念願の免許交付から1年。くまたちの思いを聞いてきた【ブルワリーレポート 秩父麦酒 1周年インタビュー編】
「けやきひろば秋のビール祭り2018(以下、けやき)」では、行列ができる人気をみせた「秩父麦酒」。2017年10月21日の初仕込みからまもなく1年が経つ。この1年、彼らはどんな景色をみてきたのか。10か月ぶりに秩父を訪れ、話を聞いてきた。
★初仕込みの様子はこちらから(https://www.jbja.jp/archives/18060)
★お披露目会の様子はこちらから(https://www.jbja.jp/archives/18614)
目次
振り返る余裕もなく駆け抜けた1年
—:免許交付から1年が経ちます。この1年を振り返っていかがでしたか?
丹広大氏(以下、広大氏):1年はあっという間でした。始まってからは、目一杯駆け抜けた感じがしています。
鈴木考治氏:正直、この時期まで「秩父麦酒」と関わっているとは思いませんでした(※1)。
一同:爆笑。
※1 鈴木氏は当初は今春くらいまで手伝う予定でした。
鈴木氏:予定外でしたが、1年やらせていただいて、確実に品質が向上してきていると思います。自分のイメージ通りの味につくれるようになってきました。
—:当初は1人で醸造をする予定でした。パートナーである鈴木さんは、どんな存在ですか?
広大氏:技術面や品質面、生産量など、自分1人ではできない部分を鈴木さんがカバーしてくれたと思います。毎回、相談しながら決めていけたことは大きかったです。
—:社長からみた鈴木氏はどんな役割を果たしていますか?
丹祐夏氏(以下、祐夏氏):いてくれなかったら、これだけの生産量は実現できなかったですし、ラインナップもこれだけ展開できませんでした。彼はすごい「お酒オタク」。ビールだけではなく、お酒全般に詳しくて、それをビールづくりにつなげて表現できるところは尊敬しかないです。
—:社長ご自身の1年はいかがでしたか?
祐夏氏:あっという間でした。まだ振り返る余裕がないのが正直なところで、バタバタした感じが残っています。改めて振り返ると、はじめに思い描いていたことから離れてしまった部分もありますが、逆にその部分を評価していただいている部分もあります。私はブランディング担当をしていて、イメージキャラクターである「くま」を使って、「ジャケ買い(※2)」でもいいからクラフトビールを日常的に飲まない人たちに興味を示してもらえるようアピールしてきました。先日の「けやき」でも、ポップデザインから興味を示して、購入した方が「美味しかったから、また飲みに来ました」という声をたくさんいただけました。自分が信念をもって進めてきたことが形になり、とても嬉しかったです。
※2 ラベルデザインの印象だけで購入する買い方。
—:たしかに「けやき」では、くまのキャラクターは好評でした。
祐夏氏:1度にあれだけのポップを並べる機会はなかったので楽しかったです。新作ができたら実際に飲んで、2人からコンセプトを聞いてキャッチコピーやキャラクターをつくります。でもお客さんはポップを見てからビールを買うので、「こんな感じのビールかな?」とイメージを正しく伝える必要があります。ネーミングはシンプルさを意識して、音にしてみたり、文字にしてみたり、けっこうな数を試してつくっています。
人脈を築いてきたからこそ生まれたスタートダッシュ
—:はじめてからはイメージ通りでしたか?
