くめざくら大山ブルワリー 岩田秀樹さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは?「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.6」レポート
毎月ゲストを招いて「どんなビールにジャパニーズスタイルの可能性があるのか」を探るオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。8月はくめざくら大山ブルワリー(ブランド名:大山Gビール)の岩田秀樹さんを招いて開催した。
第1次地ビール時代から業界を牽引してきた岩田さんが考える「日本オリジナルのビアスタイル」とは何なのか。イベントの進行役を務めた筆者がまとめ、レポートしていく。
オリジナルビアスタイルが誕生するキーワードは4つ
今回、まず岩田さんからは、オリジナルが生まれるためにはビアスタイルが必要だと話があった。
「ビアスタイルは、アルトならデュッセルドルフ、ケルシュならケルンと発祥国や地域が大きく影響します。ビアスタイルは長い期間ビールが親しまれ、そこに時代の背景があり、『ビアスタイル=文化』だと考えています」
その上で、新しくビアスタイルを考える時に、岩田さんは4つのキーワードを挙げる。
素材
「日本オリジナルビアスタイルの可能性として、素材は最も可能性が高いと思います。ホップや酵母、米(酒米)、水。麹や乳酸菌、その土地を訪れた時の記憶や気候、風景なども素材になる要素があると考えています」と岩田さん。
ホップは、ソラチエースのように個性的な香りをもつものが研究・開発されていくと、オセアニアのニューワールドIPAのような形で確立する可能性があると話す。
また、水は地域により硬水、軟水と特性が異なり、ビールの色や味に影響を与えると言う。
「『大山Gビール』は、水が重要な要素です。隣の久米桜酒造は160年以上の歴史がある酒蔵で、大山の水を求めて現在の場所で酒造りをしています。ビールも水の良さが品質の良さにつながると信念にもっています」と、水の重要性を岩田さんは話し、CRAFT BEER BASEの谷さんも「ビールを飲む時に水を意識することは少ないかもしれません。しかし、『大山Gビール』のピルスナーを飲むと水の良さが分かります」と話す。
大山の水は軟水で、必要がなければ水質調整は行わない。そのため、硬水が向いていると言われるIPAは、優しい味わいになる印象があると言う。
岩田さんは、「素材を理解することでビールを理解したい」と話し、日本オリジナルのビアスタイルをつくるのであれば素材を理解することは不可欠だと語る。その一環として大麦やホップを自社で栽培している。
製法
「ビールの設計、デザインがビアスタイルに影響しています。Brut IPAを例に挙げると発酵後に残った糖を酵素で分解します。これによりワイン用語で辛口と言われるBrutに仕上がります。科学的、論理的な技術により新しいビアスタイルが形成されて、多くのブルワリーが真似て造ることで1つのカテゴリーが生まれています」と、近年の新しいビアスタイルは製法から誕生していると岩田さん。
「Hazy IPAもそうですね。4大原料で新しいビアスタイルが生まれてくるというのは科学的、論理的な技術によるものだと思います」と谷さんも同意。ホップ投入のタイミングによる成分変化もポイントになっていると言う。
しかし、新製法がすぐにオリジナルビアスタイルにつながるわけではない。
「ブルワリーのトライ&エラーによって、新しいビールが生まれてきます。これはブルワーが楽しみながら悩んでいるところですね」と岩田さんは考えを示す。
認知
3つ目に挙げていたのが、他のゲストも挙げていた「認知」だ。新しい原料や製法で造られたビールが注目されて、多くのブルワリーが造り、飲み手に周知されると新しいビアスタイルとして確立すると岩田さんは話す。
時間
これは3つ目の認知に関係してくる。
「伝統的なビアスタイルをみても長い時間をかけて認知されてきました。文化になるレベルまで時間をかけて認知されないと確立しないと思います」と大勢に周知されるためには時間が必要だと岩田さんは言う。
認知のされ方も様々だと言う。
