ホップに魅せられDIYでブルワリーを建設! 【ブルワリーレポート うちゅうブルーイング編】
2018年4月1日。ビールの定義が改定され、醸造免許についても変更があった。3月末日までに免許が交付されれば旧基準での醸造が可能になることもあり、同年1月から3月の間に発泡酒免許74カ所、ビール免許1ヶ所の計75カ所が新規に交付を受けた(移転等は除く)。山梨県北杜市に拠点を置く「うちゅうブルーイング」もその1つだ。今年5月の発売開始から約2ヶ月。立ち上げから発売までの思いを聞いてきた。
ブリューパブの雰囲気とホップの衝撃に魅了されて
「うちゅうブルーイング」は、醸造責任者である楠瀬正紘氏とクリエイティブディレクターの鈴木ルミコ氏で運営している。クラフトビールとの出会いは2016年2月までさかのぼる。
「アメリカ西海岸にまちづくり・コミュニティ、オーガニック市場の視察に訪れました。ビールもそうですが、農業は土のことなど発酵ともつながりがあります。ガイドブックでクラフトビールが流行っていることを知り、『それなら1度、行ってみよう』ということでブリューパブに行くことにしました」(楠瀬氏)。
そこで、IPAの鮮烈なアロマに衝撃を受け、「世の中にこんないい香りがあるのかと思いました」と楠瀬氏は当時を振り返る。
「それまでは色も香りも同じようなビールしか知りませんでした。ビールに対して決まったイメージしかなく、店内に入ったときにすごい種類のメニューをみて『なんだこれ』と思い、テイスティングセットを注文しました。そうしたら全部、色も香りも違って、『え、ビールってこんなに種類があるのか』と、とても驚きました」(鈴木氏)。
「でもビールだけでしたら衝撃はそこまで強くなかったと思います。ブリューパブの空間デザインの魅せ方がとても格好良いいと感じました」と楠瀬氏。「ガラス張りの奥にタンクがずらっと並んでいて、それを見ながら飲むという経験が初めてで面白かったです」と鈴木氏。
「それとお客さんがみんな楽しそうにしていて、『なんか、これってすごいことが起こっているな』と思いました」とブリューパブでの経験がクラフトビールに惹かれるきっかけとなった。
オーガニック農家として新たなチャレンジ
「宇宙農民」として米をはじめとする農作物をオーガニック栽培していた2人。ブルワリーの名前にもなっている「宇宙」は、「農作物を生み出す土のミクロな世界に存在する宇宙、動植物の体・精神に宿る宇宙、森羅万象が循環する星」。地球上で大地に根ざし、自然の美しさやすばらしさ、おいしさ、そして楽しさを伝えたいという思いからだ。
「農産物も出荷していて、『まだ、できるぞ』という思いがありました。オーガニック農業やイベントとクラフトビールの魅せ方をかけ合わせたらとても面白いことができるとイメージが湧いてきました」(楠瀬氏)。
帰国までにホップについて調べ、インターネットで購入。試験的に栽培を開始した。昨年は、カスケード、チヌーク、コロンバス、センテニアルの4種類を中心に栽培した。
「植物は他もそうなのですが、害虫で全滅してしまうということはあまりありません。その植物がもつ最大のスペックを収穫するのであれば、農薬や化学肥料が必要だと思います。私が感じている限りですが、農薬を使わなくても6割は収穫できると感じています」(楠瀬氏)。
ホップが本格的に収穫できるまでには3年が必要とも言われており、データをとることで具体的な対応が可能になると考えている。
今年は近隣のオーガニック農家と委託契約を結び、圃場を拡大。新たに350株を購入し、「将来は年に数回、ローカルホップのみで醸造をしてみたい」という。
DIYでブルワリーを建設
彼らの取り組みでもう1つ面白い試みがある。それがブルワリーを自前で建設したことだ(※1)。
「醸造所の前にも『宇宙農民基地』(※2)という建物を自分たちで建てました。その経験からやれると思いました。最初はもっと小さなものを考えていたのですが、今後のプランを考えたときに今の規模になりました。お金もありませんし、節約できるところはしながら楽しんでやれて、しかもそれをプロモーションとしてSNSやYouTubeで発信していくことも効果的だと思いました」(楠瀬氏)。
