2021 ビール市場予測ー鍵は主力ブランド強化・家飲み・健康
「2020年ビール市場予測レポート」(2020年1月19日投稿)は、「おそらく日本の歴史の中でも記録と記憶が残る2020年がスタートした」でレポートをスタートした。感動と歓喜に沸き立つ日本。そんな輝かしい記憶として刻まれることを予想した文章であったが、残念ながら全く違った状況で、忘れることは決してない2020年となってしまった。
そして現在も、世界で収まることのない新型コロナウィルスの脅威。対策は徐々に進みつつも、まだまだ 不安が払拭されないままに、2021年がスタートした。ビール各社の事業方針発表から、今年の市場を予測する。
■ 2020年を振り返る
2020年の国内ビール類総市場(※1)は前年比91%程度と推定される中、ビール4社が発表した2020年の販売実績は、金額ベースで、アサヒビール 5,613億円(前年比84.3% ※2)、数量ベースで、キリンビール 12,941万ケース(前年比95.5%)、サッポロビール 3,995万ケース(前年比92% ※2)、サントリービール 6,475万ケース(前年比91% ※2)だ。
2019年に引き続き、各社が注力するのは主力商品の強化だ。アサヒビールは、『アサヒスーパードライ』のイメージ訴求の強化を図り、『アサヒスタイルフリー<生>』がビールらしさと糖質ゼロの両立で前年比105.1%の達成する。キリンビールは、主力商品の中でも『一番搾り』の缶商品、新規投入した『一番搾り 糖質ゼロ』『本麒麟』が売り上げを牽引。サッポロビールは『サッポロ生ビール黒ラベル』缶が前年比107%、『ヱビスビール』缶が102%、新ジャンル『GOLD STAR』『麦とホップ』のツートップ戦略が奏功。サントリービールは、”神泡”プロモーションを継続。酒税法改正10月以降『ザ・プレミアム・モルツ〈香る〉エール』は前年比123%、四季の金麦シリーズは前年比100%と過去最高、『オールフリー』シリーズブランドは前年比108%を達成。
※1 ノンアルコール市場を含む ※2 ビール、新ジャンル合計
■ 2021年。濃霧の中のスタート
車で山道に差し掛かった時、突然の濃霧に襲われることがある。日中でも先が全く見えなくなることもあり、それが夜間であればなおさらで、先の見たさでライトを上げれば更に視界は悪くなる。そんな時は心を落ち着かせ、焦る気持ちを抑えつつ、ひたすら足元に見える道路のセンターラインなどを頼りに、曲がりくねった道を慎重に走るしかない。
2020年、そして2021年のスタートは例えるならこんな状況なのではないだろうか。各社の主力ブランドの強化は、本来は主に酒税法改定を見据えた上での戦略と捉えているが、このコロナという濃霧に覆われてしまった今、まさに頼りの ”センターライン” の存在になっているのではと考える。
そして、余儀なくされるステイホームの生活を少しでも楽しむために、もっとリーズナブルに、または外飲みの代わりにちょっと贅沢に…といった家飲み需要や、さらに高まる健康志向のニーズに応えていくことが、先の見えない濃霧を乗り切る道標になると予測される。
〔アサヒビール〕
『アサヒスーパードライ』は、“ビール飲用価値の再発見と特別な飲用体験を演出すること”を活動テーマに、まず4月には、開栓することできめ細やかな泡が立つ『アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶』を発売。また、健康志向のニーズに『アサヒスタイルフリー<生>』新ジャンルの『アサヒ オフ』、また、新ジャンルでは、味わいのニーズで選べる『クリアアサヒ』『アサヒ ザ・リッチ』に注力。業務用では『ピルスナーウルケル』の取り組みを参考に新たな呼称制度「タップエリート」を導入。高品質な提供とともに『スーパードライ』ブランドの魅力発信を担う。また、『ピルスナーウルケル』の缶容器(330ml)を4月に首都圏・関信越エリア限定で通年発売し、6月には全国で完全予約受注制で発売。また、ビールメーカーで唯一の「東京2020大会ゴールドパートナー(ビール&ワイン)」として、東京2020大会の盛り上げを図る。
★タップエリートをイメージした30秒動画「最高の乾杯」編
https://www.asahibeer.co.jp/superdry/shijosaiko/
〔キリンビール〕