広大氏:何年も先にチャレンジしようと考えていたものが、思いもよらない形で実現したものもありますし、反対もありました。そこは柔軟に対応しながらですね。自分たちの強みを考えて、目標とする先輩方に追いつけるよう過ごしてきました。お客さんにとにかく楽しんでほしいので、できる限りライナップの豊富さに加え、品質の改良を重ねてきました。
—:目標とする先輩たち。立ち上げ前から人脈づくりを大事にされてきました。
広大氏:自分は飲むのが好きですから(笑)。ビアバーのイベントで、ブルワーさんの魅力に触れて「自分もつくる立場になったら人に刺激が与えられる存在を目指したい」と思っていました。人脈は、つくろうと思ってできたのではなく、「好き」でいたら広がっていった感じでしょうか。つくり手として必ず飲み手に近づいてもらえる存在、好きになってもらえる存在であることは、重要なポイントと考えています。
祐夏氏:純粋に「好き」の延長線でしょうね。私たちは旅行が大好きで、目的の1つにビールがあります。知り合いでもないブルワリーにも足を運んで、お願いして見学させてもらいましたね。好きなことだから話を聞いていると興味がどんどん湧いてきて。それこそ最初は、訳の分からない質問ばかりでしたよ(苦笑)。ブルワリーの立ち上げが現実的になると質問表をつくって訪問していました。ブルワーさんたちが包み隠さず教えてくれる姿勢には驚きました。あるブルワリーで「なんで、そんなに教えてくれるのですか?」って聞いてみたことがあります。そうしたら「同じレシピ、同じ原料を使ってつくったとしても絶対に同じビールにはならない。だからそんなことは考えない」と言われて。みんなで頑張っていけばいいという姿勢に心打たれました。
—:ブルワリーを始めるあたり否定的な意見はありましたか?
広大氏:否定的というよりは心配ですね。見守ってくださる方はたくさんいらっしゃいました。特に長くブルワリーを経営している方たちは、私たちの方針をしっかり聞いたうえで、「やめろとは言わないけど、勧めないよ」と本当に気にかけてくださいました。
祐夏氏:コンセプトや方向性を話してみても明確に伝えられていなくて、「どんなことがしたいのか?」と指摘を受けましたね。
広大氏:最初はスタンダードなビールからつくろうと思っていました。でも第1次地ビールブームが終わった理由を探りながら、自分たちが飲みたいビールを色々考えてつくることにしました。醸造がはじまって実際にビールを飲んでもらって「やるな」と言っていただけたときは、少し認めてもらえたのかなと。同時に「もっと頑張れ」というエールも感じています。
「癒し」を感じないビールはつくらない
—:醸造を開始した時期に予想をしていたよりも多くのラインナップをつくりましたが、一貫しているコンセプトはあるのですか?
祐夏氏:私の根底にあるのは「癒し」です。そしてそれに伴った「わくわく感」や「ときめき」。それらを感じられないビールはここではつくらない。そのように二人にお願いしてきました。癒し自体は人それぞれですが、私にとってビールにおいて重要なのは「香り」でした。
—:香りといえば「しろくま」はとてもフルーティーさで人気です。「香り」の要素は意識されましたか?
鈴木氏:「しろくま」は丹さんと一緒に挨拶回りにいったビアパブで飲んだ「Other Half Brewing」(アメリカ)のビールが、香りがすごく、口の中に広がるトロピカルな味がとても新鮮でした。「こういうビールを自分たちもつくりたい」と、1度だけつくってみることにしました。
—:これだったら社長(祐夏氏)も納得させられると。
鈴木氏:そうです(笑)。
広大氏:昔、アメリカ東海岸地域を旅行したときに、お客さんが試飲して気にいらなければ帰ってしまう光景や飲み仲間が集まって、「俺が今日1番美味しかったビールはこれだ」と意見交換している場面をみて、作り手と飲み手との真剣勝負の関係性が面白いなと感じました。デザインや味も自由なところに影響を受けて、従来の考え方に捉われないようにしてつくったのが「しろくま」です。
ベンチャーウイスキーとの出会い
—:秩父は、日本酒、ワイン、ウイスキーとお酒つくりが盛んです。他のお酒業界の方との関わりはあるのですか?
