ビールの多様性をきれいな味で伝え続けて20年【HARVESTMOON20周年記念インタビュー】
千葉県・浦安市の商業施設イクスピアリ内にあるブルワリー「HARVESTMOON」。本日、2020年7月7日に創業20周年を迎えた。創業当時は業界の人気も下火となった厳しい時期。醸造責任者である園田智子氏に苦しい時代を乗り越えて迎えた20年の思いを聞いてきた。
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■順風満帆ではなかった20年。イベントなどで認知度を高めた
-:創業20周年おめでとうございます。新型コロナウイルスの蔓延で予想もしなかった節目となりましたが、これまでを振り返るとどんな思いがありますか。
園田氏:ありがとうございます。あっという間な感じもありますけど、今回の新型コロナウイルスのことをはじめ、節目となる出来事は色々ありましたね。決して順調ではなかったかな。でも、客観的にみると20年続けてきたのって凄いなと思います。
-:20年は凄いと思います。節目という言葉がありましたが、どんなことがありましたか?
園田氏:そうですね~。創業した2000年ごろはクラフトビールブームも終わり、数年間は売り上げも決して良いといえる状態ではありませんでした。全国でビールイベントが開催されるようになった2008年くらいからかな。私たちもイベントに参加してお客さんに楽しんでもらえるようになったころから楽しさを感じられるようになってきました。他には2011年の東日本大震災や今回の新型コロナウイルスも節目ですね。
-:始まったのが業界の景気が落ち込んだころ。廃業するブルワリーもあるなか、辞めようという話はあったのですか。
園田氏:それはなかったですね。隣接するレストラン(※1)への出荷があったので、ビールを造れないという状況ではありませんでした。
※1 Roti’s Houseは2018年まで直営経営。現在は別会社が運営している。
-:ビールイベントへの出店で知名度は上がりましたか?
園田:けやきひろばビール祭りも第1回から参加させてもらって、自分たちのビールを知ってもらうきっかけになりましたし、自信にもなりました。最近は忙しくて地域のイベントの参加が中心になっていましたけど…。
-:イベントでいうと今年は残念ながら中止になってしまいましたが、8年前からイクスピアリで「IKSPIARI CRAFT BEER COLLECTION」も開催されているので、だんだん認知されている印象があります。
園田氏:そうですね。今年は残念ですが、また来年楽しみにしてほしいと思います。
■クラフトビールの魅力を知ってもらえるようにきれいな味を造り続ける
-:「HARVESTMOON」は、ビールの世界を知らない人でも楽しめるように飲みやすいきれいな味のビールを意識しているとのことでした。ビールのコンセプトに変化はありましたか?
園田氏:基本的に変わらないですよ。
-:3年前にお話を聞いたときよりもクラフトビールに関心をもつ人は増えたと思いますが、新しいファンからはどんな感想をいただくことがありますか。
園田氏:その辺はちょっと掴みきれていないんですよね…。IPAが飲みたいという声はありますね。
-:IPAはやっぱり人気ですね。
園田氏:そうですね。でもどんなビールでも飲みやすさを私たちは大事にしていきたいと考えています。
-:それは限定ビールでも変わらない?
園田氏:はい。フルーツビールをはじめ限定ビールも飲みやすさを重視しています。まぁ、たまに尖ったビールも造りますけどね(笑)。
-:クラフトビールの認知度が上がってきているとはいえ、まだまだ飲んだことがない人が圧倒的に多いです。興味はあるけど飲んだことがない人の中には、最初は個性的なビールよりも飲みやすいビールを求める人が一定数います。そうした方にとって「HARVESTMOON」のビールは、いいきっかけになると思います。
園田氏:そうなってくれると嬉しいですね。
■20周年ビールは、これまでとは違うバーレイワイン
-:ちなみに20周年記念ビールは造ったのですか?
園田氏:はい。バーレイワインを仕込みました。
-:バーレイワインは、毎年限定ビールとして造られています。普段とは違うのですか?
園田氏:違いますよ。ブリティッシュスタイルというのは、同じですけどモルトにマリスオッターという高級麦芽を多く使い、ホップはイギリス産のケントゴールディングスを使っています。酵母もHA-18という高アルコールを造るものを使いました。この酵母は少しベルジャン酵母に近いので、若干のスパイシーさとフルーティーさを醸しています。さらに面白いのは糖度がゼロというところ。
-:えっ、バーレイワインなのに糖度がゼロ?
園田氏:そう。だからドライな感じ。でもアルコール度数は13.5%ある(笑)。カラメルモルトも使っているから甘い感じはある今までにないバーレイワインに仕上がっています。
-:とっても危険な感じがします(笑)。発売日はいつになりますか?
園田氏:創業記念日の7月7日(火)からになります。隣接するレストランやビアバーで飲める予定で、酒販店やオンラインショップでボトルビールが購入できます。
-:楽しみですね。
園田氏:いつもの飲みやすいビールとは、ちょっと違ったビールですからぜひ飲んでみてください。
■長く続ける秘訣は知ってもらうこと。情報の伝え方も変化した20年
-:20年クラフトビール業界に携わられてきて、現状をどのようにみていますか?
園田氏:良いビールを造るブルワリーもあるし、ファンがついているブルワリーもあるのでいい状況になってきていると思います。まだまだ小さい業界だけどこれからもみんなで支え続けていけるんじゃないかと思いますね。
-:業界が大きくなるのは喜ばしいことだと思います。その反面、競争も激しくなります。長く続けていくために必要なことは何でしょうか。
園田氏:やっぱり知ってもらうことじゃないでしょうか。今はSNSでの発信が当たり前になっていますけど、20年前は広く伝える方法が少なかったからすごく大変でした。知ってもらえないと飲んでもらえる機会に繋がらないので、いかに自分たちの存在を認知してもらえるかが重要だと思います。
-:知らないと飲めないですからね。
園田氏:積極的にSNSなどで発信しなくてもやっていけるなら良いですけどね。情報を発信して知ってもらうことは大事ではないでしょうか。と言っても、私たちも限られたスタッフで業務をしているので、なかなか頻繁に発信できていませんけど(笑)。
-:ちなみに「HARVESTMOON」のSNSはどなたが担当しているのですか?
