[コラム]2023.2.15

Beer&Life Style Fashion編 ビールとダッフルコートまたはPコートのペアリング

ビールのペアリングはフードだけではない。

どんな装い=ファッションで、どんなビールを飲むか……。
それが「ビールとファッションのペアリング」だ。

IVY、渋カジなんてのが青春だった世代には懐かしく、若い世代には新発見になる連載企画。
第10回目は【ビールとダッフルコートまたはPコート】のペアリングだ。

【2月中旬】ダッフルコートやPコートにブリティッシュスタイルIPA

ダッフルコートとPコートは万能選手

2月中旬から下旬は、二十四節気でいう「立春」から「雨水」の時期である。
暦の上では春が始まり、雪も雨に変わると言われている。
とはいえ、東京の平均気温は5〜7℃、寒冷な地域では氷点下の日も多く、まだまだ寒さは続いている。

そんな季節に重宝するのがダッフルコートとPコートである。

ガチガチの冠婚葬祭にはNGだとしても、一般的なフォーマルシーンやビジネスユースにも許されるし、カジュアルにも着こなせる。
通勤通学用にすることも可能で、制服に指定されている高校もあるほどだ。
ダッフルコートとPコートは、守備範囲の広い万能選手なのである。

ダッフルコートとは?

ダッフルコートの起源は16世紀のトルコとのことだ。そこからハンガリー経由でポーランド・リトアニア共和国に伝わり、民族衣装として定着したと言われている。
ベルギー北部の都市デュフェル(英語の発音だとダッフル)の生地で作られたという俗説もあるが……。トルコ説に軍配をあげたい。

このポーランド・リトアニアの民族衣装が世界的に広まっていく過程には英国が大きく関わっている。
1887年に英国のジョン・パートリッジ社が、木製のトグル(棒状の木製留め具)の付いたコートを販売。
1890年には、同じく英国の医師で冒険家ウィルフレッド・グレンフェル卿が開発した生地「グレンフェル・クロス」が使用され、認知されていった。

第2次世界大戦時には英国海軍のコートとして採用され、戦後はグローバーオール社が放出品を大量に販売したことで人気アイテムになった。

英国海軍内では「コンボイコート」、モンゴメリー元帥が好んで着ていたため「モンゴメリーコート」と呼ばれていたが、1950年代には「ダッフルコート」という名前が定着した。
日本では、1960〜70年代に流行した”IVYルック”とともに一般化されていった。

ダッフルコート

ドラマ「ミステリーと言う勿れ」で菅田将暉が着用し、再び注目されている。

ダッフルコートを海っぽく着る

基本は、裏地の無いキャメル色の生地に、手袋のままでも留めたり外したりしやすいトグルが麻ひもで付けられていている。
肩は防水と防寒のため二重になっていて、帽子やヘルメットの上からでもかぶれる大きめのフードがあり、膝が隠れるぐらいの裾丈である。

ダッフルコートの着こなしは、『海っぽさ』を加味したい。
ガンジーセーターやフェアアイルセーター、アランセーター などを合わせたいのだ。
セーター編​​でも書いたが、これらのセーターは、海で暮らす漁師たちの防寒着が起源である。
見張り番がかぶっていたことに名前の由来があるワッチキャップも相性が良い。

とは言え、あまり『海ばっかり』でまとめると、「ヨット部の冬合宿ですか?」といった雰囲気になってしまうので、パンツをチェック柄にするなどして、ガチガチの海感をちょい抜きしたい。

ダッフル海

海の生活にルーツがあるアイテムと合わせると上手くまとまる。

もう1着はブラックウォッチ

民族衣装や軍服が起源のダッフルコートだが、今では洒落っ気のあるデザインも多い。

色も多彩になり、留め具も水牛の角や革紐のもの、大きめの襟のあるもの、フードのないもの、裾丈の短いものなども作られるようになった。

基本形のキャメル色に飽きたら、柄物にも挑戦してみたい。
タータンチェックの中でもブラックウォッチと呼ばれる柄は派手過ぎないのでカジュアルからちょっとしたフォーマルの場でも問題なく着ることができる。

紺のブレザーにチャコールグレーのパンツを合わせ、足元はキルトタッセルのスリッポン、胸元は蝶ネクタイと洒落てみたい。

ダッフル柄

チェック柄など”可愛い印象のダッフルコート”には蝶ネクタイがよく似合う。

乙女のダッフルコート

ダッフルコートは女性にも着て欲しい。
いや、むしろ「ダッフルコートは女性のほうが似合うのではないだろうか?」とすら思う。

乙女チックに着こなすことで軍服感はすっかり消え、可愛らしいイメージになる。
オーソドックスで無骨なデザインほど少女っぽさが増す不思議なアイテムである。

ダッフル女子

冬のスポーツ観戦には、膝まで覆え、フードもあるダッフルコートが便利。

Pコートとは?

