[コラム,ブルワー]2020.10.19

低アルコールビールで世界に勝負できるブルワリーを目指して【ブルワリーレポート NUMBER NINE BREWERY編】

横浜・新港ふ頭に2019年10月31日にオープンした「横浜ハンマーヘッド」。この施設内にある「QUAYS pacific grill(キーズパシフィックグリル)」の1階フロアに「NUMBER NINE BREWERY(以下、ナンバー9)」はある。

横浜・新港ふ頭9号岸壁から名付けられたナンバー9は、ビール醸造免許の交付を受けてからまもなく1年(2019年9月27日交付)。どんな1年だったかをブリューマスターの齋藤健吾さんに話を聞いてきた。

次につながる飲みやすい味と日本産ホップを使ったピルスナー

「最高のスタータードリンクとなるビールですね」

ナンバー9のある「QUAYS pacific grill」では、自社で造るクラフトジンをはじめとしたアルコール飲料や店内で焙煎されたコーヒーなど多様なドリンクを用意している。ビールだけではなく色々なお酒やドリンクを楽しんで欲しいという思いから「アルコール度数は抑えて何杯でも飽きずに飲めるビール。次のお酒につながるきれいな味を目指しています」と齋藤さんは、ビールの特徴について話す。

しかし、それだけだとビールの印象が薄くなってしまわないだろうか。

「苦味を抑えてドリンカブルで飲みやすい味にしていますが、香りは強くしています」とこだわりを教えてくれた。普段、ビールを飲む機会が少ないお客様からは「香りがよくて飲みやすい」と良い反応が得られているという。

誤解がないようにお伝えしておくが、ナンバー9ではアルコール度数を抑えることでたくさん飲ませようとしているわけではない。豊富なアルコール飲料を選ぶ楽しさを感じながら食事と合わせて味わってほしいと願っているからアルコール度数を抑えたビール造りをしている。

左からCoffee Stout、Hammerhead Ale、No,9 Session IPA、Hazy IPA。どれも個性を立たせつつ飲みやすいビールだ。

そして、もう1つの特徴がある。それが日本産ホップへのこだわりだ。

その理由について齋藤さんは、「『QUAYS pacific grill』で提供しているニューアメリカン料理の考えからと日本のホップ産業を応援したい思いからです」という。

ニューアメリカン料理は、1つの特定した食文化やジャンルに属さない自由な発想と農場で収穫されたものをその地域で調理して食卓に出す「Farm to Table」という考えがある。

「日本で育てられて収穫されたホップを使ったビールを提供することはお店のコンセプトにも合いますし、ホップ農家さんのことも知ってもらえます」。使っているホップは、以前より交流のある山梨県北杜市の「小林ホップ農園」などの日本産ホップ。現在は「QUAYS Pilsner」に使っている。

日本産フレッシュホップを使用した「FARM TO GLASS GOLDEN ALE」。ビールに追いホップのサービスが付く。ちなみにこのアイデアは齋藤さんが思いついたもの。

次につなげるドリンカブルなビールと日本産ホップを使ったピルスナー。これがナンバー9のビールだ。

日本とニュージーランドで培った醸造経験を生かしたビールを造る

ナンバー9のある「QUAYS pacific grill」を運営しているのはレストランによる飲食事業やブライダル企画・運営をしている株式会社HUGE。自社でビール醸造を始めることにしたのは、横浜ハンマーヘッドの出店に際して、世間的に認知されはじめたクラフトビールを選択肢に入れることはお客さんにとってプラスになると判断したからだ。

「QUAYS pacific grill」は1階と2階があり、それぞれの階にテラス席がある。2階のテラス席は横浜の海やランドマークを一望できる。

お酒を含む多種多様なドリンクを提供する複合型レストラン「QUAYS pacific grill」でビール醸造を担当することになったのが齋藤さんだ。

ナンバー9の醸造設備。1回の仕込みは最大500L。発酵・貯酒タンクは別室にある。ビールの輸送は天井のパイプを通して行われる。

齋藤さんは神奈川県にあるブルワリー在籍時に飲んだ「インペリアルスタウト」に衝撃を覚えてブルワーになることを決意。千葉県にあるブルワリーで10年間ブルワーとして勤務した後に、ニュージーランドで醸造経験を積んだ15年以上のキャリアをもつ人物。

醸造を担当している齋藤さん。文中にあるインペリアルスタウトに出会うまでビールはそれほど好きではなかったという。

ナンバー9との出会いは「ニュージーランドからオーストラリアのブルワリーに移って仕事をする予定でした。でも家庭の事情で帰国することになり、知人にブルワーの仕事を探していることを相談していたところ当社を紹介してもらいました」という縁からだ。

