ヤァマット!
フランスのブルターニュというところはケルト民族が多く住んでいる。シードルが盛んにつくられているが、ビールの歴史もまた古く、醸造所も多い。そこにある人口3,000人ほどの小さな海辺の町エターブル シュール メール。生活面はだけではなく、精神的にも海と関わりが深いブルターニュ北部に位置する街は独特のケルト民族に対する誇りと自尊心を育むのに適している。公用語はフランス語だが、その民族特有の言語も存在する。ヤァマット(Yec’ Hed Mat)というのはケルト民族が乾杯のときに使う言葉だ。「アンクル」という醸造所は2016年6月、そんな土地に誕生した。
生産量は月間40hℓ。全て手作りのマイクロブルワリーだが、特筆すべきは国際信号旗をあしらった洗練されたラベルとスタイルにとらわれないビールづくり。それはさながら海に出てしまえばどこにだって行けるんだ、という彼らの心意気だ。
今回は笹塚で彼らのビールを常設しているメゾンブルトンヌ・ガレット屋さんというお店に伺ってきた。ガレットはそば粉で作られたクレープのようなものだが、ブルターニュ地方のソウルフードとも言うべき「ガレットソシス」は中にソーセージを入れて巻いてあるものだ。1月末に開催された「アンクルと楽しむディナー」と題されたイベントではアンクルのラベルのデザインを手がけたバンジャマン氏も来日、参加していたのだが、大変アットホームな雰囲気であった。
【SESSION IPA】
タイプ: エクストラホッピーエールビール
アルコール度数: 4.8%
苦味:39
アンクルIPAというビールも作っているのだが、その妹分とされる。泡のきめが細やかで泡持ちも良い。どちらかというとアメリカンIPAに近い柑橘系のアロマと舌の上にはっきりと残る苦みはグレープフルーツの白いスジのような味わい。しかし、飲み込んだ後にモルトの甘みをじんわりと感じられる。アンクルIPAより苦いイメージだったが、モルトの甘みがそれを包み込むような優しさがセッションIPAとされるゆえんか。
【SMOKEHOUSE】
タイプ: シーズンビール
アルコール度数:5.0%
苦味:20
濃い目にローストしたモルトを煮沸し、pH調整のために加水する水にスモークしたアールグレイとカルダモンを入れている。彼らにとってアールグレイはアングロサクソンが飲むイメージがあるのだとか。澱によりカルダモンを感じる。ラオホとは違った柔らかな燻製香が心地よいだけではなく、いろいろな料理に合わせやすい。私が伺った日は魚介のロールキャベツが提供されていたのだが、スモークハウスと合わせるとソースに厚みが増し、スモークハウス自体の香りもより豊かに感じられ、これぞペアリングのだいご味と感動した。なお、クリスマスのころに作られるシーズナブルビールのため、現地でも通年販売はされていない。
【SORACHI ACE】
タイプ: シーズンビール
アルコール度数: 6.5%
苦味(IBU): 10
日本生まれのホップ「ソラチエース」が、アメリカ経由でブルターニュに留学したらこんな風になるのか、と驚いた。開栓してすぐにときにはっきりと感じるエステル香とソラチエースの持つ苦味が「苦いバナナ」といった具合の味わいとなる。しっかりしたレモンの香りと特有の苦味のバランスが素晴らしく、アルコール度数が高くない割にぬるなっても楽しめる味わい。
【TAGARIN ALE 】
タイプ:ペールエール
アルコール度数:4.8%
苦味:18
”タガラン”は、彼らの住んでいる街「エターブル・シュール・メールの住人」という意味なのだとか。軽やかで何杯でも飲めそうなすっきりとした味わい。これがアンクルのフラッグシップビール。ランチ、あるいは夏場に朝から気軽に飲みたい。ちなみに東京に住んでいる人は「トウキョウイット」笹塚に住んでいる人は「ササヅカン」と呼ばれるとか。トウキョウイットならもんじゃ焼きと合わせて楽しみたい味わいだ。
どのビールも個性的であり美味しいが、それぞれの料理もまた美味しく、感動的であった。ソムリエの資格を持つ女性シェフの笑顔がキラキラと輝くメゾンブルトンヌ・ガレット屋とアンクルのすべてのビールにヤァマット!
■お邪魔したお店
メゾンブルトンヌ・ガレット屋
住 所:東京都渋谷区笹塚3-19-6 1F
電 話: 03-6304-2855
営業時間:平 日11:30-15:00
18:00-22:30
土日祝11:30-22:30
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。