Far Yeast Brewing山田司朗さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは?「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.7」レポート
月に1度ゲストを招いて日本オリジナルのビアスタイルの可能性を探るオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。9月はFar Yeast Brewingの山田司朗代表取締役社長を招いて開催した。
コントラクトブルーイング(委託醸造)から始まり、現在は海外にも展開するFar Yeast Brewing。世界へ発信する中でどのようなものに可能性を感じているのか。イベントの進行役を務めた筆者がまとめてレポートする。
自分の中でも日本オリジナルのビアスタイルは明確に定まっていない
「山田さんとはあまり話したことがないので凄く楽しみ」
意外にも積極的な交流がこれまでなかったという両者。今回は谷さんが大ファンである「馨和 KAGUA」への関心から始まった。
「Far Yeast Brewingを立ち上げる時に自分たちの存在意義を考えて、私たちは地ビールという感覚ではなく、世界にアピールするビールを造りたい思いに辿り着きました。そこから誕生したのが『馨和 KAGUA』です」
発売当初から現在に至るまでベルギーのブルワリーに委託して造っている「馨和」。ベルギーに注目したのは、ビールを自由にデザインして造る環境とスパイス・ハーブを印象的な使い方をしていることが理由だ。「日本オリジナルのビールを造る上で分かりやすいと思いました」と自分たちが考える日本らしさを1番表現できたのがベルギーだったという。
「しかし、今思うとビールのことを理解していなかったと感じています。オリジナルのビアスタイルを確立することは簡単ではないと実感しています」とオリジナルを確立する難しさを山田さんは振り返る。
今回、ゲスト出演するにあたり過去回を聞いて考えたと山田さん。「自分の中で『これが日本オリジナルのビアスタイルだ』と定まっていません」と明確な考えが決まっていないというが、ビアスタイルを考えるにあたり大事なポイントを3つ挙げる。
1.種類 カテゴリーや分類。
2.標準 品質の標準やスペック。
3.文化 地域の文化や歴史、物語。
「ブルワーズアソシエーションの種類を見ると発祥国(地域)の順に登場しています。それを考えると文化は重要なポイントになると思います」と山田さん。
次にどのようにしてビアスタイルは誕生するのかについて考えを話してくれた。
「ポーターを見てみると、古いブラウンエール、新しいブラウンエール、ペールエールをブレンドしてスリースレッドとしました。それが人気となり、はじめからスリースレッドを造ったのがエンタイアで、ポーターの原型となったと言われるものです。これは好奇心と試行錯誤が関係していると思います。スタウトは税制面から麦芽化していない大麦を使用して造るところから誕生したビールです。Hazy IPAもホップの香気成分を最大限抽出する試みだと思います」
山田さんは、好奇心からチャレンジして得た結果を試行錯誤することで良いものが生まれ、それが文化として定着すると新しいビアスタイルになるのではないかと話す。
これについて谷さんは「ドライホッピング製法が登場する前は、発酵タンクの蓋を開けることは汚染の可能性があるので避けていました。それを開けてホップを投入してホップの香りを引き出すチャレンジをしたことで、しっかりしたホップアロマを感じられるビールが出てきました」と好奇心と試行錯誤が新しいビールを生み出すと同じ考えを示す。
さらに谷さんは、「文化として定着するには、地域のルールも影響すると思います。限られた環境の中で、試行錯誤しながらチャレンジすることで新しいものが生まれてくると思います」と話す。
「日本にオリジナルがないというのは、文化がないとも言えると思います」と山田さん。海外と比較すると歴史が浅い日本のビール史。加えて、酒税や事業参入の条件が厳しいなど長い間、大手ビールメーカーの寡占状態であったこともあり、地域でのビール文化の発展もみられなかった。
しかし、現在、日本全国にブルワリーが増加して、各地域で様々なビールが造られるようになっている。まだまだ時間が必要になると思うが、地域ごとにビール文化が定着し、そこから全国へ広がっていくビールが生まれれば日本オリジナルのビアスタイルが確立していくと信じたい。
絶対的なビールはないがバレルエイジドビールと桃ビールに期待
イベントの後半では、新しいビアスタイルとして興味があるものを聞いてみた。
「絶対的な手ごたえがあるわけではありませんが、バレルエイジドビールと桃のビールでしょうか。ビール酵母以外で発酵をさせるバレルエイジドビールは2つとして同じものを造ることが難しいのですが、発展したら日本オリジナルになる可能性を感じます。桃のビールは人気で多くのブルワリーで造られているので日本オリジナルのビアスタイルに発展させたい思いもあります」
バレルエイジドビールを挙げるとは予想外だったが、日本らしさを出すなら杉やヒノキの木樽が良いのだろうか。一方、桃は多くのブルワリーで造られており飲み手からも人気の高いビールである。今はまだベースとなるスタイルは、各ブルワリーで異なる。将来、多くのブルワリーが真似をする桃ビールが生まれるか注目したい。
また、山田さんからは小売り業の視点からの可能性を谷さんに問う場面もあった。
「今はまだはっきりと言える感じのものはないと思います。個人的にはビールは日常で飲まれるお酒でありたいと思っているので、アルコール度数は5%程度のものがいいのではないかと考えています」と谷さんは回答。それに対して山田さんは、「ハイアルコールだとホップアロマも乗りやすいですが、バランスを考えるとアルコール度数5%でまとめるのが1番難しいですね(笑)」と答えていた。
今後について山田さんは、「昔と違って、現在は発信力とスピードがポイントになってくると思います。小さなコミュニティでの盛り上がりも重要ですが、うまく革新して広めていけるといい」と話し、谷さんは「日本は歴史が浅い分、これから色々チャレンジして成熟していくと思います」という。
回を重ねることで日本オリジナルのビアスタイルが築かれていく過程が見えてきたと感じるトークセッションだった。もうすぐ日本の小規模ブルワリーが誕生して30年。これから日本のビール文化も発展して成熟していくだろう。どこまで追えるかはわからないが見守っていきたい。
次回の開催は、2022年10月26日(水)21時から。ゲストはいわて蔵ビールの佐藤航さんをお迎えする。世嬉の一酒造が母体ということもあり、これまで多く取り上げられてきた日本酒の要素に可能性を感じているのか。それとも別のものに可能性を感じているのか。日本の小規模ブルワリー業界を牽引してきた1人としてどのような話が出てくるか楽しみだ。
このオンラインイベントは無料で参加できるので関心のある方は参加してほしい。イベントの情報は「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」のFacebookページを中心に告知します。
また、今回のイベントを音声にまとめたものをPodcastでも配信しています。参加できなかった方、聴いてみてください。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。