レギュラービールは、「Hammerhead Ale(abv3.8%)」「QUAYS Pilsner(abv4.1%)」「Hazy IPA(abv5.1%)」の3種類。スタンダードから流行りまでバランスの良いラインナップを造っている。

この他にはアルコール度数が1.2%の「All Days Pale Ale」や自社焙煎所「HAMMERHEAD ROASTERY」で焙煎したコーヒー豆を使った「Coffee Stout」などを造っている。

現在、醸造はほぼ1人で担当。ビールは、「QUAYS pacific grill」の他に系列のレストランやオンラインショップでも飲むことができる。

ボトルビールは、オンラインショップや店頭で購入可能。また、缶クラウラーでも購入できる。

重層的な味でもっと飲みごたえのある低アルコールビールを目指す

コロナ禍の中で迎えることになった1周年。齋藤さんに目指すビールを聞いてみた。

「商品として楽しんでもらえるビール造りはできています。でも、それはスタートライン。理想とするビールまでは遠いです」

齋藤さんが理想とする低アルコールながら飲みやすさと飲みごたえを両立させたビール。今は、「アルコールが低くてすっきりしているが単層的」だという。

「世界でも評価の高いブルワリーはアルコール度数が高いものやホップが強く効いたものでも、高いレベルで全体のバランスがとれています。あれだけインパクトが強くても『もう1杯飲みたい!』という気持ちになります」と海外でビール醸造に関わって感じた味の層をいくつも感じる飲みごたえのあるビールを目指したいと話す。そのために「基本を大事にして1つずつレベルアップしていきたい」と力強く語る。

挑戦してみたいことについても聞いてみると「クラフトジンやコーヒー、『QUAYS pacific grill』の料理とのペアリング企画など店内コラボレーションはやりたいですね」と夢を語る。

シェフが厳選したサーモンの盛り合わせ「QUAYS SALMON SAMPLER」。レストラン一押しのメニュー。それぞれ違う味をビールと一緒に楽しめる。

10月31日(土)は、近隣のブルワリーとコラボレーションイベントを開催

横浜ハンマーヘッドの開業日である10月31日(土)には1周年イベントを開催する。当日は醸造開始してから最もホップを使用した1周年記念ビール「Double Hazy IPA」を開栓する。

1周年ビールの「Double Hazy IPA」。熟成段階の状態のものを特別に撮影させてもらった。パイナップルのアロマが華やかに香るビールで完成したらどんな味になっているのか楽しみだ。

また、横浜ビールが所有する「ビアバイク」使用したイベントも開催する。当日は横浜ビール、REVO BREWINGの協力を得て、各ブルワリーの見学とテイスティングをしながら巡っていく。ビアバイクの伴走には、各ブルワリーのブルワーが担当。同日に複数のブルワリーを見学しながらテイスティングができる貴重な体験ができる内容になっている。参加方法など詳細はブルワリーに直接問い合わせてほしい。

★ビアバイクツーリズムについてはこちらも参照・ご支援ください

横浜をビアバイクが走る魅力的な街にしたい!【 第一弾 ビアバイクツーリズム】

日本では低アルコールビールを中心に醸造するブルワリーは珍しい。「低アルコールビールならナンバー9が1番美味しい」といわれることを目標にビールを造り続ける彼らの挑戦を見守っていきたいと思う。

SPECIAL THANKS 能秀和

NUMBER NINE BREWERY Data

住所:神奈川県横浜市中区新港2-14-1横浜ハンマーヘッド1F(QUAYS pacific grill内)

電話:045-900-0310

営業時間:月曜日~木曜日11:00~22:00 金曜日11:00~23:00 土曜日8:00~23:00 日曜日8:00~22:00

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NUMBER NINE BREWERY齋藤健吾

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

こぐねえ(木暮 亮)

ビールコンシェルジュ

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは4000種類以上(もう数え切れません)。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

●音声配信アプリstand.fmで、ビールに恋するRadioを配信中
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【メディア出演】
<TV>
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<ラジオ>
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●JAPAN FM NETWORK系列「OH!HAPPY MORNING」
<雑誌>
●週刊プレイボーイ(2019年2月11日号、2020年12月28日号、2022年12月12日号、2023年10月9日号) ●DIME(2019年4月号)●GetNavi(2020年2月号) ●週刊朝日(2020年6月12日増大号)●食楽(2020 SUMMER No,116)●週刊大衆(2021年4月19日号、2021年7月12日号、2022年6月20日号)●BRUTUS(944号 2021年8月15日号)●東京人(no.463 2023年3月号)●BRUTUS特別編集 増補改訂版 クラフトビールを語らおう!
<Web>
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