ブルワーにはそれぞれストーリーがある~Tokyo Brewer’s Story~開催
2月18日日曜日、東京・日本橋にある旅のインフォメーションスペース Travel Hub Mix(トラベルハブミックス) でビールイベント「Tokyo Brewer’s Story」が開催された。
東京にある4つのブルワリー(ビール醸造所)のブルワー(醸造担当者)からそのストーリーを聞き、そのビールを利き、参加者の声を聴く。ビールを造る人と楽しむ側の人をつなぐイベントである。
目次
4つのビール醸造所のブルワーからそのストーリー
当日は、主催者「My Craft Beer( http://mycraftbeers.com)」の紹介、各ブルワーごとのスピーチと登壇した4人のブルワーのパネルディスカッション、参加者からの質問タイムと続き、その後歓談となった。4人のブルワーが登壇するごとに、各ブルワリーの自慢のビールが配られ、参加者はブルワーの話を耳で聴き舌で感じ、そのストーリーをさまざまな角度から堪能した。
参加したブルワリーおよびブルワーは、登壇順に以下の方々である。
それぞれがブルワーとして 独自のこだわりと情熱でユニークなビールを造りだしている方々であり、また、多くのファンをもつブルーパブ(その場で醸造したビールを提供するパブ)を都内に作り上げてきたブルワリーである。(以下文中敬称略)
ビールとの出会い、ビールへの想い
カンピオンエール
イギリス出身のジェームズはパブ文化のすばらしさに大学時代に目覚めた。いろんな種類のビールを楽しめること、それらを炭酸が弱めのリアルエールが飲めることをすばらしいと思ったという。
カンピオンでもパブスペースでは3〜5種類のビールをタンクから直接注いでいる。イギリスのリアルエールに近い提供方法だ。自家醸造のビールはイングランドスタイルのモルト感を生かしたエールが中心。常時4種~提供している。
ビールを造るのは簡単、だけど、複雑です。化学的に考えていけばどこまでも幅広くなるし、作りたいと思えばどこからでも入れるのが面白いと思います。麦芽とお湯でだけでとても甘く香りのよいジュースができ、それがビールになる。そこが大好きで楽しいと思うんです。
お店を開くに当たっては都内のあちこちを探し、浅草にちょうどいい場所が見つかりました。ゆっくり飲んでゆったり過ごせるイギリスの田舎にあるようなパブ風のスペースを用意しました。
イベントの試飲に提供されたビールはイギリスの伝統的なペールエール「ビター」。アンバー色で麦芽が強く香るやさしい苦味のビールだ。アルコール度数が低く、またリアルエールのように炭酸が低めであるのも伝統的な特徴だ。
デビルクラフト
アメリカから来日してすでに27年になるマイクは、最初アメリカで弟からホームブルーイングを教わりビールを造り始めた。マイクと友人のアメリカ人が3人集まって7年前に始めたデビルクラフトがミッションとしているのは、人が集まってビールを通して楽しめること。
それを実現するために絶対大切にしているのはクオリティです。小さいブルワリーだからといって自分たちが納得できないクオリティを提供することは、お客さんとの繋がりを揺るがすことになります。
もう一つのミッションは、アメリカの6000以上あるブルワリーからトレンドを日本に伝えること。醸造サイズは1回に400~500リットルと小さいと言うが、
Small is Good! なぜならバラエティにチャレンジでき、新しいものが生まれるから。
お店は、現在はブルワリーとは別の場所に、神田(2011年スタート)、その後浜松町、五反田と現在は3店舗ある。それぞれが14、20、20のタップを備えるビアバーで、看板メニューは5cmもの厚さが特徴のシカゴピザ。“ビールを造りたくて会社を起ち上げたのに、今はピザのほうが人気で複雑な気分です”と苦笑いのマイク。2015年には、ついに醸造免許を取得し醸造を始めた。醸造しているビールはアメリカンIPAスタイルが多いが、ラガーも作るし、木樽で寝かせたものにもチャレンジしている。
試飲用に提供されたビールは「ジューシーIPA」。元々はNEスタイルIPAをイメージしたレシピで、オーツ麦、小麦を使っているが、濁りはない。使っている酵母はNE用のものではなくカリフォルニアイーストだという。柑橘を思わせるホップのアロマが香り、苦味もしっかりと効いた香りが特徴のビールだ。
十条すいけんブルワリー
水質土壌調査、壁面緑化の事業をしている親会社の屋上で「水耕で栽培する野菜を楽しんでほしい」という社長の思いから、Beer++という名前のビアパブを併設して生まれた醸造所である。会社のある北区に還元できるようにと、十条に店を構えることになった。1回に150~180リットルを醸造している。
