)さん。
自然に寄り添う暮らしを求め、屋久島に移住してくる人は多い。
江川さんもそのひとりだ。
2011年の東日本大震災の年に、子供ができたことを機に千葉から屋久島に移住してきた。
子供がのびのびと育つことができる環境、特に食の安全を考えた末の決断だった。

屋久島では観光センターの飲食店や建築現場などで仕事をしていた。
しかし頭にあったのは、東京で好きだった“ビール”を事業にすることだった。

「Catch the Beer」 江川竜彦さん

「地元の人たちと話をするうちに、“屋久島には地元のビールがない、水も空気も綺麗で果実も豊富に採れるのにもったいない”という話になったんです」
と江川さん。
それならば自分たちで醸造所を造ろうとチャレンジが始まった。

醸造所とは思えないウッディな一軒家。小さな入口の看板が目印だ

まず当時勤めていた会社の有給休暇を取り、関東の小規模醸造所で修業をした。
理想の醸造所のイメージ像ができると、空港近くの小瀬田にある民家のリフォームに自らの手で取り掛かった。
建築の現場を経験していたことが大いに生かされたという。
ギリギリで設備の調節が必要になるなど、試行錯誤を繰り返しながらも、2017年に7月5日に免許を取得。同年10月15日にプレオープンにこぎつけた。

月に6~7回程度、小さなタップルームの隣にある醸造所で仕込みをする。

タップルームに横にある小さな醸造所。1回の仕込み量は100L程

屋久島でしか造れない生きたビールを

ビールは定番が5種類と、個性的なビールがシーズナルで登場する。
副原料には、屋久島の特産品であるタンカンや枇杷、パンションフルーツ、自家栽培のコリアンダーシードなどを使用。無農薬のものを厳選して使用している。

タンカンを酵母・スタイル違いで仕込んだり、枇杷の種を漬け込んだビールの熟成期間を変えて提供したりと、ビール好きの心をくすぐるマニアックなビールも。

タップルームでは5種類のドラフトビールとボトルビールを飲むことができる。
島のホテルや飲食店、土産物店にもボトルビールを卸しており、ほとんどが島内で消費されてしまうため、島外では入手困難だ。

ラベルのデザインは島在住のアメリカ人デザイナー、エリック・ヴィヴィアンさんによるもの

特に注目したいのが「YAKUSHIMA CEDAR(ヤクシマ シダー)」だ。
副原料に屋久島の杉を使用したベルジャンアンバーエールだ。
精油を抽出した後の屋久島産の杉のチップをワールプール時にビールに付け込んでいる。
屋久島で育つ杉は樹脂分が多く、抗菌性耐久性が高く長寿であることが特徴だ。
杉の桝で飲んだ時のようなふんわりとした杉の気品ある香りと、アロマホップに使用したチャレンジャーのフラワリーな香り。
じんわりと押し寄せてくるホップの苦みが心地よい。

ボトルは無濾過だ。瓶内で二次発酵が進み発泡がまろやかで舌にやさしい。

樹齢4000年以上と考えられている縄文杉。屋久島の標高500mを超える山地に自生しているスギは屋久杉と呼ばれる

Catch the Beerでは屋久島の特色を生かしたビールを造っていきたいと考えています。
季節ごとの果実やスパイス、山から湧き出る清冽な水はもちろんですが、酵母にも注目しています。
例えば森で採取された“屋久島千寿天然酵母”を使い、ランビックのようなビールが造れないか模索しているところです」と江川さん。

悠久の自然とうまいビールで、パワーを充電

醸造所の庭に腰かけ、出来立てのビールをいただいた。
うっすらと霧がかかった屋久島の森を遠目に眺めながら、ゆったり島のビールを味わっていると、すべての感覚が研ぎ澄まされるような気になる。
肌に触れる湿度を含んだ風、木々のざわめき、落ち葉の香りの狭間に感じる麦汁の甘い香り、そしておいしいビール。
すべてが心地よい。

ウィルソン株。中は10畳ほどの空洞になっている

昔からの島人も移住者も観光客も、醸造所の庭に集まりビールを話のネタに、交流する未来が見えた気がする。

江川さんに話を向けた。
「そうですね。いつかビールを中心に輪が広がり人をつなぐ場所になればいいと思います。
オープンしたての今は安定してビールを造ること、何より僕自身の家族を大切にすることを一番に考えています。子供がまだ小さいので」
と穏やかな笑み。
あせらずじっくりと。人生に必要なものを知っている、島人らしい答えが返ってきた。

とはいえ頂いたビールたちは、オープンしたてとは思えないほど完成度が高い。
個性的なラインナップに好奇心も刺激され、1杯で帰るつもりが杯を重ね、ボトルとグラウラーのお土産まで購入してしまった。

是非、屋久島を旅してその空気ごと捕まえて頂きたいビール、Catch the Beerだ。

ウィルソン株の洞の中から空を見上げるとハートの形に

Catch the Beer
住所:鹿児島県熊毛郡屋久島町小瀬田9-5
営業時間:月~土曜日 13:00~18:00
定休日 :日曜日
*臨時のお休みがありますのでFacebookやHPにてご確認ください
WEB:  http://www.catchthebeer.com/

Catch the Beerビア女の酒場放浪記屋久島

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

(一社)日本ビアジャーナリスト協会 発信メディア一覧

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この記事を書いたひと

コウゴ アヤコ

ビアジャーナリスト

1978年東京生まれ。看護師を経て、旅するビアジャーナリストに転身。旅とビールを組み合わせた「旅ール(タビール)」をライフワークに世界各国の醸造所や酒場を旅する。ドイツビールに惚れこみ1年半ドイツで生活したことも。『ビール王国』(ワイン王国)、『ビールの図鑑』(マイナビ)、『BRUTUS』(マガジンハウス)など様々なメディアで執筆。

最近はキャンプとサウナにドハマり中。そこにもやはりビールは欠かせない。最高の「ビアキャンプ」&「ビアサウナ」を求めて、日本全国津々浦々旅をしている。

■執筆歴■
-海外生活情報誌ドイツニュースダイジェストで「旅ールのススメ」連載中
ビール小話 (ドイツニュースダイジェスト)2009~16年連載
-東海教育研究所かもめの本棚onlineにて「旅においしいビールあり」
-クラフトビールで乾杯!(日本トランスオーシャン航空機内誌Coralway2020年9.10月号特集)
-ビール王国(ワイン王国)
-ビールの図鑑・クラフトビールの図鑑(マイナビ)
-BRUTUS(マガジンハウス)
-an・an(マガジンハウス)
-CanCam(小学館)
-DIME(小学館)
-東京人(都市出版)
-るるぶキッチンmagazine 秋冬号(JTBパブリッシング)
など
■出演歴■
-アサデス。7(KBC九州朝日放送)
-KURASEEDS(J-WAVE81.3FM)
-食べて!歌って!まるごとユーロ!ドイツ語(NHKラジオ第2)
-トークイントーク(フレンズFM)
-売れ筋RANKING~クラフトビール(KTSライブニュース)
-よじごじDays(テレビ東京)
など

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