泡の出る缶ビールが登場。第二次容器戦争は勃発するのか!?
つい最近、アサヒビールから「スーパードライ生ジョッキ缶」を発売すると話題になりました。
中身はスーパードライですが、ふたを開けると泡が自然に発生する仕様になっていて、発売前から様々なメディアで注目をされています。
この商品のように、中身が同じビールを容器の形状を変えて発売する流行が、かつての日本にもありました。
ビール各社による容器戦争へ
今から約40年前、まだクラフトビールも誕生していない時代にビール業界ではこんな風潮がありました。
【ビールの味はどれも似ているため、味での差別化は難しい。容器で差別化しよう。】
昭和56年(1980年)あたりから様々な容器のビールが発売され、昭和58年(1983年)ころにはビール会社各社が多大な広告費と工夫を凝らして、中身のビールは変えずにいろんな形状の容器を使用して商品を発売しました。
◆アサヒビール:当時の面白い容器
・生ちょうちん
◆キリンビール:当時の面白い容器
・ビヤシャトル
◆サッポロビール:当時の面白い容器
・右から竹取物語、√1/2、(ルート2分の1)
・サッポロ生ロボ
出典:ビール呑みの自由帳
◆サントリー:当時の面白い容器
左からこまる・にっこり・まる生
今ではSNS映えしそうな容器ですが、当時でも一瞬は盛り上がりを見せました。
しかし、中身のビールを変えずに外見(容器の形状やキャラクター)を変えるという目先の変えただけの競争は、次第に消費者に飽きられて、当時のメディアからも「本末転倒だ」と揶揄されたこともあり沈静化されます。
ビール会社各社の開発が中身ではなく容器に注がれたれたこの時代の競争は、後に容器戦争と呼ばれるようになりました。
日本ではいまいちでもアメリカでは大好評!?
この容器戦争の唯一の成功事例はサッポロカップ生650mlです。
缶ビールながら大瓶633mlよりも多いこの商品は、容器戦争中の日本では全然売れず失敗に終わりました。単純に缶ビールとしては量が多過ぎたのです。
しかし、サッポロの当時の経営戦略でアメリカでの発売に踏み切ったところ、これが大当たり。当時、この大容量ビールは大人気となり、その人気は現在でも続くシルバーサッポロとなります。やはりアメリカはスケールが大きいですね。
・(写真左)輸出した当時のサッポロカップ生(写真右)現在のシルバーサッポロ
容器戦争の終戦から30年以上が過ぎた今、歴史は繰り返すのか?
今回のアサヒの商品の発売をきっかけに、ビール業界の歴史は繰り返すのでしょうか。
あくまで私の個人的な見解ですが、再び容器戦争は起こらないと読んでいます。理由は3点あります。
①泡の出る缶ビールの需要があるかどうか。
1986年にサントリーから泡の出し方こそ違いますが、泡の出る缶ビールを発売していました。もし泡の出る缶ビールに需要があれば、こちらの商品もロングセラーになっていたはずです。しかし、今この商品はありません。
・1986年に発売したサントリー商品
「ゆっくりフタをあけた後、缶底のクリップを軽く指でひいて2、3回はじいてください。クリーミーな泡立ちで生ビールがよりいっそうおいしく召しあがれます。」(缶の側面に書いてある説明より)
出典:KUMAOの押入
②泡の安定性。
どんな状態で開けても、安定してジョッキビールのような泡が出たらとても魅力的ですが、中身のビールの温度や缶の振動によっては吹き出て大切な衣類が濡れた、なんてご指摘に繋がりかねません。他のビール会社もそこは慎重になる点かと思います。
③コロナ禍の接触にネガな状況。
外出自粛による家飲み需要の増加で、缶ビールのトレンドは上がってます。接触することに過敏なこのご時世で、缶から直接飲む前提のこの提案がどれだけ多くの方に受け入れられるかがカギになりそうです。この結末は、現時点でまだ誰にもわかりません。
私の予想に反して、この商品で新しい缶ビール文化が誕生したら、業界全体には面白い変化が起こりますね。消費者の好みの多様化が進む現代において、どんな結末を迎えるのか。今後のビール業界にますます注目が高まります。
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