[JBJA活動,イベント,コラム,ブルワー]2018.2.5

【福島】日本の醸造家に日本のホップを! 田村市産のホップでジャパニーズスタイル確立へ。地域循環型クラフトビール事業が進行中

7月23日追記【醸造長&アシスタントブルワー決定】
醸造長とアシスタントブルワーが決定しましたので、募集要綱は取り下げました。

かつては国内有数のホップの産地だった福島県。
1950年代には県内各地で栽培畑が見られたものの、やがて葉たばこの栽培が盛んになり、県内のホップ栽培は途絶えてしまった。今、その福島の中通り地方の阿武隈高原に位置する田村市で、協力農家や自治体の協力を経て、国産ホップを使った「ジャパニーズクラフトビール」を軸とする、循環型地域活性プロジェクトが進行している。

【日本のブルワーに日本のフレッシュホップを】

そう話すのは、国産ホップの生産販売を手がける「株式会社ホップジャパン」の代表、本間誠氏。2017年に福島県田村市の農家と協力して、約20aの畑で国産ホップの試験栽培を成功させた。同社では、2018年に新たな栽培農家を迎えて耕作地を1haに広げ、福島県田村市で自社栽培のフレッシュホップを使ったクラフトブルワリー設立を進めている。

▲山形、宮城を中心とした契約農家のホップ畑。収穫期を1か月後に控え、力強く成長している


国産ホップとビールを軸にした「ジャパンブランド」の確立

電力会社の従業員としてシアトルで2年間暮らした本間氏が、地元コミュニティにとけこみ、地域経済を下支えするアメリカのクラフトビール文化に刺激を受け、2015年に仙台を拠点として設立したホップジャパン。

現在は、東北の契約農家で栽培したリーフホップの販売や、福島大学の協力を経て実施する米国のビール醸造技術学会 (ASBC) の分析法に基づいたホップの成分分析(α値酸値、β酸値測定)サービス、生産者と醸造者が直接取引で国産ホップを購入できる取引サイト「J.HOP Market」の運営や、関連コンサル業務を主体としている。

「一般の方も利用できる『J.HOP Market』では、思いがけない需要があることがわかりました。たとえばパン製造やウイスキー、ジンの仕込みにホップを使うんです。品種によっては200gから購入できるため、個人でもお試し感覚で使えるのだと思います。でも、ただホップを栽培して販売するだけでは、企業としても長続きしません。私は醸造者と生産者が国産の原材料を直接取引することで、輸入に頼らない本物のジャパニーズクラフトビールを確立して、世界に誇れる“ジャパニーズスタイル”を発信していきたいと考えています。いずれホップだけではなく、モルトやイーストなどビールの国産原材料を自由に取引できる場にしたいと考えています」。



「そして福島県田村市で生産したホップを流通させ、その国産ホップを使ったクラフトビールで人やモノを呼び込み、つなぐ6次産業化を目指しています。最終的にはホップのツルを紙の原料にしたり、麦芽カスを家畜飼料にしたりする再利用に加えて、余ったビールを低濃度バイオエタノール発電に利用する『酒燃料サイクル発電』で0次産業化へ。福島大学との連携で、ビールを原料として再生可能エネルギーであるバイオ燃料が製造できることが分かっています。つまり、ホップ産業をはじめとして、経済のすべてが循環するまちを田村市で叶えたいんです」。

原料であるホップの栽培から加工品のビール製造、県外からの集客を見込んだ自社レストランやイベントなどでの地元消費に加えて、廃棄ビールや原料をリユースした再生エネルギー利用の推進で、環境保護と企業としての持続可能性を追求した資源循環型社会へ。

――なんというスケールの大きな計画だろう。

まるで弧を描くように、ホップとビールが循環する都市。
「Grow(栽培)」「Brew(醸造)」「Serve(サービス・楽しむ)」、そして「Reuse(再利用)」。それぞれの産業ですそ野を広げ、クラフトビール文化の浸透と拡大を目指す。実現すれば、国内において理想的なロールモデルが誕生するはずだ。年々増えつつあるローカルブルワリーの多くが「地産ビールで地域活性」を掲げているが、それを数歩も進めた壮大なビジョンだ。あまりに壮大な広がりと奥行きを秘めた夢物語に当初は圧倒されたが、本間氏が「“グリーンパーク” ホップ・ブルワリー構想」と名付けたそのビール事業は絵に描いた餅ではない。実現に向けたプロセスを着実に歩んでいる。

 

