【大三島ブリュワリー】神の島の地ビール【四国麦酒遍路 第6番泡所】
島ビール
何かワクワクする良い響きですね。
行きつけの店で独り飲むビール、
気の合う仲間と飲むビール、
新たな出会いに乾杯して飲むビール、
自然の中で陽射しを浴びて飲むビール、
家で寛ぎながら晩酌で飲むビール、
それぞれ違ってそれぞれ良い。
美味しいビールがそこにあることが大事。
特に、旅先で飲むビールにはその味わいに華を添えるエッセンスが溢れているのではないでしょうか。
1/727、1/6,852
我が国は大小7,000に迫る島からなる島の集合体。瀬戸内にはその1/10以上、727(※周囲0.1km以上)もの島があります。小さな島も数えると3,000とも。
島、海、空が織り成す景色は雄大で情緒があって、そこに住んでいる人にとっては日常であり、旅する人にとっては非日常でもあり。昔懐かしい情景はとても魅力的で、ずって見ていたくなるものです。
今回の麦酒遍路の舞台「大三島」は、愛媛県今治市と広島県尾道市を繋ぐしまなみ海道にある人口5,000人ほどの島。海道が繋ぐ島の中で一番大きな大三島は、古来より神の島と崇敬され、大山祇神社が鎮座し、島でありながら漁業が盛んではなく、観光や果樹園などが主要産業の長閑な島。
2018年、そんな島にクラフトビールの火が灯りました。
その名は「大三島ブリュワリー」
島の名前を冠し、クラフトビールより地ビールを標榜する、地域に根差したマイクロブルワリーの誕生です。
大三島ブリュワリー誕生秘話
大三島ブリュワリーは、代表であり醸造責任者でもある高橋享平さんと、妻の尚子さんの二人だけで運営されています。まずは感動の誕生ストーリーをご紹介しましょう。
享平さんとクラフトビールとの出会いは、大学時代まで遡ります。
元々ビールが大好きだった享平さん、とあるビールのイベントで箕面ビールに感銘を受け、一気にビール熱が上がったそう。ついには、大学を休学してまで大阪の箕面ビールで働き始める程のめり込むことに。凄い行動力ですね。最終的に大学院を卒業することになりますが、次第にビール中心の生活となっていきます。
その後、正式に箕面ビールの社員となり、同じ大学の尚子さんと結婚し、やがて一緒に働くようになります。当時の享平さんは、独立心は全くなく、箕面ビールに骨を埋め、恩返しをするつもりだったそう。
しかし、ある時転機が訪れます。
「田舎で暮らしたい」
切っ掛けは尚子さんが漏らした一言。
既にビールを溺愛していた享平さん、ビールの仕事を続けたいという気持ちを胸に、尚子さんの提案を受け入れました。
方向性が決まれば、次はどこでビールを作るか、早速候補地を探し始めます。
キーワードは「田舎」と「観光地」、そして「一番目」であること。
最初の候補地は尚子さんの好きだった屋久島。何度か訪問して条件を確認したところ、電力事情の脆弱さや、既にブルワリーを計画している方がいたこともあり、候補から脱落。
さて、どうしよう? 尚子さんの実家でもある富山も候補地に上がったようですが、最終的に白羽の矢が当たったのは、享平さんの故郷愛媛県にある大三島。絵に描いたような田舎で、大山祇神社という唯一無二の観光資源があり、そして、しまなみ海道で一番最初のブリュワリーであることが決め手。しまなみ海道がサイクリングブームで人気を博していたことも肩を押してくれました。
大三島ブリュワリーの哲学
場所が決まれば次はブリュワリーの立ち上げです。高橋夫妻には譲れない考えがありました。
「自分達のビールは大三島で飲んで欲しい」
このことを伝える前に、少し説明が必要です。
クラフトビール作りは設備産業であり、基本的に初期投資が大きな仕事。そして、ビールが嗜好品であるため、酒税も掛かりますし、高い値付けが難しく、一本あたりの利益はそう多くありません。沢山仕込んで沢山売ることで、利益を積み上げていくのです。
話を戻します。
大三島ブリュワリーは瓶ビール、缶ビールを作っていませんし、樽ビールも積極的に出荷していません。これは何を意味するのか? 島で販売するしかないってことですね。飲み手は5000人の島民からと観光客が中心になります。これは事業的には大変な決断。
まずは、クラフトビールに慣れていない島民に愛されること。最初は苦労したそうです。ビールの説明をしても的を得ないし、売れると思ったものが売れない。しかし、根気よく接していく中でクラフトビールが次第に島民の生活の一部になっていきます。奇をてらわない美味しいビールをコツコツと作り続けたことが良かったと享平さんは言います。箕面ビールでの経験が大いに生かされたのです。
島民の次は島に来て飲んで貰うこと。
こちらは狙い通り、しまなみ海道が大活躍。
サイクリストや観光客が噂を聞き付けて立ち寄ってくれるようになりました。
勿論、飲酒運転にならないよう、コロナ禍の今や当たり前になったペットボトルやグラウラーでのテイクアウトにも逸早く対応。
気がつけば、思い描いたイメージを実現していたのです。
参道に溶け込むブリューパブ
大三島の宮浦地区、山祇神社と三島神社の総本社、大山祇神社の綺麗に舗装された参道を歩いていると、幟がなければ見過ごしてしまいそうな古民家ブリューパブ。高橋夫妻が作り上げた、大三島におけるクラフトビールの聖地と言っても過言ではありません。
向かって右手が醸造スペース、左手がタップルームの間取り。
タップルームの暖簾を潜ると、まず昔の土間のような空間がお出迎え。リノベーションされた空間に背の低いソファとテーブルがあって靴のままビールを楽しめます。
