琥珀の夢で酔いましょう クラフトビールファン必見の最新刊が2020年1月14日(火)発売。作者に作品の魅力や今後の展開を聞いてみた
クラフトビールが注目されるようになり、メディアで取り上げられる機会が増えています。漫画の世界もその1つで、「株式会社マッグガーデン」が発行している「月刊コミックガーデン」では2018年11月号から「琥珀の夢で酔いましょう(以下、こは酔い)」が連載されています。3人の若者たちが各々に置かれている環境に悩みながらクラフトビールを通じて成長する過程が描かれています。
2020年1月14日(火)に待望の第2巻が発売される「こは酔い」。これを記念して原作者の村野真朱さん、作画担当の依田温さん、そして編集担当のアリウエさんに魅力や見どころを語っていただきました。
目次
■クラフトビール好きが出会ったことで誕生
-:「こは酔い」第2巻発売おめでとうございます。まだ読んでいない人もいらっしゃると思うので、最初に誕生秘話から伺います。この漫画は、担当編集のアリウエ様が「コミティア出張編集部」で村野さんと依田さんの合作同人誌を見たことがきっかけと第1巻のあとがきに描かれています。アリウエさんは、なぜクラフトビールを題材にした漫画を提案されたのでしょうか?
アリウエ:企画自体は、2017年の夏頃から構想がありました。近所のビアパブで飲んだIPAに衝撃を受けて、私自身がクラフトビールにハマったことがきっかけでした。そこから意識をしてみると、コンビニやスーパーにも商品が並び、新しいお店が増えていく最中で、「クラフトビールの波がぐいぐい来ている…!」と実感したんです。
-:アリウエさんがクラフトビールにハマったところがスタートでしたか。
アリウエ:はい。その一方では、お酒漫画は男性読者をターゲットにしている作品が多く、女性を意識したものが少ないように感じていました。女性を意識した店作りや広告戦略を取るクラフトビールならば、女性に照準を合わせた作品作りにも相性が良いと考え、企画しました。
-:おっしゃるようにクラフトビールが認知されるにつれ「ビール=男性の飲みもの」という印象から変化してきた実感があります。
アリウエ:そんななかで出会った依田さんの絵は男女関係なく受け入れられる絵柄で、特に表情が素晴らしく、美味しいご飯の表現も申し分なかったんです。村野さんはストーリーテーリングも巧みですし、共感を覚える言葉選びが胸を打ちました。思い描いていた作品像にピッタリで、持ち込みされた漫画を読んで開口一番に「ビールってお好きですか?」とお伺いしました。
-:提案を受けて村野さんと依田さんは、どんな感想をもたれましたか?
村野:私と依田さんは「SPRING VALLEY BREWERY京都」がオープンしたときに一緒に飲みに行ったこともある飲み友達でして、アリウエさんのご提案にとてもご縁を感じました。
依田:合作同人誌をアリウエさんに見ていただいた際、ご飯の描写について褒めていただきました。作画をしている間も楽しく描けた部分だったので、ビールの表現をしていくのもすごく楽しそうだなと。
-:作品を作るうえで、どのようなところを意識されましたか?
村野:女性向けの企画とのことでしたので、女友達にクラフトビールについて印象をいろいろ聞いてみたところ、「お酒好きの人」と「ほとんど飲まない人」に大きく分かれていました。「ほとんど飲まない人」は体質的に飲めない人を除くと、お酒の場に気後れしてしまったり、知識がないので何を選んでいいか分からなかったりという声が多くありました。そうした人たちのハードルを下げて、1杯目を楽しく選んでもらえる漫画にできればいいなと。お酒好きの人にも、最初にお酒を選んだり飲んだりしたときの気持ちや雰囲気を思い出して楽しんでもらえるように意識しています。
依田:グルメ漫画のジャンルは年々拡大していて細分化も進んでいますが、クラフトビールがメインの作品はまだ数少ないと思います。クラフトビールの世界への入り口になるような作品をつくりたいと村野さんとも話しました。挑戦しがいのあるテーマです。
■商品を紹介するだけではなく、「コミュニティ」や「ペアリング」とクラフトビールがもつ魅力を捉えて描く「こは酔い」の面白さ
-:その思いが作品にわかりやすく描かれていると感じました。「こは酔い」は、ただクラフトビールの味や種類を紹介する漫画ではなくて、クラフトビールの魅力の1つになっている「コミュニティ」や「ペアリング」が、3人の登場人物によって、伝わってくるところに感動しました。「コミュニティ」や「ペアリング」は、意識されていたのでしょうか?