復興ファンドの融資を受け、官民一体で取り組む事業

1次産業から3次産業まで事業を拡大し、さらなる複合経営を実現するためには、多額の資金と企業の協力、何よりも地元自治体の理解と協力が必要不可欠だ。本間氏の構想は、福島銀行が立ち上げた「福島に人材を呼び込み、地方創生を支援する」復興ファンド(福活ファンド)の2016年の投資先企業に認定。融資を受けた後、ホップジャパンは福島に本社を移し、同県内で途絶えてしまったホップ栽培の復活に本格的に取り組んだ。

▲同社が現在取り扱う品種は、信州早生、かいこがね、ソラチエース、カスケード、センテニアル、マグナム、ナゲット、スターリングの8種類

▲収穫したホップは、生ホールリーフホップのチルド直送、冷凍生ホールリーフホップ、乾燥ホールリーフホップと、出荷タイプを選べるようになっている

全国的なクラフトビールの盛り上がりとは裏腹に、実は国産ホップの状況は決してかんばしいとはいえない。
平成28年度の国産ホップの生産状況は、全国1位が岩手県(60ha)、2位が秋田県(37ha)、3位が山形県(25ha)となっているが、平成元年からの推移表を見ると、年々栽培面積、生産量ともに右肩下がりの下降曲線を描いている。昨年度は連続的な台風の上陸によって収穫作業中のホップに被害が出たため、1等品率が例年より低く、収穫量、生産額ともに前年度を下回った(※1)。

そのような状況の中、寒暖の差の激しい高原都市である田村市の気候や、契約農家や地元企業との連携で用いるホップ専用の肥料が功を奏し、昨年は同品種標準値よりも豊富なルプリンを含む良質なホップが田村市で収穫された。

▲2015年の信州早生フレッシュホップの初出荷分はベアードブルーイングへ。「信州早生ウェットホップエール」、「信州早生ドライホップエール」は直営店や都内のフレッシュホップフェストでも提供された(右端が本間誠氏)

ホップ農家を増やすために、栽培の省力化を実現

生産量をあげるためには栽培地を増やす必要があり、それにはホップ農家の育成や就農サポート、安定した売り上げが見込める販売先(ブルワリー、ブルワー)の確保も考えなくてはならない。

「ホップの栽培面積を拡大するためには、農家の数を増やすことも必要です。しかしホップ栽培には固有の課題も多く、野菜や果物と比べて農家のなり手が少ない。高額な設備投資の問題もあります。そこで、少しでも設備環境を改善して農家と生産量を増やし、品質向上を狙う取り組みをしています」。

▲ホップ栽培用の柱を建てていく様子。通常は高さ5mだが、手間のかかるつる下げ(棚上部の過繁茂を防ぐためにホップの根本を2m程度引き下げる作業)を行わないため、約7mの柱を建てる

重労働がホップ栽培のハードルのひとつ。
高さ6~7mまで育つホップの収穫作業は、トラックに積まれた昇降式リフトに乗って行うのが一般的だ。しかし過酷な高所作業は、高齢者や女性が行うには体力的な負担が大きいうえに危険も伴う。

▲オリジナルのウインチ式設備。ハンドルを回すとワイヤーが自由に上下できる

そこで、ホップジャパンでは地元の設備会社の協力を得て、ウインチ式の栽培設備を開発した。

▲宮城県石巻市の契約農家での収穫作業の様子。作業時間を大幅に短縮できる

「収穫時はホップ棚のワイヤーをウインチで下げることで、つるを地上におろして手もとで作業ができます。これによって作業時間を短縮できるので、ホップの生育状況に合わせて複数回の収穫ができるんです。未成熟の毬花を含めて機械でまとめて収穫する方法に比べたら、収穫適齢期の毬花が長期間で効率よく収穫できる。手摘みなので傷みが少なく、商品価値が高まります」。

設備投資で作業負担が減ることは、最終的にホップの商品価値向上につながる。
しかし、どれだけ良質なホップができても販売先がなければ意味がない。そこで、栽培の省力化だけではなく、先述したホップの自由売買市場「J.HOP Market」の充実と、フレッシュホップの流通拡大に必要な物流、インフラ整備も課題としている。さまざまなハードルはあるものの、本間氏の構想に共感する地元企業や行政のサポートを受けながら、ホップジャパンの構想は着実に輪を広げている。

 