鈴木氏:すごくラッキーな場所ですよね。なんといってもベンチャーウイスキーである「秩父蒸溜所」の存在は大きいです。彼らがいなければ「紅熊X」で使っているミズナラのウッドチップは手に入りませんでした。バレルエイジビールに挑戦するのも何年も先になっていたと思います。彼らが私たちのビールをよく飲んでくれるのは心の支えです。
祐夏氏:同じ地域の方と飲みながら話せる環境は素晴らしいです。そのおかげで、夢物語だったバレルエイジビールが実現できたことは驚いています。
広大氏:もしかしたらあまり日本らしくないかもしれません。
祐夏氏:ウイスキーつながりでいうと、昨年の「秩父ウイスキー祭り」のポスターに、まだ免許が交付されていない時点で名前を掲載していただいて。実行委員の方に「免許が交付されなかったらどうするんですか?」と聞いても「大丈夫でしょ」って。無事に免許も降りて出店できましたけど(笑)。その打ち上げで出店者さんたちにも飲んでもらって。そこから樽の外販も広がりました。ここがはじめのターニングポイントでしたね。
広大氏:ウイスキーバーに購入してもらえたのは、今思うと本当にありがたいです。でも、ちょうどそのころ準備していた樽洗浄機が使えなくなって……。新しい洗浄機が導入されるまでの間、「CARVAAN BREWERY」の洗浄機を借りて洗っていました。あの時期は大変でした。
祐夏氏:周りの人の助けがあって、1年やることができました。感謝の気持ちでいっぱいです。この気持ちは忘れてはいけないですね。
鈴木氏:私自身はここに来る前からビール業界に携わっていましたから、イベントでそのときに知り合ったブルワーさんやお客さんが「あ、いま鈴木がいるところだ」と飲みに来てくれて、気にいってくれた方が知り合いのビアバーに広げてくれました。品質も新規ブルワリーとしては、安定して提供できていることも予想以上の仕込み回数になったのではないかと思います。
—:地元での売れ行きはいかがですか?
祐夏氏:最初の計画として、お土産品としてアピールする予定でしたが、外販部門が忙しくなったこともあり、お土産部門をPRする時間をつくることができていませんでした。そこにタイミングよく秩父に関係する企業が積極的に地元をPRしてくれたことで、以前より認知度は高くなりました。「秩父」という地名が認識されたことで、自然発生的に色々なところで広がりました。駅に隣接する売店や道の駅、市内の酒屋さん、デパートなど各方面で取り扱っていただいたことは大きいと思います。
鈴木氏:定番ビールも味の違いが分かりやすいように意識してつくっています。
より美味しいビールを目指し、地力をつける2年目
—:2年目をむかえるにあたり、課題や展望について教えてください。
広大氏:自分たちが評価してもらい続けるために「何をしなくてはいけないか」を考えるとやりたいことだけでは駄目だと思っています。だけど、やりたいことが溢れていていますね(笑)。やってみたかったバレルエイジビールはすでに熟成をはじめています。将来的に設備を拡張して夢であるバレルエイジのサワービールにも挑戦したいですし、樽を使ったプロジェクトは、実現できるよう取り組んでいきたいと考えています。近い目標としては、ビールの品質を高いレベルで安定させ、飲み手はもちろん常に置いてもらえる飲食店さんを増やしていきたいです。それと一緒の志しをもってやってくれる仲間が欲しいです。
鈴木氏:販売をはじめたころはゆっくりした流れでしたが、夏に向かってかなり製造量を増やすことができました。今後も製造量をもう少し増やしていく必要がありますが、まずは品質を高いレベルで安定して提供することが急務ですね。仲間が増えた場合は、その方に業務を教える仕事もあると思います。
祐夏氏:1年目は「紅熊X」「しろくま」でお客さんに驚きを与えられたと思います。「じゃあ2年目はどうするか?」。間違いなく、レベルを上げなくてはいけません。その土台つくりを今年はしていきたいと思います。
鈴木氏:コンペティションに出すとか。
広大氏:受賞を期待してくれている方たちもいるので頑張りたい。
—:どこを目指します?
広大氏:JAPAN BREWERS CUPかInternational Beer Cupか……。挑戦してみたいです。
祐夏氏:私は若い女の子がSNSで取りあげたくなるデザインとかですね。
—:2年目の活躍も楽しみにしています。
◆秩父麦酒 Data
会社名:合同会社 BEAR MEET BEER
住所:埼玉県秩父市下吉田3786-1
Facebook:https://www.facebook.com/BEARMEETBEER/
※コンタクトはFacebookよりお願いします。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。