土地の影響が少ないから都市部でも勝負できる!【ブルワリーレポート Derailleur Brew Works編】
大阪市西成区にあるDerailleur Brew Works(以下、ディレイラ)。ブルワリーやビールに物語を持たせて、味だけではない楽しみを与えてくれるブルワリーです。JAPAN GREAT BEER AWARDS 2022では、「ANONYMOUS BREWHOLIC FOUNDATION (酒イーストビールカテゴリー)と「Symapthy for the Devil’s t0M-8(フレンチスタイル・ビエールドギャルドカテゴリー)」が金賞受賞、「きみのわかなのわなかもね」(柚子ビールカテゴリー)と「THANK YOU FOR THE MUSIC」(ハーブおよびスパイスビールカテゴリー)が銀賞を受賞するなど話題だけではなく実力も付けてきています。
2018年の醸造開始から4年が経過。立ち上げ当時の話を聞きながら、これからのことについて山﨑昌宣代表取締役に話を聞きました。
目次
「酒を造る会社を立ち上げてほしい」から始まったブルワリー事業
ディレイラを運営しているのは医療・介護事業や就労支援をしている株式会社シクロという会社です。山崎さんが地域医療・介護に携わる中、利用者から「お酒を造ることに関心がある。会社を立ち上げてほしい」と要望がありました。ちょうど時期を同じくして山崎さんは市内にあるMARCA BREWINGによく飲みに行っていたこともあり、「お酒の中でビールが1番身近な存在に感じた」と言います。
しかし、2017年頃はブルワリーが増加していた時期。山﨑さんは「なぜ、大阪の街中でビールを造るのか」と明確な存在意義がないとビール事業を始めても周囲に受け入れてもらえないと思っていました。
そこで、西成の地でビール事業を始める存在意義を探すため、アメリカやベルギーに視察に行きます。
「ニューヨークやボストンを訪れたときに、都市部にあるブルワリーでも品評会で高い評価を受けているところがあることに気づきました。ワインや日本酒ですとテロワールとかナラティブ(文芸用語で物語を意味する)が重要視されますが、ビールは土地を重要視する世界観ではないと感じました。さらに日本では、ほぼ原料は海外製を使用しています。仕込み水もビールの場合、水質を調整することが多い。土地の優位性や名産品がない西成でも品質の良いビールを造っていけば評価を受けることができると思いました」とブルワリー立ち上げを決意します。
プロジェクトごとに集合離散を繰り返す集合体でビールを造る
現在、ディレイラでは醸造部門をはじめ様々な部門のスタッフが在籍しているのですが、ウェブページを見ると気になる表現がありました。
「クラフトビール工場と企画運営チームの集合体です」
集合体と表現した意図は何なのか。山﨑さんに聞いてみました。
「プロジェクトごとに集合と離散を繰り返すのが理想だと考えているからです。メンバーを固定して活動するよりも開発するビールごとにメンバーを変えて自由な発想でつくり上げていく方が創造性に広がりをもてると思うのです。常にメンバーを固定しない方が風通しも良いので、ディレイラでは集合体という言葉を使っています」
集合体は、「道を外す者=生き方を自分で選ぶ者」を意味するディレイラを体現し、常識にとらわれないビールづくりを行っていくためなのです。
また、プロジェクトごとにメンバーを変える理由について、「日本のクラフトビールを牽引してきた先輩方をリスペクトしながらも同じ道を歩んでは新しい世界は見えてこないと考えています。後発である私たちが今までとは違うアプローチに積極的に挑戦していくことでシェアを拡大する可能性を大きくしたい」と話します。
常識にとらわれずニッチな考えも取り入れながら活動する必要があるからこそ固定概念に縛られないようスタッフの循環を取り入れています。
「西成ライオットエール」のエピソードを作成したら止められなくなった
ディレイラの始まりは、先述した通りお酒造りに強い関心があった人たちからの要望です。そこで山﨑さんは、最初に自身がお客で通っていたMARCA BREWINGにレシピの作成を依頼。それを元に府内のブルワリーで委託醸造を始めました。
この時造ったのが「西成ライオットエール」です。
その後、ブルワリー設立後に自分たちで「西成ライオットエール」を醸造するのですが、その際に「再現」という表現を使います。