阿武隈高原に位置する緑豊かな田村市

▲深い緑に覆われた自然豊かな山間部にある田村市。視界を遮るもののない、壮大な景色が広がる

復興庁や自治体からビール醸造拠点として紹介されたのは、中通りの中山間部にある田村市だった。阿武隈高原の中央に位置し、ゆるやかな山地となだらかな丘陵地帯が広がる人口約3万8千人の都市だ。その東部にある「グリーンパーク都路」。

▲大自然に囲まれたアウトドア施設「グリーンパーク都路」。バーベキューハウスやオートキャンプ場、パークゴルフ場などもある

広大な敷地内に牧場やオートキャンプ場、BBQ設備や公民館などを備える複合施設を改修して醸造設備を設置し、いずれは試飲スペースやレストラン、お土産ショップなども設ける予定だ。

 

「ブルワリー予定地は東京から新幹線と車で3時間半、仙台からも2時間半ほどかかりますが、阿武隈の大自然に囲まれた緑豊かな環境です。将来的にはキャンプサイトを再整備して、ここで都路の『灯まつり』と連携したビアフェスや、ホップの収穫体験ツアーも行いたいですね。地元の農畜産物とコラボした料理や商品を開発して、交流と体験を重視したイベントなども開催したいと思っています」。

地域とともに、福島の農業の再生を目指す。
しかし、福島を拠点とすることで未だに拭えないのが、福島第一原発事故による放射性物質に対する不安だ。田村市東部の一部地域は、福島第一原発から半径20㎞圏内の旧警戒区域、20~30㎞圏内は緊急時避難準備区域に指定されたが、現在はそれぞれ解除され、住民の多くが帰還している。現在も毎月実施されている放射線モニタリング調査によると、最新調査結果においてグリーンパーク都路を含む市内のほとんどの観測地点で国基準の空間放射線量(毎時0.23マイクロシーベルト)を超えず(※2)、食品や飲用水からも厚生労働省が定める基準値以上の測定結果は出ていない(※3)。
阿武隈山系に守られた山間部にある田村市は、もともと地形条件的に周辺都市と比べて放射線量が低かった。しかし、それでも消費者の不安の声はやまない。そのことに一定の理解を示しつつ、本間氏は寂し気な表情を浮かべる。

「福島の農作物や土壌に根強い不安が残っているのは事実です。安全性がデータで証明されても、拒否反応を示す人は必ずいるでしょう。それについてはもうどうしようもないですね。私はこの地で一生懸命頑張っていこうとする企業や農家、行政の支援を受けて、田村市で日本スタイルのクラフトビール文化を浸透させたい。その思いで現在の事業と将来の下準備をしながら、各地の講演会などで地道に構想を伝えています」。

この本間氏の取り組みに田村市も大きな期待を寄せ、地元の観光資源の活用やホップ農家に興味を抱く新規就農者へのサポートなど、協力的な姿勢を見せている。

▲仙台のビアバー「アンバーロンド」主催で開催した収穫体験イベント(2016年8月)。石巻市の契約農園でホップを収穫し、BBQとクラフトビールを楽しんだ

▲収穫したばかりのホップは簡易インフューザーを使ってフレッシュな香りと苦味を体験

「たとえば、国の天然記念物に指定された鍾乳洞である『あぶくま洞』。ここのミネラルたっぷりの天然水を仕込みに使ったり、年間を通して涼しいあぶくま洞を地下セラーとしてエイジングビールをつくったり、都路ブルワリーでは田村市のホップを使い、田村市でしかできないビールをつくることができます。ホップのキャラクターを活かし、将来的には地元食材を使った料理に合うビールをつくりたいですね」。

ブルワリー構想について語った本間氏は、このビジョンを共有し、実現するパートナーを必要としている。2018年秋~2019年春の開業を目指す「都路ブルワリー」のブルワーだ。

 

必要なのは想いを共有し、ともに実行するプレイヤー

都路ブルワリーの魅力について、本間氏は次のように話す。

「なんといっても国産ホップを自由に使えることですね。つくりたいビールを表現するために、さまざまなキャラクターのホップを使うことができる。さらに、田村市にはホップの農地や栽培に適した気候環境があります。地域の人々や地元自治体が積極的に協力してくれるという土壌があるので、県外から来た人でもなじみやすいと思います」。

他の農村集落が抱える問題と同じように、本間氏が必要としているのは、この実現可能性のあるプランを「実際に実行してくれるアクティブなプレイヤー」だ。都路ブルワリーは、事業の中核となるブルワーを募ると同時に、ロングテールの挑戦を叶えるプレイヤーを募っている。この事業は多くの企業や人々をプレイヤーとして巻き込むことで、それらの力を借りてさらなる広がりと深みをもつことができるプロジェクトだ。

