キリンビール田山智広さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは?「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.4」レポート
月に1度、オンラインで開催している「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。第4回は、キリンビールマスターブリュワー田山智広さんをゲストに迎えて6月27日に開催された。
日本はもちろん世界のビールを知る田山さんが考える「日本オリジナルのビアスタイル」とは何なのか。イベントの進行役を務めた筆者がまとめ、レポートしていく。
※今回の内容は、田山さん個人としての考えです。ご理解の上、お読みください。
日本オリジナルのビアスタイルは誰のためのもの?
「逆に問いたいのは、いつ、誰に認められたいと思っているのかを聞いてみたい」
通常はゲストに、どんなビールに日本オリジナルの可能性があるのかを聞いていく当イベント。今回、田山さんから質問が飛び出す予想外の展開があった。
これを受けてファシリテーターであるCRAFT BEER BASEの谷和さんは、「ビアジャッジをしている中で、海外発祥のビアスタイルに対して、日本発祥のビアスタイルがあると良いなという憧れをもっています。誰に対してかというと、日本のビールが好きな人でしょうか。飲み手に対して『これは日本生まれのビアスタイルだよ』と誇れるものがあると良いなと思っています」と回答。時期について谷さんは、「現時点では明確な考えはない」と言い、今は日本オリジナルのビアスタイル実現に向けて様々な可能性を探りたいと話す。
谷さんの回答を受けて田山さんは質問の意図について次のように明かしてくれました。
「『誰にとって?』という問いは、ブルワーの自己満足によるユニークネス(どこにもない)なビアスタイルの追及による「日本オリジナル」は違うと思っています。あくまでも一定数の飲み手が支持する「日本ならではの美味しさ」があり、それが独自のローカルな「ビアカルチャー」として日本のどこかで定着していることが、「日本オリジナルのビアスタイル」の前提条件であってほしいなと考えています。
『いつ?』は、一時的な流行りやブームではなく、もっと普遍的に通用する「日本オリジナル」を目指しましょうということで問いかけました。ビアスタイルとしての確立は目的ではなく結果ではないでしょうか。10年後や50年後に振り返ってみた時に認知してもらえればいいのではないかと思っています」
「日本オリジナルのビアスタイルがあった方が良い」。恐らくそう思っている方は多いと思います。田山さんの「誰に対して?」「いつ?」という問いは、このイベントを進めていくうえで大事なことを気づかせてくれた。
日常的に飲まれるようになり、認知度が高くならないとビアスアイルとして確立するのは難しい
では、どんなものにオリジナルスタイルの可能性があるのか。田山さんが自身の過去の例を出して話をしてくれた。
「2002年に賞味期限60日のチルドビール『キリン まろやか酵母』というモルトやホップのキャラクターを極力出さないようなレシピで設計したビールを発売しました。このビールは、『既存のビアスタイルに捉われたくない』『ビールの素の美味しさを追求してみたい』考えから生まれたものです」
結果として長く市場に出回ることはなかったが、田山さんは「人気が出て飲まれ続けていたら『1つのビアスタイルとして確立したのでは?』と思うビールでした」と言い、1つのビアスタイルとして確立していくためには、「一定の頻度で飲まれて認知される必要があるのではないでしょうか」と考えを示す。
認知されるというのは、前回の日本地ビール協会公認シニアビアジャッジ小嶋徹也さんも話していた。谷さんも「このイベントを始めて、日本人が多く飲んでいるビアスタイルでないと世界に向けてオリジナル性を訴えることはできない」と話し、認知されるためには「IPAのように、人気のあるビールを多くのブルワリーが造るようになることが重要だと思う」と例を挙げていた。
海外だけではなく、もっと日本にある素晴らしいビールを真似すればいい
一定数に認知されて飲まれるビール。イベントの中で興味深かったのは、田山さんの「もっと日本国内に目を向けるべき」という意見だ。
「日本は、海外特にアメリカの流行を追う傾向があるとみています。しかし、日本にも良いビールを造るブルワリーはたくさんあります。海外のブルワーの方が日本のビールを参考にしているくらい日本人ブルワーの実力は高くなっています。もっと積極的に日本国内の良いビールを真似ていったら日本オリジナルは生まれてくると思うのです」
一例として、ゆずと山椒を使用したSPRING VALLEY BREWERYの「Daydream」を挙げて、「ゆずや山椒を使った複数のビールが、消費量は多くはなくても、複数のお客様接点で見かけて、食事を取る際に一定の頻度で飲まれるようになれば、既に立派な『日本オリジナルのビアスタイル』と言えると思います」と話す。
田山さんは、そのきっかけづくりとして「寿司フェス」のように日本独自の食文化とセットで美味しいオリジナルビールをみんなで造って競争するみたいなことに可能性があるのではないかと言い、谷さんも「良いきっかけになる」と賛同していた。
今回は田山さんからの逆質問があり、「なぜ、日本オリジナルのビアスタイルが必要なのか」を考える良いきっかけになった。筆者は、「日本にも良いビールがある」ことを広めたくて活動をしているので、国内の素晴らしいビールからオリジナルが生まれると良いと思う。筆者や谷さんのように日本オリジナルのビアスタイルがあった方が良いと考えている人は、何かしらの理由があると思う。次回は必要かどうかも聞き、その理由も探っていきたい。
次回の開催は、2022年7月27日(水)21時から。ゲストは平和酒造の髙木加奈子さんをお迎えする。髙木さんはブルワーであり、南部杜氏でもある。ビール、日本酒の両面を知る貴重な方だ。このオンラインイベントは、無料で参加できる。関心のある方は参加してほしい。
「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」の情報はFacebookページを中心に告知します。
また、今回のイベントを音声にまとめたものをPodcastでも配信しています。参加できなかった方、聴いてみてください。
※2022.7.21 画像を追加しました。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。