地元の常連や知人、知り合いの農家などから提供された原材料を上手く生かしたビールが特徴。造る時にはお客さんのリクエストや希望を聞いてレシピを変えてみることもする。現在は九州の農家が栽培したキウイを使ったもの、ココナッツやヘーゼルナッツなどを加えたものなど、少し変わった風味のあるオリジナリティのあるビールがラインナップされているが、ラインナップは季節や原料のタイミングによって常に変わる。“そのバリエーションも楽しんでほしい”、という。もともと低アルコールでの自家醸造を学んでいた山越は
設備も手作りで小さいブルワリーです。気温や季節によるぶれもあるし、レシピもその都度変えることがあります。そういうマイクロブルワリーらしさでもある手作り感や季節ごとに異なるラインナップを楽しんでいただきたいですね。
試飲用に提供されたビールは2種類。1つは「チョークスリーパー梅エール」。梅を原料に使った酸味の強いビールで昨年7月仕込まれたという長期熟成のビールだ。もう一つは「赤い彗星」。原料にピンクペッパーを使ったビールで濃いめの色のビールだ。
今日の試飲用には、すいけんの「季節ごとに異なるビール、いつもと違うビール、がある」という余所との違いを知っていただけると思ってこの二つを選びました。
というように、前出のカンピオン、デビルクラフトとはまったく異なる味わいのビールを参加者は体感することになった。
Y.Y.G. Brewery & Beer Kitchen
学生時代にカナダでホームブルーイングを知ったという山之内が、YYGでマスターブルワーとして醸造を開始したのは2年前。現在は毎週300リットルを醸造している。定番として2種、スペシャルビールを70種ほどを醸造した。ビール造りへの想いをさまざまな角度から語った。
自分たちが飽きないようにすることは大事です。そしてそれはお客様を飽きさせないことになります。
スパイスはただ入れればいいのではなく、バランスがよく飲みやすいものでなくてはだめだと思います。初めてクラフトビールを飲む方でも飲みやすく、コアなビールファンにも楽しんでもらえるように調整しています。
ビールを造る時には2つの視点、つまり「アート」(クリエイティビティ、発想、アイデア、イメージ)と「サイエンス」(知識、情報収集、経験、データ)を意識して造ります。
山之内にとってビールとは多様性を感じさせてくれるものだという。
ビールのスタイルは100種以上ありさらにブルワーによってさらに多様なバリエーションがあります。人生も人それぞれ多様なものだと思います。飲む人にビールの多様性を感じていただき、「人生もなんとかなるよ」という想いを持っていただけたら。
お店は、1階が14タップを備えたテラス付きのブルーバー、7階に広い空間でカジュアルアメリカンフレンチなおしゃれな料理をビールと共にたのしめるビアキッチン(レストラン)がある。
試飲用に提供されたビールは2種類。インドのチャイをイメージし5種類のスパイスと紅茶とラクトースを使ったビール「朝、ガンジスの岸辺で」とブルーパブのゲストと一緒にアイデアを出し合って造ったスパイスビール「八方美人の彼女は優しい嘘をつく」。どちらもスパイスやハーブがバランスよく使われた心地よい刺激のあるビールだ。
真剣にかつ楽しく ~拡がるビール談義~
各ブルワリーのスピーチに続き、4名のブルワーによるパネルディスカッション、参加者からの質問が行われた。
続いて参加者の質問に各ブルワーが答える。「それぞれのブルワリーの定番はどれ?」「参加特典のチケットで飲んでほしいビールは?」といった各ブルワリーの個性についての質問、「大手ビールメーカのクラフトビール参入は気になりませんか?」といったクラフトビール業界に目を向けた質問、「普段自分で買って飲む市販されているビールは?」というブルワーの私生活を覗き見できちゃう質問、さらには「せっかくなのでこの4ブルワリーでコラボビール造ってもらえませんか?」といった大胆な提案まで、会場からはさまざまな視点での質問が投げかけられた。ブルワーの回答に、会場からは感想をささやきあう声が聞こえ、また笑い声がこぼれた。
その後会場に設置された試飲ブースで参加者とブルワリーの交歓が続いた。
参加者はそれぞれお目当てのブルワーとビールを飲みながらの会話を楽しみ、会場のあちこちでビールやブルワリー、イベントの感想を語りあう輪ができ、ビールを通して新しい出会いやつながりが生まれていった。
このイベントの様子は会場となったTravel Hub MIXのFacebookで3時間のフル動画が公開されており、会場の雰囲気やより詳細を体感できる。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。