そんな都路ブルワリーのサポーターの一人。
常陸野ネストビールやAOI BREWINGのヘッドブルワーを務め上げ、都路ブルワリーの設備アドバイザーを担当する高浩一氏は、田村市のホップ・ブルワリー構想について太鼓判を押す。

「自社栽培のホップを使うブルワリーは増えていますが、現状では多くが商品のごく一部に使用する程度で、結局は他社や海外から購入したホールやペレットを使うのが一般的です。ホップの全量、しかも多品種を自社栽培のホールホップでまかなうブルワリーなんて、日本広しと言えどもここだけじゃないでしょうか。それも乾燥させない生のホップも使い放題! 都路ブルワリーでビールをつくれるブルワーは幸せだと思いますよ。設備面のアドバイザーとしては、設備はある程度きちんとしたものを選ばないと、結果的にそれが品質につながると思っています。とはいえ予算は限りあるものですから、限られた条件内での最適解を選ぶようにしています。生のホップを十分に活かせる設備であることも考慮しないといけません。実は、とっておきの隠し玉も考えています(笑)」。

そして高氏に本間氏の人柄について尋ねると、「東北人らしい、素朴で純粋、まじめな人」と話す。

「そんな裏表のない人柄に惹かれて、多くの人たちが本間さんに協力しようと集まっています。夢の実現のために熱い情熱を持っている人なので、ゆっくりではあっても、さまざまなアイデアをひとつずつ着実に形にしていく力がある人です。単なる地域の特産品を使ったビールや地ビールで町おこし、にとどまらず、田村を日本のホップの一大産地にして、地域産業の一翼を担うという壮大な夢を抱いています。その心意気に同調して、契約農家さんはどんどん増えていますし、行政も全面的な後押しをしているという理想的な展開を見せています。昔は大風呂敷を広げすぎて胡散臭さが漂う人を業界内でも見かけたものですが、本間さんにはその心配が一切ない(笑)。やはり、本間さんの人柄が大きく関係しているのでしょうね」。

ビールづくりを目指す人、田舎暮らしを志す人、就農を考えている人、福島や東北を応援したい人、あらゆるステージで、プレイヤーとして挑戦をしてくれる担い手を必要としている。日本のクラフトビール文化の発展につながる大きな可能性を秘めたプロジェクトだ。

▲「日本のビアカルチャーの未来につながるプランです。お気軽にお問い合わせください」と本間氏

《参考文献》
※1 岩手県農林水産部農産園芸課「平成28年度 ホップに関する資料」(2018/01/26参照)
※2 田村市ホームページ「環境放射線モニタリング測定値」(平成30年1月9日PDF)(2018/01/26参照)
※3 田村市ホームページ「食品等の放射能測定結果について」(測定結果.平成29年7月分PDF)(2018/01/26参照)
【資料・画像提供/株式会社ホップジャパン】


【企業概要】
「株式会社ホップジャパン」

所在地:福島県福島市三河南町1番20号コラッセふくしま6F
電話:024-525-4050
FAX:024-525-4089
代表:本間誠
設立:2015年6月
事業:国産ホップの栽培・成分分析・流通・販売、およびコンサル業務、自社クラフトビールの醸造・販売(予定)
公式HP株式会社ホップジャパン
公式FB:https://www.facebook.com/hopjpn/
J.HOP Market:https://hopjapan.com/jhopmarket/

※最新情報は公式HPまたはFacebookでご確認ください。

J-HopMarket国産ホップ地ホップ田村市福島県都路ブルワリー

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

山口 紗佳

ビアジャーナリスト/ライター

1982年愛知県知多半島出身、大分県大分市在住。中央大学法学部卒業。
名古屋で結婚情報誌制作に携わった後、東京の編集プロダクションで企業広報、教育文化、グルメ、健康美容、アニメなど多媒体の編集制作を経て静岡で10年間フリーライターとして活動。現在は大分拠点に九州のビール事情をお伝えします。

【制作実績】
フリーペーパー『静岡クラフトビアマップ県Ver.』、書籍『世界が憧れる日本酒78』(CCCメディアハウス)、雑誌『ビール王国』(ワイン王国)、グルメ情報サイト『メシ通』(リクルート)、ブルワリーのウェブサイトやPR制作等

【メディア出演】
静岡朝日テレビ「とびっきり!しずおか」
静岡FMラジオ局k-mix「おひるま協同組合」
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静岡新聞「県内地ビール 地図で配信」「こちら女性編集室(こち女)」等

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