【実験】【注ぎ分け】は回転数で味が変化するのか、それは本当に伝わるのか!?
『注がれるビールの味わいは「流速」と「グラスの角度」、液体がグラスに当たるまでの「距離」で変化する』と言われています。
また、上記の要素を調整することによって、グラス内に注がれる流体の動き方、すなわち回転の仕方や「回転数」が変わっていきます。
特に大手ラガービールにおいては、「注ぎの達人」と称される方々がその繊細なバランス感をもって多くの飲み手を唸らせ、喜ばせてきました。
「これがどの程度で一般の飲み手が感じるくらい変化が起きるのか、実験してみたい」
とある方にお声がけ頂いたのが事の始まり。
そう、「麦酒大学(ビールだいがく)」の「山本祥三」さんです。
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【前編】美味しいビールの条件-注ぎの極意-
「こんなマニアックな実験に付き合ってくれるお客様はいるのだろうか??」と私は(きっと山本さんも?)内心思いながら何と決行できましたので実験結果をまとめました!!
■ 「横回転」の回転数で味わいはどの程度変わるのか、感じられるのか?
諸条件以下の通り。
- 参加者は女性:男性=3:5で計8名。
- ビールは樽生「サッポロ生ビール 黒ラベル」を使用。
- 現代の主流である「泡付け機能付きカラン」で提供。生樽は24℃で1.5日以上静置、瞬冷式。
- 14ozグラスに泡なしで300ml注ぎ、下記の3種で飲み比べ。
①「回転なし注ぎ」:注ぎ時に回転をかけないよう優しく注ぐ
②「回転なし注ぎ+マドラ―で回転」:「回転なし注ぎ」と同一のビールに、マドラーを用いて「横回転を10回」加える
③「回転あり注ぎ」:「横回転」を注ぐ際に加える
※②より③の方が回転による衝撃が強く、味の影響が大きいと推測。
- 「回転なし注ぎ」の味わいを基準として、各項目を比較。強まったら「+」、弱まったら「-」。点数は±10を範囲として各自自由に記入。
補足しますと、サービング時には「縦回転」と「横回転」という考え方があります。
「縦回転」は衝撃がより加わるのでガス感を抜く、香りが立ちやすい、泡を形成しやすいなどの利点がありますが、酸素が供給されやすいのでえぐみが出やすくなります。
「横回転」は液体に加わる衝撃が少なく、より本来の味わいのまま注ぐことができますが、ガス感が残りやすくなります。これらを考慮して飲み手に届けたい味へとチューニングしていくのです。
今回は特に「横回転」でもその程度によって
・どれくらい味わいが変わるの?
・そもそも一般の飲み手の方にもその違いが伝わるの?
ということを調べる実験なのでした(かなりマニアックだと思います、はい)
■ 適度に「回転」させた方がビールは美味しくなる?
集計結果をグラフにまとめると下記のようになりました。
上記グラフから推測できることは以下の通り。
- マドラ―で少し回した程度では「炭酸の強さ」(ピリピリ感)を感じるだけという意見が多かった(その他の要素については大きな変化は感じない)。
- サービング時に「横回転」がかかっていると「マドラ―回転」よりは「炭酸の強さ」が弱くなったと感じ、「苦味」や「味の複雑さ」「余韻の長さ」が強くなったと感じる意見が多かった。
その他、各ビールの印象について感想を記述していただき、多かったワードをピックアップしたのが以下の通りです。
- 「回転なし」:「すっきり」「とがった印象」「おなかにたまる」
- 「マドラ―10回転」:・「ピリピリする」「発泡感強くなる」「口の中で大小の泡を楽しめる」「余韻は軽い(水っぽい)」
- 「回転あり」:「モルトやホップの「香り」の強さや「複雑さ」を感じる」「おなかにたまりにくい」
なお、「もう一度飲みたいビールはどれか?」という回答には③「回転あり注ぎ」が圧倒的に多く、8人中6人が回答しました。
適度にビールに回転をかけることによって、炭酸が抜け、同時に香りや味わい、「甘味」や「苦味」をより感じやすくなる。結果的に、「感知できる香味の要素が増える=複雑さが増した」と認知され、好印象に捉える人が増えたと結果より推測できます。
回転がたりなかったり、優しく注ぎすぎると「炭酸感が先行し、味を感じにくくなる、お腹にたまりやすい=もう一杯飲めない」と感じるようでした。
最後に…
注1) 個人の味の好みや体調、そもそものビールの品質や鮮度・保管状態等によっても感じ方は大きく変わりますので一概に正解はありません。
注 2) 特に味わいの強いクラフトビールにおいては大きな変化を感じることが稀なため、注ぎ分けはあまりおススメしません。
自身の好みに近づけるための参考としてご活用ください。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。