園田氏:私です(笑)。
-:面白い投稿期待しています。話が変わりますが、ここ数年で女性ブルワーも増えました。女性ならではの視点でビールづくりに活かせるところはどんなところでしょうか。
園田氏:私が知っている女性ブルワーって男前な人が多いからなぁ~(苦笑)。女性らしさっていうのはわかりませんけど、ラベルとかパッケージとかで女性が造っているというのがわかれば可愛らしさも受け入れられるのかなと。私自身は女性だからとか男性だからとか、性別で何かを変えることはないですけど、あえて女性らしさを前面にアピールするのもいいんじゃないかと思います。
―:若い世代も入ってきて活性化されてきていると感じています。
園田氏:男性でも女性でも、若い人もベテランもしっかり自分を表現できないとやっていけませんから気持ちの強さは大切ですね。
■新しい販売戦略に人材育成。これからも続けていくためにやることはたくさんある!
-:新型コロナウイルスの影響で業界も大きな損害を受けています。園田さんは経営者ではありませんが、これからのブルワリー経営のあり方としてどんなことを思いますか?
園田氏:商品の魅せ方やオンラインショップの販売も加速していくでしょうし、これをやっていれば安心というのはないと思います。緊急事態宣言中は、私たちも隣接するレストランはお休みになるし、スタッフの感染対策で一時的にオンラインショップも停止して八方塞がりになりました。色々、ブルワリーのアピールをはじめビールの販売方法を考えていかないといけないですね。
-:緊急事態宣言が解除された後、オンラインショップの動きはいかがですか。
園田氏:注文は入ってきていますね。先日まで父の日セットの販売もありましたが、昨年と同等以上の注文をいただいています。それ以外のセットも好調で、通販は6月だけで見ると昨年の1.5倍になっています。
-:まだ外飲みを控えている人もいると思うので、オンラインショップの需要はありそうですね。
園田氏:当社は、オンラインショップにものすごく力を入れている方ではなかったこともありますが、5月は昨年の10倍以上でした。
-:えっ、それは凄いですよ…。ちなみに全体で見るとここ数カ月の売り上げは?
園田氏:それは全然ですよ。ブルワリーに隣接するレストランも5月いっぱいまで営業を自粛していましたし、ビアバーさんも営業を控えていて樽が売れなかったので全体の売り上げはすごく下がりました。この時期にブルワリー内に空樽が積み重なっていることなんて久しくなかったです。
-:前回の取材時に外販先は舞浜周辺が多い話をされていました。最近は、いかがですか?
園田氏:同じですね。いくつかの地元のスーパーやコンビニに置いてもらっています。販売量としては多くありませんが、継続して置いていただけているので、その地域の方が続けて購入してくださっていると思います。
-:地域の方に愛されるブランドになるって、クラフトビールではとても重要なことだと思います。これからも良いことも大変なこともあると思いますが、25年、30年を目指していく中でどんなブルワリーに成長させたいですか。
園田氏:30周年は確実に在籍してないよ!(笑)。
-:いや、顧問とかになっているかもしれません(笑)。
園田氏:あまり先のことは考えていないですけど、醸造責任者のキャラクターがブランドに紐づいているところがあると思います。これは良いところでもありますが、その人がいつまでも現場にいられるわけではありません。良いところは受け継ぎながらも大きく成長させるためには新しいこともしていかなければなりません。
-:どんなことがありますか?
園田氏:先ほどもありましたが、SNSなどの情報発信や販売方法の強化は考えますね。もちろん1人でできることではないので、会社に相談しながら対応していきたいですね。やりたいこととしては、舞浜には東京ディズニーリゾートだけじゃなくて「HARVESTMOON」もあるんだということを広めていきたい。
-:なるほど。まぁ、わたしにとっての夢の国はこちらですけどね。
園田氏:(笑)。ビールファンはそうですね。でも、今は新型コロナで打撃を受けている売り上げを戻すことを真っ先にやらないといけないなぁ~。
-:いかに早く新型コロナが蔓延する前の状態に戻せるかで、次のステップに移行できる内容も変わってくると思います。
園田氏:これまでの形が難しければ、外部への営業をするとかできることをして早く戻していきたい。
―:はい。
園田氏:あとは人材の育成。これは前回の取材時にも話しましたね。
-:ありました。「HARVESTMOON」さんに限ったことではありませんが、後進の育成は時間も必要とするので根気がいると思います。この辺りは業界全体の課題の1つです。それでは最後にビールファンにメッセージをお願いします。
園田氏:今、真っ先に出てくるのは「ありがとう」ですね。今まで私たちのビールを飲んできてくれたこと。紹介された記事を読んでくれること。皆さんの支えがあって20年という日を迎えることができました。感謝の気持ちでいっぱいです。
-:改めて20周年おめでとうございます!
◆HARVESTMOON Data
住所:〒279-8529 千葉県浦安市舞浜1-4 イクスピアリ4F
お問い合わせ:イクスピアリ インフォメーション 047-305-2525
JBJAでは、新型コロナウイルスにより苦境に立たされているビール業界を応援するプロジェクトを立ち上げました。近隣のブルワリー、店舗がありましたらご支援よろしくお願いします。
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※2020.7.7 一部文章を修正しました。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。