村野:ありがとうございます。「コミュニティ」と「ペアリング」はすごく意識しています。クラフトビールを飲んだことがない人にも魅力を伝えたいと思ったときに、その多様性や食べ合わせによる無限の広がりをキャラクターでも表現したいと思っていました。それに「飲む楽しみ」は、ビールの味やアルコールの楽しみはもちろん、その場の雰囲気や一緒に食べる料理、1人でも誰かと一緒に飲むでも充実した時間を過ごすことの占める要素も大きいと思いました。
-:私もそう思います。
村野:さらに関係者の方にお話を伺ったり、醸造・運営・販売の物語を拝読したりするなかで、クラフトビールに携わる方々が培ってこられた「コミュニティ」の重要性を強く感じたので大切に描いていきたいと思いました。
-:そのコミュニティを生み出していく舞台が京都です。いろいろな街があるなかで、京都にしたのは何故ですか?
村野:監修の杉村啓さんから「魅力的なブリュワリーがたくさんあるので」とご提案いただいたのが最初です。私は出身も在住も京都で親しみがあり、好きな郷土料理も多くあります。クラフトビールも充実している場だと知り、ぜひ京都で描きたいと思いました。
■立場が異なる見知らぬ3人がクラフトビールを通じてつながり、成長する過程を描く
-:その京都を舞台に「野波隆一」「剣崎七菜」「芦刈鉄雄」が物語を繰り広げます。3人ともクラフトビールがすごく詳しくないところが新しい印象を受けました。どのような思いで3人のキャラクターを作りあげていったのでしょうか?
村野:クラフトビールをまったく知らない人、ふだんあまりお酒を飲まない人にも共感しながら読んでもらえるようにと考えました。知らないことについて試行錯誤していくのは大変ですが、仲間内であれこれ話すと盛り上がりますし、知っていることがどんどん増えてハマっていく楽しみもありますよね。
-:なるほど。たしかに共感することが多かったです。
村野:それと成長物語を描きたいと思ったのもあります。みんな異なる職業で性格もばらばらです。その3人がクラフトビールという一点でつながり、知識や関係性を深めるなかで、お互いの仕事や人生にエールを送りあって成長していければと思いました。「全くつながりのない人とも、飲みながら話すことで打ち解けてゆく」という素敵な物語も、ビールにはあることを伝えたいですね。
-:私もビールにハマってから自分が知らない世界の人とつながる機会が増えました。
依田:最初は隆一と鉄雄の2人組で構想を練っていたんです。
-:え、そうだったのですか。
依田:はい。でも女性向けというもあり、より読者の共感を呼び込むために女性で会社勤めの七菜を中心に描くことにしました。七菜は特に表情など動かしやすいデザインにしているので、感情の流れにメリハリをつけてくれるキャラクターになっていると思います。
-:たしかに七菜は、感情の変化がわかりやすく感情移入しやすいです。
依田:そういえば3人組といえば、何度か登場させていただいている京都醸造さんも、出身国が違う3人のメンバーで立ち上げられたブリュワリーでしたね。第1話に「一意専心」をもってきたことで、隆一・七菜・鉄雄が出会って「白熊」を立て直していく物語とうまくリンクしてよかったなと思います。
-:実は「一意専心」を出すために舞台を京都にしたと思ったくらいです。あれで一気に惹きこまれました。
■それぞれの人生が動き出す第2巻。取り上げるテーマも深く広がっていく
-:いよいよ第2巻が発売です。私は「こは酔い」はコミックスで読むと決めているので、まだ収録されている内容を知りません。新刊の見どころを教えてください。
村野:第2巻では「自分でペアリングを楽しむ方法」「城で飲み会」「家飲み鍋パーティ」「パンとビールでピクニック」「ノンアルコールビールの世界」と、第1巻より踏み込んだ楽しみ方が描かれています! そしてキャラクターが動き出し、それぞれの人生が大きく動いていきます。特に「コミュニティ」や「ペアリング」といったテーマがさらに深く広がっていきます。どうぞお見逃しなく!
