古き良きものに新しい要素を取り入れたビールを造る【ブルワリーレポート KUNITACHI BREWERY編】
東京都国立市に2020年10月29日に醸造免許(ビール・発泡酒)の交付を受けたKUNITACHI BREWERY(以下、くにぶる)。同年12月12日には、初仕込みビール「1926」をリリースした。
くにぶるは、明治43年9月に国立で酒や雑貨、薬などの小売り店として開業した「株式会社せきや(当時はせきや出張所)」のグループ会社である株式会社草舎が経営しているブルワリーである。
今回は、くにぶるがどんなブルワリーなのかをご紹介する。
目次
■古くからあるものや考えを大事にしながら、現代にアレンジして表現していく
くにぶるの中心的ビール「1926」。これはドイツ西部ケルンで古くから造られているケルシュというビアスタイルのビールである。この伝統的なビアスタイルをブルワリーの顔にしたのは、くにぶるの醸造哲学である「古いは新しい」からだ。
その理由をくにぶるの醸造長斯波(しわ)克幸さんは、次のように話す。
「国立の街は、2020年に駅の高架化工事のために解体・保存されていた旧駅舎(1926年建築)が再築されました。また、町全体を見ても谷保天満宮がある古いエリアと国立の市街地のある新しいエリアが共存しています。古いものに新しさを加えながら成長していく町のあり方とビール造りのコンセプトを一緒にしたい思いがあり、『古いは新しい』を醸造哲学にしています」
「1926」をケルシュにしたのは、アメリカのブルワーからも人気で、その良さを取り入れながら新しい要素を加えてオリジナリティを出している点に共感したから。
昔からあるものの良さを残しながら新しい要素を入れて表現をする。それがくにぶるのビールなのだ。
■地域でのつながりから新天地でのビール造りを決意
くにぶるのビール事業は、会長である関喜一さんが自社でお酒造りをしたいという目標の中から生まれたのが始まり。
しかし、会社の中にビール醸造に詳しい人がおらず、白羽の矢が立ったのが斯波さんだった。
斯波さんは国立市の隣、府中市の出身。しかし、最寄り駅が谷保駅だったため、生活圏は国立市の谷保の方が身近だった。当時は静岡県のブルワリーでブルワーとして活躍していたが、取引関係のあった株式会社せきや(以下、せきや)の酒類販売部門の矢澤社長が「ブルワリーを立ち上げる計画があるので、機会があれば一緒にやりませんか」と声をかけた。
「地元にいるときに、ビールを探しに行くのがせきやの酒屋でした」と縁もあり、くにぶるでビール造りを担当することを引き受けた。
くにぶるで斯波さんは、どんなビールを目指しているのだろうか。
「ドリンカビリティの高さですね。これは、私が以前勤めていた静岡県のブルワリーの考えからきています。『くにぶる』でも綺麗でドリンカビリティが高いビールを造っていきます。そのためには、酵母の発酵を的確に管理して十分に健全な発酵をさせることが重要だと考えています」
また、ビアスタイルを軸に味だけではなく、見た目の綺麗さからも「また飲みたい!」と思わせるビールを目指したいと話す。
■低アルコールを基本とした定番シリーズとブルワーの独創性を発揮したシリーズの2つの軸を展開
先に書いたように、フラッグシップは「1926」である。ビールをリリースして1ヶ月が経った中、定番ビールや限定ビールへの考えを聞いてみた。
「今の時点で定番ビールは明確に決まっていません。候補として『1926』を含む3種類のビールを定番化しようと考えています」
候補として考えているのが、Hazy IPAスタイルの「るつぼヘイジー」とHazy Session IPAの「世界は点滅するモザイク模様のように」の2種類。Hazy Session IPAは、今後ビアスタイルを変更する可能性があるとのこと。
この他にも200Lの小さな醸造設備で造るINDIVIDUAL ORCHESTRAがある。これはブルワー以外のプロフェッショナルとのコラボレーションや実験的なビールのシリーズだ。
定番ビールは、全体のバランスがとれて飲みやすいビールを提供したい考えからアルコール度数を抑えたラインナップを中心に展開していくと言う。
アルコール度数を低くする理由の1つとして、「高アルコールになるとフーゼルアルコールなどのシンナーのような香りが気になります。その香りを抑えて飲みやすさを出したい」と話す。
好みはあると思うが、ビールには色々な種類があることを知って、楽しんでもらうのにアルコール度数を低くすることは良いことだと思う。
くにぶるでは、商品名でも醸造哲学である「古いは新しい」を取り入れている。
「私は音楽が好きで、言葉の響きというものに温かみを感じています。こうした思いもあって、商品名には意味やストーリーを持たせて付けています。例えば、『1926』は、国立駅の駅舎を大事にして新しい駅に融合させた点と『古いは新しい』という醸造コンセプトにかけ合わせて名付けています」
定番シリーズは地域に関連したものを考えていくといい、INDIVIDUAL ORCHESTRAシリーズでは、ブルワーの独創性を発揮したネーミングでつけていくという。
■多くの人が携わって1つのビールが世に出ることに感動
「初仕込みの『1926』が販売された時は感動しました。このビールは、朝から仕込みを始めて自宅に戻ったのは日付が変わってからでした。初めての仕込みと言うこともあり、設備を動かすのに慎重になったり、操作を間違えそうになったり。想像していたよりも時間がかかりました。
今、ビールの企画から醸造まで担当していますが、ラベルデザインやキャッチコピーは外注で、タップスタンドのビールを販売はせきやのスタッフが担当してくれています。それを見てみんなで仕事をして1つのビールが完成するんだなと実感したら涙が出てきました。くにぶるのイメージをどうするのかをみんなで考えてゼロから築き上げて形ができたことは自分の財産になりました」
ゼロからブランドを築き上げる時間は、静岡のブルワリー時代は経験することはなかったため、入社から初リリースまでの時間は貴重だったと話す。
■将来的には、国立以外の人たちからも愛されるブルワリーに成長させたい
ビールの販売開始から1ヶ月。最後に本格的に動き出したくにぶるのこれからについて聞いてみた。
「今は地元に根付いたブルワリーを目指して国立中心に展開しています。将来的には外の地域の方にも飲んでもらって、国立に興味をもってもらえるよう展開していきたいです」とオンラインショップや販路の拡大をしていきたい考えだ。
くにぶるのビールは、国立駅前の「SEKIYA TAP STAND」で飲むことができる。今後は、「目黒にある『THE DODO HOUSE』さんが常設店になる予定ですし、神保町の『日ノモトビアパーラー』さん、銀座の『るぷりん』さんでも、よく飲めるようになると思います」とビアパブなどでも飲める準備を進めている。
醸造関連では、「コラボレーションを通じて、お互いのファンが飲みたくなるビールを造り業界を盛り上げたいです」と展望を話す。
くにぶるのビールは始まったばかり。これから、どんどん綺麗な色、香り、味のビールで私たちを楽しませてくれるでしょう。引き続き注目していきたい。
Photo by PhantomZebra
KUNITACHI BREWERY Data
住所:〒186-0002 東京都国立市東3丁目17−28 草舎ビル 1F
お問い合わせ:ウェブページにあるCONTACTから
SEKIYA TAP STAND Data
営業時間:月~土 13:00~21:00 日13:00~20:00
場所:東京都国立市中1-9-30 せきや1F
アクセス:JR国立駅南口から徒歩1分
※営業時間は変更になる可能性があります。
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