靴を脱いで一段上がるとガラリと雰囲気が変わり、畳に座布団と卓袱台、更に奥には日当たりの良い中庭。座布団に腰を下ろすと、田舎に帰った時のような錯覚を覚えます。
綺麗にメンテナンスされた醸造設備を眺めながら美味しいビールが楽しめる癒しの空間があるって、ご近所さんが羨ましい。
地ビールの秘密
大三島ブリュワリーのタップルームには4タップしかありません。ブリューパブのタップ数としては少ない方ですが、享平さんは十分だと言います。数が多過ぎると選ぶのが大変だし、樽の回転数を上げて常に新鮮なビールを提供したいのだそう。
そして心掛けているのは、ずっと飲み続けられるビール、おかわりしたくなるビールであること。それゆえスタンダードで適度なアルコール度数のビールが多くなります。
そんな飲みやすいビールの方向性は尚子さんが船頭さん。実はハーフパイントで酔っ払うくらいアルコールに弱い尚子さん。そんな尚子さんだからこそ、お客さんの気持ちに寄り添えるのかもしれません。
今回取材しながら飲んだビールを感想と共にご紹介します。
クリアなイエロー
泡はキメ細かく持ちも豊か
大三島産甘夏を贅沢に使った
ノンベルジャンなホワイトエール
仄かにコリアンダー
小麦由来のフルーティーさはスッキリ
苦味は殆ど感じません
クリアでキレのある仕上がり
光の加減か、少しくすんだイエロー
泡立ちは豊かで持ちがよく
爽やかな柑橘のアロマ
レモン、レモングラス、少し草の香り
口に含むと先ずストレートな甘味
モルト感がクリアに感じられます
ホップ由来のフルーティーさも綺麗
苦味は優しめでスッキリとした飲み口
ほぼ癖がなくグビグビ系ドリンカブル
一番人気の豚トロベーコンがあればおかわり間違いなし
色味は微かに濁ったオレンジイエロー
前の二杯より一際泡も持ちも豊か
アロマは柑橘系でちょいトロピカル
口に含むと柔らかいフルーティーさ
仄かにイチゴのニュアンス
少しトロリとした口当たりに
スッキリした苦味
フルーツガンガンって感じではなく
フレッシュな柑橘の飛沫を浴びるような
とても心地良い味わい
4タップのうちの黒一点、泡はふわふわ
アロマはカカオの甘いニュアンスに
閾値を越えない絶妙なロースト感
口に含むとローストモルトの甘味
ビターチョコのキャラクター
カカオの苦味が柔らかい甘味を纏い
ノンストレスでマイルドだけど深い味わい
ドライフルーツとの相性は抜群
どのビールも飲み易く、おかわりしてしまうこと請け合いです。
今後、タップの1つをハンドポンプにする予定もあるようですし、それもまた楽しみですね。
大三島で地ビール、飲んでみませんか?
地ビールに徹する大三島ブリュワリー。
順調な船出でしたが、コロナ禍の影響は甚大だったそう。
主要な観光地である大山祇神社の参拝客やサイクリストの激減でビールの出荷量も激減。
島民のファンの方々に助けられながら、地元以外のイベントへ出店したり、特別に卸したりしたそう。
しかし、その哲学はぶれていません。
地ビールに拘り、顔が見える商売に徹し、夫婦がやりたいことだけに集中するスタンスは健在。
これからも二人だけで細く長く続けていくと言い切る享平さん。
「地ビールさん」
そう地元の方に呼ばれる大三島ブリュワリー。
そんな地ビール、皆さんも飲みに行きたくなりませんか?
ブルワリー情報
屋号:大三島ブリュワリー
住所:愛媛県今治市大三島町宮浦5589
(JR予讃線/今治駅からせとうちバスで約70分、「宮浦港」バス停から徒歩5分)
営業時間:
木曜日~月曜日 12:00~19:30
定休日 火曜日、水曜日
※2021年5月23日現在
新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間・定休日が記載と異なる場合がございます。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。
タップ数:4タップ
ビールサイズ:
(店内)
ハーフパイント 550円~
1パイント 870円~
(テイクアウト)
カップ 600円~
ペットボトル 940円~
(量り売り)
100ml 165円~
食事:つまみ類の軽食主体
その他:ソフトドリンク有り、全面禁煙
駐車場:4台、店舗前にサイクルスタンド有り
最寄りの札所:四国霊場第54番札所『延命寺』
ブルワリーからしまなみ海道の自転車歩行者専用道路経由で42㎞/徒歩9時間/10パイント分
※体重60㎏、時速5㎞、1パイント473ml190kcal換算
Facebook: https://m.facebook.com/omishimabrewery/
Instagram: https://www.instagram.com/omishimabrewery/
四国麦酒遍路🍺泡所一覧
第1番泡所:ミロクブルワリー(讃岐国)https://www.jbja.jp/archives/31794
第2番泡所:DD4D BREWING(伊予国)https://www.jbja.jp/archives/31795
第3番泡所:今治街中麦酒(伊予国)https://www.jbja.jp/archives/31796
第4番泡所:Mukai Craft Brewing(土佐国)https://www.jbja.jp/archives/34738
第5番泡所:TOSACO(土佐国)https://www.jbja.jp/archives/34739
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。