「ディレイラの立ち上げ時から在籍しているスタッフさんは、20~30歳代の頃に西成で暴動があった最後の時期を経験しています。『西成ライオットエール』は、その頃あったエピソードにファンタジーを加えて物語としたこともあって『再現』と言っています」
これがディレイラの「ビールに物語を付ける」の始まりです。
「最初は、『ビールに物語を付ける』ことは予定していませんでした。『西成ライオットエール』を作成してしまったので、その後のビールにも物語を付けないといけない感じになってしまいました (笑)」
各ビールの物語は、誰かのエピソードをベースにアレンジを加えたフィクションになっています。「エピソードを知っている方からするとニヤッとできる部分があり、知らない方からすると知ってもらうきっかけになります」と言います。
数多くのビールを造っているので物語を作成するのは苦労もあると思ったのですが、「これまで約80種類のビールを造ってきて、続編やスピンオフなど伏線回収ができるので楽しんでやっています」と山﨑さんは笑顔で話します。
周囲に認められることでスタッフが成長していく
醸造開始から4年が経過。スタッフの成長を感じていると山﨑さん。特に就労支援を通じて勤務している方たちが自分の仕事に誇りを持てるようになったことは大きいと言います。
「ディレイラでは、クラフトビール専門店以外の飲食店様や酒販店様の取り扱いが多いです。その中には常に冷蔵で保存が難しいお店もあります。そのようなお店には、注文をいただいてから彼らが直接届けに行ってくれています。人海戦術で効率は悪いかもしれませんが、『自分たちの商品を美味しく飲んでもらうために必要なことをしている』と、やりがいを感じてくれていて私たちも助かっています。これは他の会社にはない文化になっていると思います」
特別な名産品がない西成の街で、自分たちの街の代表する商品を生み出せたことや品評会で評価されるビールを造ることができたことで自分の仕事に誇りを持てるようになっています。
「当初、思い描いていた形ではありませんが、良い意味でスタッフも会社も成長できている」と感慨深く話す山﨑さんの表情が印象的でした。
始めはビールの物語や斬新なラベルデザインなど話題性で評価されていたところから純粋にビールで評価されるようになったことは確かな自信になっています。
今後については、「これからも驚きを与えるビールを造ります。それと並行して品評会でも評価を受けるビールを造り、品質も高いブルワリーだと認識してもらえるように取り組んでいきます」と話します。
立ち上げから4年。ビールの品質だけではなく、地域の人たちが仕事に誇りをもてる環境をつくり上げたことは、発展途上である日本の小規模ブルワリー事業の価値を高めていると思います。
これからも新しいブルワリーは誕生し続けると思います。ディレイラの活動は、後から参入してくる人たちの指針になるかもしれません。5年目に突入した彼らの活躍から目が離せません。これから先、どのように成長していくのかをビールを飲みながら楽しみにしたいと思います。
★現在、ブルワリースタッフを募集中!
ディレイラでは、クリエイティブなビールに可能性を感じてくれる方を募集しています。
山﨑さんに具体的にどのような方が望ましいのかを聞くと、「ビールは様々な副原料を使用して造ることができるお酒です。これを利用して創造性のあるビールを一緒につくり上げてくれる仲間が欲しいです」とのこと。
未経験者でも楽しい先輩たちが優しくしっかりとサポート。積極的に思いを発信して行動する方を高く評価する環境なので、あなたの意見、アイデア、センスを生かすチャンスです。「醸造の仕事をしてみたい」という方。チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
★Derailleur Brew Worksでは醸造全般を担当するスタッフを募集しています。下のバナーをクリックすると募集ページに移ります。
Derailleur Brew Works Data
<ブルワリー>
住所:大阪府大阪市西成区萩之茶屋2-10-2 1F
電話:06-6575-9067
FAX:06-7635-4843
<事務局>
住所:大阪府大阪市西成区萩之茶屋2-10-2 2F
<SNS>
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