依田:第1巻に引き続き、読者さんにも実際に試していただけるようなペアリングやロケーションが登場しています。物語も大きく動きを見せ始める巻になっていますので、わくわく感を味わっていただければと思います。
アリウエ:隆一と七菜と鉄雄、それぞれの仕事は決して順調とは言えません。現実の私達と同じように躓き、クラフトビールを飲んで奮起して、次の一歩を踏み出しています。クラフトビールに背中を押されて日々頑張っている読者の皆さまには、「美味しそうだから飲みたい!」だけではなく、「こんなときにクラフトビールを飲む気持ちわかる!」と共感しやすい内容になっているんじゃないかなと思います。第1巻に引き続き監修の杉村啓さんのコラムを収録していますので、そちらもぜひお楽しみにしていただければと思います!
-:取り上げている内容も気になりますが、3人にどんな展開が待っているのかドキドキします。ストーリーが展開するにあたって新しいキャラクターも出てくると思います。
村野:たくさんいますよ! まだ依田さんとキャラクターデザインを合わせていないキャラクターもいるので、どういう風になっていくのか、私としても楽しみです。
依田:第2巻収録の10話に、新キャラクターの登場を匂わせるセリフがあるのでぜひ探してみてください! 今後の展開にも関わるのでまだ公開できませんが、村野さんと「こんな人物も出したいね」という話はしています。お楽しみに。
-:わぁ、気になります。自分も取材経験を元に誰かクラフトビールをテーマにした漫画を描いてくれないかなと思っていました。「こは酔い」は、思い描いていた世界観が描かれていて嬉しい反面、ジェラシーもあります。いつか自分をモデルにしたキャラクターを登場させてほしいです(笑)。
村野:ありがとうございます! 木暮さんをはじめビアジャーナリストの方の記事にはたいへんお世話になっていて、いつもコミュニティの想いや活気を伝えていただいています。描けるときが来ましたら、ぜひぜひよろしくお願いします!(笑)
-:実際に好きなビールの漫画を描いてみて、良かった点、大変な点はありましたか?
村野:大好きなビールを読者の方にご紹介できるのは本当に嬉しいです。一方で、まだご紹介できていないビールもたくさんあるので歯がゆいです。
依田:飲む機会が増えましたので、新しいビールに出会えるのが楽しいです。作画段階になると、画面がモノクロなのでビールの色合いまで細かに伝えられないのがもどかしいですね。飲んだときのキャラクターの反応をどう描けば美味しさを伝えられるのか、いつも試行錯誤しています。
-:これから取り上げてみたいテーマはありますか?
村野:アンバーエールやバーレイワインなど、深みのあるビールの物語をあまり描けていないので、機会があれば描きたいです。また、関西以外のビールをもっと紹介してほしいというお声もあります。個人的にもいろいろ飲んでみたいですし、取り上げていきたいですね。
依田:クラフトビールは地域性も魅力のひとつだと思うので、他の地方や海外も舞台にしてみたいです。その土地ならではの特色やブリュワリーごとのこだわりも描きたいです。連載を長く続けて各地へ取材に行きたいですね。
-:「こは酔い」ファンとしては、どんなビールや人物が出てくるのか興味がつきません。最後にビールファンにコメントお願いします。
村野:はじめてクラフトビールを飲んだときのことを思い出しつつお読みいただけると幸いです。また、クラフトビールを初心者の方に紹介する際など、楽しいコミュニケーションの一助としていただけますと、とても嬉しいです。
依田:読んでいただきありがとうございます。この作品が、楽しい飲みの場のお供になればと思います。
-:お忙しいなか、ありがとうございました。
※2020年1月14日15:30 マッグガーデン様の社名を修正しました。
◆琥珀の夢で酔いましょう
著者:原作 村野真朱 作画 依田温 監修 杉村啓
発行所:株式会社マッグガーデン
掲載紙:月刊コミックガーデン
購入サイト:
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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。