「強固なブランド体系の構築」と「課題解決による新たな成長エンジン育成」に取り組む。前者では、2026年の酒税一本化に向けて、定番・健康志向・高付加価値それぞれの主力ブランドの強化を図る。定番は、糖質ゼロも加わり更に好調な「一番搾り」ブランド、2020年に前年比132%を達成した『本麒麟』、健康志向には、リニューアルする『GREEN’S FREE』や機能性を謳うノンアルコールビール『カラダFREE』など、高付加価値として『Brocklyn Brewery』『Spring Valley Brewery』など。後者では、巣ごもり需要で高付加価値なビール提供に応える「KIRIN Home Tap」の展開基盤を整え、また、2020年にテスト展開をスタートした小規模飲食店向け新サーバー「TAPPY(タッピー)」の全国展開も目指す。
〔サッポロビール〕
消費の二極化が更に当たり前となると予測し「プレミアム価値」と「リーズナブル価値」を追求。前者では、特に注目なのが、ヱビスブランドへの再注力。”ちょっと贅沢”のビールから、個人が多様性を楽しむ自分らしさを楽しむブランドへとシフトし、ヱビスブランド計で前年比105%を目指す。6年連続売上UPの『サッポロ生ビール黒ラベル』缶の他にも、『SORACHI1984』『SAPPORO CLASSIC』『サッポロラガービール』など個性あるブランドの強みを更に打ち出す。後者では、販売計画比135%目標の『GOLD STAR』、そして『麦とホップ』を新ジャンルのツートップとし、春前にリニューアルを予定。また、ノンアルコールでは、世界初尿酸値低減効果のある『うまみ搾り』で健康志向に応える。
〔サントリービール〕
国内ビール類総市場およびノンアルコールビールテイスト飲料を除く国内ビール類市場は、ともに対前年97%程度と推定。その中で、事業の中核となる『ザ・プレミアム・モルツ』『金麦』『オールフリー』各ブランドのバリューアップと新価値提案を行う。『ザ・プレミアム・モルツ』では”神泡”プロモーションを継続。特に料飲店での”神泡”による感動体験の創出に注力する。『金麦』では、昨年からスタートした「四季の金麦」を継続し、2月には『金麦ラガー』を新発売。また、『オールフリー』も引き続き「アルコール度数0.00%」「カロリーゼロ※3」「糖質ゼロ※4」「プリン体ゼロ※5」を実現した機能はそのままに中味・パッケージを一新。
※3 食品表示基準に基づき、100mlあたり5kcal未満を「カロリーゼロ」としています。
※4 食品表示基準に基づき、100mlあたり0.5g未満を「糖質ゼロ」としています。
※5 100mlあたり0.5mg未満を「プリン体ゼロ」としています。
■ 外食産業の光はまだ遠く
1月6日(水)に開催されたキリンビール株式会社の事業方針発表で、記者から「緊急事態宣言に伴う飲食店の時短営業などに伴う業務用の風当たりに対しての戦略は」との質問に、代表取締役社長の布施孝之氏は、まずは、現状を大変憂い、ひいては今後の経済への影響を大いに危惧しつつ、「(現状は)これといった戦略は、正直、ありません。昨年から引き続き行っていることですが、料飲店や外食の皆様と同じ立場、同じ気持ちで寄り添い、皆さんの困りごとに我々ができることを提案し取り組んでいく、ということに尽きると考えています」と答えた。
そんな状況はクラフトビールを造る小規模ブルワリーにも大きく影響している。早くから缶ビールとしてコンビニエンスストアなどでの販路を拡大してきたヤッホーブルーイングの『よなよなエール』は、2020年の販売数量が前年比で33%の増加を記録した一方、瓶や缶のビール販売をこれまで行っていなかったブルワリーは大打撃を受けている。ブルワリー間の協力販売などの活動も様々行われているものの、家飲み需要の対応力が明暗を分けているとも言える。
山道の霧は、濃淡を繰り返し、そしてびっくりするほど何事もなかったように視界がクリアになる時が来る。今は、その時が早く訪れることを強く祈る。
アサヒビール:ニュースリリース ~2021年 アサヒビール事業方針~
キリンビール:2021年 キリンビール事業方針
サッポロビール:2021年 サッポロビール 事業方針
サントリービール:2021年 サントリービール(株)事業方針
※掲載はアイウエオ順
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