「1つのブルワリーしか造らなくても続けることで、何かをきっかけに他のブルワリーが影響を受けて造ることで広まる可能性はあると思います。独自性のあるビールがどのくらい浸透していくのか。判別が難しいところではあります」
時代に合わず、埋もれていくビアスタイルもあるだろう。しかし、ソラチエースのように時代の移り変わりとともに嗜好が変化して脚光を浴びる日が来るかもしれない。流行りだけを追わず継続して造ることで、将来、認知される可能性がある。一時、話題になったがビアスタイルの確立まで至らなかったビールをマークしておくのも面白いのではないだろうか。
酒蔵からスタートしたブルワリーだからこそ酒の要素を取り入れたビールを造る
イベントの後半には、谷さんから「日本らしさを意識した原料を使ってビールを造っているのか?」と質問があった。
「もともと酒蔵から始まっているので、酒蔵をキーワードにしたビールも必要かなと思っています。限定ビールの中に『八郷』という商品があります。これは、酒蔵で『八郷酒造りの会』があり、会に参加する中で、「この米を使ってビールを造ることが自分たちの使命じゃないか」と思い、同じ米を使って、同じ商品名でビールを造ってみたいと思ったのが始まりです」
同じ名前にすることで、ビールや日本酒しか飲んだことがない人がお互いのお酒に興味を示す。お互いをクロスさせることで、米以外の原料にも関心が向いていくと岩田さんは狙いを語る。
また、大山Gビールでは、鳥取が誇る幻の酒米「強力」を副原料として使用した「強吟」も造っている。これは、清酒用吟醸酵母のみで醸した清酒を思わせるビールだ。通常、酵母は種類によって食べられる糖が異なる。グルコース(単糖類)しか食べられない清酒酵母は、麦汁(二糖類 マルトース)に入れても発酵しないと言われている。
しかし、岩田さんは「麦汁の中でも発酵できる清酒酵母があるのではないか」と考えて、鳥取県の研究機関と共同で探して発見して、研究・開発したのが「強吟」だ。先に岩田さんが話したトライ&エラーを繰り返して新しい製法で造った形によるものである。
さらに2022年は、隣の酒蔵で始まった生酛(自然にある乳酸菌の力を利用した酒造り)で使う乳酸菌でビールも醸造。こうしたことを続けていくことで、直ぐにビアスタイルとして確立はしないが、派生したり、人気が出たりすることで、新しいビアスタイルになるのではないかと考えている。
「伝統的な醸造方法を継続していくことも重要です。それと同時に新しいことにチャレンジして得た経験を次に生かしていくことも重要です。そうしたことをみんなでやっていくとどんどんレベルアップできるのではないでしょうか。
イベントの途中には、岩田さんから「日本オリジナルのビアスタイルを探るのであれば、関心のあるブルワリーで議論して、みんなで同じレシピでビールを造ってみるのはどうでしょうか」と提案があった。
それに対して谷さんは、「キリンビールの田山さんの回に、寿司と合わせるビールをブルワリーごとに造って考えてみる話がありました。日本オリジナルのビアスタイルを確立すると言っても、日本国内でデイリーに飲まれるビールを目指す視点と、海外の人に向けて『日本らしさ』を発信する視点があります。総合的に楽しめる場を将来的に設けたいですね」とオフラインイベントを開催したい希望を話していた。
次回の開催は、2022年9月26日(月)20時から。ゲストはFar Yeast Brewingの山田司朗さんをお迎えする。樽熟成ビールや地域と連携した取り組みを行っているほか、日本だけではなく海外へ展開する同ブルワリー。様々な視点から日本オリジナルのビアスタイルの可能性についての話が期待される。
このオンラインイベントは無料で参加できるので関心のある方は参加してほしい。イベントの情報は「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」のFacebookページを中心に告知します。
また、今回のイベントを音声にまとめたものをPodcastでも配信しています。参加できなかった方、聴いてみてください。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。