※1 免許・専門技術を要する箇所は業者が担当しています。
※2 ブルワリー前にある建物。今秋よりブリューパブとして稼働予定。
改築してブリューパブにするケースはあるが、基礎から自分たちでつくり上げるのはとても珍しい。楠瀬氏は「自分たちがやったことを知ってもらうことで、色々な人が参入しやすくなったらいいと思っています」と展望を話す。
「装置産業なので、資金はいくらあっても足りないですね」。自分たちの思いを伝えることも目的にクラウドファンディングを取り入れた。目標であった300万円は、多くの支援を受け達成。醸造機材は「OUTSIDER BREWING」でヘッドブルワーを務める丹羽智氏のアドバイスを受け、海外から設備を導入した。
また使用済みの麦芽の再利用や排水についても浄化設備を設置し、環境面への配慮を強く意識。サステナブルワリーとしての活動もおこなっている。
ホップもビールも品質の向上が目標!
現在の課題。そして、これから先を楠瀬氏はどのように見ているのだろうか?
「今年は、ちょうど醸造を開始した時期とホップに肥料を与える時期が重なり、栽培に十分な時間を取ることができませんでした。発育は順調にきていますが、人手が足りていないので、どのようにして対応していくかは今後の課題です。自家産ホップの乾燥、貯蔵の質を上げていくことも課題と思っています。醸造については、丹羽さんにしっかりと教えていただけたので、今のところは大きな不安を抱くことなくできています。それとお客さんに製品案内やイベントの案内を告知するため、発売時期を決めるのは難しかったですね。当社はドライホッピングをするので、汚染の可能性もあります。その場合は廃棄しなければなりませんから案内のタイミングにとても気をつかいました。それと定義改正の時期に重なったので、使う原料により名称表記がどうなるかでラベル作成が大変でした」。
醸造については楠瀬氏が1人で担当していることもあり、ホップ栽培に十分な対応ができない時期もあった。人手については、「私たちの取り組みに共感してくださる仲間を増やしたい」という。
「今後はやっぱりいいビールをつくって、たくさんの方に知ってほしいと思います。それとつくり手の立場から言うと山梨県は果樹が盛んなので、そうした素材からビールがつくれることは面白いと感じていて、ぜひ実現したいと思っています。」と楠瀬氏は意気込みを語る。
この記事が出るころには新作ビールも登場予定。ホップが効いたパンクなビールがホップ好きの心を打ち抜くことだろう。ビールは、「できるだけ早く飲んでください。ドライホッピングをしているので、新鮮な状態で飲んでいただけると1番美味しいと思います」。現在は、好評につきボトルビールは発売を開始すると早々に売り切れてしまうので、手に入れづらいが、「7月27日から8月5日に開催される『地ビールフェスト甲府2018』に出店します。そこで、ぜひ飲んでほしいと思います」とのこと。まだ飲んだことがなく、関心のある方は出かけてみてはどうだろうか。
なお収穫されたホップは、9月開催予定の「FRESH HOP FEST2018」でお披露目される。どんなビールになるか楽しみに待っていてほしい。
環境面を意識することは、これからのビール事業において重要なポイントになる。彼らの取り組みは、日本のクラフトビールシーンにどんな影響を与えるのか。見守っていきたいと思う。
◆うちゅうブルーイング Data
住所:〒408-0013 山梨県北杜市高根町蔵原937-1
Homepage:http://uchubrewing.com
Facebook:https://www.facebook.com/uchubrewing/
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCP_kU4FFM_QMpYcRNLeGTGQ
お問い合わせ:お問い合わせフォームより(http://uchubrewing.com/?page_id=358)
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。