「松江ビアへるん」矢野学さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは? 「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.1」レポート
「日本オリジナルのビアスタイルは何だろう?」
ここ数年、日本ではブルワリー増加。創造性に溢れたビールが登場してきているが、「日本オリジナルのビアスタイル」は確立していない。
「いま、ブルワーやビール業界の関係者は、どのように考えているのかを知りたい」。その思いから株式会社CRAFT BEER BASEの谷和さんが立ち上げた企画「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。
3月22日(火)に島根ビール株式会社(以下、ブランド名「松江ビアへるん」で記す)の矢野学さんをゲストに迎えて第1回がオンラインで開催された。
その内容をイベントの進行役を務めた筆者がまとめ、レポートしていく。
日本特有のお酒である日本酒がポイントになる?
今回、谷さんが「松江ビアへるん」を選んだのは、「おろち」という日本酒とのハイブリットビールを造っていることが理由だ。
「おろち」は、2012年から発売している数量限定ビールで、島根県の酒蔵を毎回変えながらコラボレーションしているビールである。きっかけは、日本酒造りにあこがれを持つ矢野さんが「誰もやったことがないビールを造りたかった」思いから生まれた。2019年まではお神酒ビールとして楽しんでほしい思いから年末に発売していたが、2020年と2021年は春にも発売。現在は年2回発売している。
特長は麦芽やホップ、ビール酵母、水の他に、コラボレーション先の米麹と清酒酵母を使用。ビール酵母と清酒酵母が活性しやすい温度帯に分けて2段階で発酵させることで、ビールと日本酒のキャラクターを融合させている。発酵のイメージとして矢野さんは「ビールの中で清酒を造っている感じ」と言う。アルコール度数は毎回異なるが、大体10%前後である。これはアルコール度数を高くすることで吟醸香がしっかりと付くことと強く香る方が美味しく感じたためである。
当時から日本オリジナルのビアスタイルを意識していたのかを谷さんに問われると、最初は考えていなかったと矢野さん。「その頃は島根オリジナルを目指していて、松江にしかないビールにしたいと考えていました」と矢野さんは当時を振り返る。
毎年、造るうちに「日本酒は日本固有のお酒。それを使って造るビールは日本のオリジナルスタイルになるのではないか」と考えるようになったと矢野さん。
「おろち」に日本オリジナルのビアスタイルの可能性を感じている谷さんも「日本には土地に根付いた日本酒があります。そう考えると、日本オリジナルのビアスタイルの確立に最も近いのは清酒酵母を使ったビールなのかな」と考えを示していた。
しかし、「それだけでは世界から認められるビアスタイルにはならないでしょう」と矢野さん。「日本オリジナルのビアスタイルに定着するためには、日本人として身近に感じられるビールであることが重要だと思います」と話す。
日本で古くから親しまれ、世界でも注目され始めている日本酒。アメリカのブルワーズアソシエーションが定めているビアスタイルガイドラインでも「Ginjo Beer or Sake-Yeast Beer」として1つのスタイルが確立しているので可能性は高いのかもしれない。
和食とのペアリングによる可能性
今回のイベントの中で、谷さんと矢野さんが共通して挙げた内容があった。
それはビールを「食事と合わせる」と言うこと。
谷さんは「日本酒のエッセンスを取り入れたビールは、魚料理との相性が良いと感じています。和食とのペアリングという点でも『おろち』には可能性を感じます」と言う。
その点について矢野さんは「私たちのビールは、原則として晩酌など食べながら飲むことを前提に造っています。食べながら美味しいと思えるビールを造りたいという思いが『松江ビアへるん』の根底にあります」と語る。
さらに「海外のビールを見てみると、IPAやHazy IPAなどビール単体で味わうレシピの組み方になっていると思います」と話し、食べ物と飲み物を一緒に摂る口中調味で楽しむ文化が日本オリジナルのビアスタイルに繋がる可能性があると話していた。
「食中酒はキーワードになるかもしれませんね。それと日本は地域によって味付けが違います。地域文化の違いも独自の味になっているので、そこに合わせたビールにオリジナル性が出てくるかもしれません。ただ、浸透するのは、日常的に食事と楽しめるビールじゃないといけないでしょうね」と谷さんは加える。
ドイツを見てみると、ケルシュやアルト、ドルトムンダーなど、その土地で造られたビールがビアスタイルとしても確立している。話を聞いていて、日本においても土地特有のビールが将来的に新しいビアスタイルとして構築されるかもしれない。
地元の食材を使用することに可能性がある? ホップや酵母では可能?
2人の話は、日本固有の酒である日本酒の要素、食事との関係が日本オリジナルのビアスタイルに繋がるのではないかと進んだ。イベントの最後に筆者の方から他の可能性はあるのかも聞いてみた。
「その土地で採れた食材を使用したビールも可能性があると思います。ゆずは海外のブルワリーでも人気です。今後、日本ならではの食材をどうやってビールに落とし込むのか。それができたら1つの新しい形になると思います」と谷さん。
「私も食材からオリジナルのビアスタイルを築くのは良いと思います。『松江ビアへるん』で言うと、ローカルフードに合わせるビールを開発していて、2022年4月23日にしじみを使用したビールを発売します」と、矢野さんも地元の食材はポイントになると話す。
麦芽やホップではビールの原材料では日本オリジナルを打ち出すことは難しいのだろうか。
「日本のホップ開発は発展途上にあり、将来的には可能性はあると思いますが、短い時間でアメリカのホップ開発に挑戦していくのはハードルが高いと思います。それならば清酒酵母のように日本に昔からある酵母の方が可能性を感じます」と矢野さん。
谷さんも「地元の酵母で採取した酵母を使用した『伊勢角屋麦酒』のヒメホワイトのように土地固有の酵母は新しいビールを醸し出す可能性があるのではないでしょうか」と話し、原材料でみると酵母が最も実現的であると言う。
今回のイベントでは、「世界だと誰も知らないが、日本だったら誰もが知っていて身近にある存在」「食事と味わうビール」「土地固有の食材」「酵母」に日本オリジナルのビアスタイルが生まれる可能性があるとなった。
ただ、この辺りは既に多くのブルワリーが挑戦している。しかし、未だに「これだ!」というものは登場していない。それはなぜだろうか。次回以降、登場していただく方々に聞いていこうと思う。
次回は、2022年4月22日(金)20時から。ゲストは奈良醸造の浪岡安則代表をお迎えする。無料で参加できるオンラインイベントなので関心のある方は視聴して一緒に考えてほしい。
「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」の情報はFacebookページを中心にお知らせします。
また、今回のイベントを音声にまとめたものをPodcastでも配信しています。参加できなかった方、聴いてみてください。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。