立川の地からビアスタイルの原型を発信する立飛麦酒醸造所
年の瀬も迫る2021年12月16日。東京・立川に新しいブルワリー「立飛麦酒醸造所」がオープンしました。
まだ先が見えないコロナ禍。そして、日本で1番ブルワリー数が多い東京(※)で、彼らはビールで何を伝えたいのでしょうか。現地を訪れ、醸造長の清水秀晃さんにお話を聞きました。
※商業用に稼働しているブルワリーは80。うち23区内は62ブルワリー。2021年12月28日現在 当協会調べ
目次
戦前からあったクラフトマンの土地に思いを込めたブルワリー
「ブルワリーを始めるきっかけとなったのは、西国立にあった『カミカゼビール』を再開することでした」
「カミカゼビール」は、株式会社無門庵が経営していたブルワリーで、2019年に残念ながら醸造を中止しています(醸造免許は返納)。
「事業が停止した後に、『立飛麦酒醸造所』の母体会社である立飛ホールディングスが土地建物すべてを譲り受け、再開を目指すことになりました。当初は、もともとあった醸造設備で進める計画でしたが、老朽化が進んでいて色々故障している箇所があったり、狭いスペースで作業をするのが難しかったりしたので、名前や場所、設備全てを新しくして始めることになりました」
そこで、候補地に挙がったのが立飛ホールディングスの所有するこの場所でした。
「この土地は、戦前に飛行機を設計・製造する『立川飛行機株式会社』という会社がありました。飛行機をつくる人とビールをつくる人。同じクラフトマンの思いを継承する意味を込めて、あえてブルワリーではなく『立飛麦酒醸造所』と名付けました」
使用するのは麦芽とホップだけ。本格派ビールでビアスタイルを伝えていく
新しいブルワリーとなると気になるのがコンセプトやビールの特徴です。
「立飛麦酒醸造所のコンセプトは、基本に忠実な本格派ビールを提供するブルワリーです。使用するのは、麦芽とホップ、水、酵母だけ。そのためにビール免許を取得しました。ビールは無濾過で魅せていきます。ピルスナーは特に力を入れていて、SMaSH(シングルモルト&シングルホップ)でつくっています」
ここ数年、日本では小規模ブルワリーの数が増え、様々な副原料を使用した個性的なビールや派生スタイルが登場しています。そのよう中、清水さんは「各スタイルの原点を知ってほしい」という思いを込めて、ベーシックなビールを提供したいと話します。
そのうえで、「長い醸造経験で培ってきたエッセンスを取り入れています」と話し、ブルワリーの独自性を打ち出しています。
ベーシックなビールを提供する立飛麦酒醸造所。スタートはレギュラービール3種類と準レギュラービール1種類を展開しています。
レギュラービールは、立飛ピルスナー、立飛ペールエール、立飛ヴァイツェン。準レギュラービールは、ゴールデンエールです。今後、準レギュラーはIPAなど充実させていきます。
立飛ピルスナー
アルコール度数:5.0% IBU:20.3
ボヘミアンピルスナー。ピルゼンモルトとチェコ産ザーツホップのみを使用。長期熟成させることで、優しいモルトの風味とホップの香りが楽しめる。
立飛ペールエール
アルコール度数:5.5% IBU:21.2
ホップは、モザイクをはじめ数種類を使用。華やかな中にも品のある香りが楽しめる。はじめて飲む人にも飲みやすいよう苦味は控えめに設定している(2ndバッチからIBUは少し高くなる予定)。
立飛ヴァイツェン
アルコール度数:5.0% IBU:14.1
軽い酸味と酵母が醸し出すバナナ香が楽しめるビール。そこにメロンのような香りを特徴にもつヒューメロンというホップを使ってフルーティーさを強めたヴァイツェン。
ゴールデンエール
アルコール度数:5.5% IBU:23.1
何杯飲んでも、毎日飲んでも飲み飽きないがコンセプト。のど越しは良く、ホップの苦味の余韻も長く楽しめる。ホップは、グレープフルーツを思わせるアメリカ産タラスを使用。
ビールはタップルームで飲めるほか、ボトルビールをタップルームやオンラインショップ、立川周辺の一部スーパーで購入可能です。また、樽ビールは立飛ホールディングス株式会社の関連施設やブルワリー周辺の商業施設、取引のあるビアパブなどで飲めます(2022年1月上旬現在)。
タップルームでは、ピルスナーウルケルでおなじみのブリタニアジョッキ(Mサイズのみ)で楽しめます。
ブルワリーの設計から醸造免許の申請。新型コロナも影響もあり伸びたオープンまでの道のり
「今度、立川に新しく立ち上げるブルワリーに移ることにしました」
清水さんから立飛麦酒醸造所の計画を聞いたのは2020年2月。筆者と清水さんを中心に計画していたビールイベントが新型コロナの感染拡大で中止することにした直後でした。
そこから約2年。オープンまでの長い道のりを振り返ってもらいました。
「前のブルワリーで長いことビール醸造に携わってきましたが、ゼロから立ち上げるのは初めて。ここまで色々な経験をさせてもらいました。立飛麦酒醸造所には、建物をつくるところから関わらせていただいたので、醸造設備から仕事をする上での導線まで自分の意見を取り入れてもらいました」
少人数でブルワリー業務を行うため、醸造設備は機械で対応できる部分は自動化して対応するなど工夫をしています。
何もないところからつくり上げてきた清水さん。その中で最も苦労したのがビール免許を取得する過程だと言います。
「ビール免許は、年間の最低製造数量が60KL必要になります。税務署としては、年間醸造量が多いのできちんとつくって販売していけるのかを確認する必要があります。認めてもらえるまで、何回も書類を作成したり、直したりして、その都度税務署に連絡して足を運びました。結局、最初の申請から許可が下りるまで1年半の時間がかかりました」
母体会社もビール事業は初めてのことなので、ビール免許取得までに時間が必要なことを説明して理解を得ることも大変だったと言います。
「その間はビールをつくることができなかったので技術面の心配もありました。でも、ようやくビールをつくれるようになって、実際に飲んでもらって自分も会社も安心した感じはありますね」と話す清水さんの笑顔が印象的でした。
業界に関わる人たちとともに、もっとクラフトビールを盛り上げたい
始まったばかりの「立飛麦酒醸造所」。これから先、どんなことに挑戦してみたいのかを聞いてみました。
「IPAのように次々に派生のビアスタイルが生まれて多様化してきています。それは喜ばしいことですが、私たちは今一度、原点となるビアスタイルを見つめ直していきます」
各ビアスタイルの原型を知り、楽しんでもらえるように、品質を高めて自分たちのビールに磨きをかけていくと語ります。
「それと、クラフトビールの業界はまだまだ伸びしろがあると思っています。業界の課題をクラフトビールに関わる人たちと一緒に取り組んで、もっと愛される存在にしたいですね」
ブルワリーの数も増え続け、身近な存在になってきているクラフトビール。力を合わせて、もっと身近な存在にしていきたいと話します。
コロナ禍の難しい状況の中、スタートした「立飛麦酒醸造所」。クラフトマンがいたこの土地から彼らがどのようにして日本のクラフトビールシーンを盛り上げていくのでしょうか。注目してきたいと思います。
立飛麦酒醸造所 Data
住所:〒190-0011 東京都立川市高松町1-23-14
電話:042-527-1894
FAX:042-527-1895
タップルーム営業時間:11:00~18:00
定休日:火曜日・水曜日
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。