ダッフルコートと同じく、Pコートも英国海軍御用達である。
軍艦の上で着る外套として採用された。

Pコートの語源を「パイロットコート」の略だと唱える人もいるが、オランダ語の「分厚い毛織物の上着」を意味する「Pij Jekker(ピイ・エッケル)」とする説が有力である。

いちばんの特徴は、前身頃がダブルで、右前にも左前にも着ることができるということだ。
両身頃にボタンとボタンホールがあり、どちらでも掛けられる。
これは、風向きによってうち合わせを変えて懐に風が吹き込まないようにする工夫である。
また、片側のボタンが取れてもうち合わせを変えれば急場がしのげるという利点もある。

手袋のままでも留めたり外したりしやすいようにボタンは大きめのものが付けられており、甲板で作業しやすいように裾丈は短めである。

Pコート

襟が大きいので、立てると首、耳、頬をカバーしてくれて温かい。

Pコートをビジネスシーンで着る

Pコートは、ダッフルコートと同様に海っぽさを演出してカジュアルに着こなすことのできるアイテムだが、ビジネスシーンにもすんなりと馴染む。

英国海軍ではポケットに手を入れて暖をとることが禁止されていたが、歩哨に立つ見張り番だけは許された。
とは言え、英国軍人たるもの背を丸めている姿を見せられない。

そのため、Pコートのポケットは高い位置に付けられ、手を入れても背筋が伸び胸を張った姿勢を保つことができるようになっている。
ビジネスマンも背筋を伸ばして胸を張って商談に臨む必要がある。
Pコートのデザインはそれにふさわしい。

ビジネスマンのPコート

ブリティッシュスタイルのスーツに英国式のレジメンタルタイでキメたい。

もう1着は燃える赤

Pコートの基本は、ネイビーブルーだ。
海軍なのだから、ネイビーブルーは譲れない。

とは言え、「他人と同じでは嫌だ」「変化球としてもう1着欲しい」という人には、真っ赤なPコートをお勧めしたい。

寒い季節、地味になりがちな街角を赤いPコートで闊歩しよう。
着こなしのコツは”照れずに堂々と着る”ことである。

赤いPコート

赤と黒の組み合わせは注目度抜群。自信を持って着こなそう。

凛とした女性のPコート

ダッフルコート同様、Pコートも女性に着てほしい。
特に、凛とした女性に。

シンプルな白シャツにラムウールのクルーネックセーターやガンジーセーターを重ね着して、ボトムスはリーバイスの312。スキニーではないスリムシルエットのジーンズだ。
頭にはベースボールキャップ、足元は乗馬用のショートブーツという着こなしはいかがだろうか。

女性のPコート

Pコートで競馬場に出かけ、スポーツ観戦感覚で”馬のレース”を楽しむ。

英国海軍ゆかりのコートにはブリティッシュスタイルIPA

18〜19世紀、英国海軍の軍艦では1日に1人あたり1ガロン(約4.5リットル)のビールが支給されていたという。結構飲んでいたのだ。笑

私は、「この時のビールはブリティッシュスタイルのIPAに違いない!」と思っている。
船に載せるビールはIPAが最適なのだ。

IPAは「インディア・ペールエール」の略で、英国がインドを植民地化していた18世紀に誕生したビアスタイルだ。

当時、英国からインドにビールを送るためには、大西洋を南下し南アフリカを周り、インド洋を北上しなければならなかった。
この長い航海と激しい温度変化に耐えられるよう、防腐効果のあるホップを大量に加えたペールエールが【インド向けのペールエール=インディア・ペールエール=IPA】である。

最近は、アメリカンスタイルIPA、セッションIPA、ヘイジーIPA、ブリュットIPA、コールドIPAと細分化しているが、本家本元のIPAはブリティッシュスタイルIPAなのである。

ダッフルコートやPコートに身を包み、寒い甲板での見張り番任務を遂行。
艦内に戻りホップの効いたブリティッシュスタイルIPAを飲む。
疲れも吹き飛び、元気ハツラツである。
コートとブリティッシュスタイルIPAに敬礼!

ダッフルコートとPコートに似合うビールはブリティッシュスタイルIPAに他ならない。

*アメリカのブルワーズ・アソシエーションのビアスタイル・ガイドラインによると、ブリティッシュスタイルIPAのIBU(ホップのα酸から算出される苦味指数)は35〜63。
日本の大手メーカーのビールのIBUは16〜26程度なのでかなり苦い印象を受ける。

いわて蔵ビール

1918年創業の日本酒蔵元「​​世嬉の一酒造」が1995年に立ち上げたビール醸造所。国内外での受賞歴も多数の老舗ブルワリー。
レッドエールやオイスタースタウト、IPAなどブリティッシュ系のビールに定評がある。2016年の「JBJA主催:世界に伝えたい日本のクラフトビール」で優勝した【山椒エール】などジャパニーズスタイルの創作にも意欲的である。
https://sekinoichi.co.jp/beer/

いわて蔵IPA

アメリカンスタイルIPAが多い昨今、ブリティッシュIPAは貴重な存在。

銘柄:​​いわて蔵ビール インディアペールエール(IPA)
ビアスタイル:ブリティッシュスタイルIPA
醸造所:世嬉の一酒造株式会社いわて蔵ビール醸造所
アルコール度数:6%

藤原ヒロユキ テイスティングレポート

くすみのあるライトブラウン。カーボネーションが穏やかで泡が少なめなところは英国風の特徴をよく表現している。
若草を思わせる上品なホップの香りが、ほどよいフルーティアロマとフレーバーにマッチ。

ホップの苦味は後口にもしっかりと残り、それを支えるモルトの甘味と心地よいハーモニーを奏でる。
その余韻は印象的だが、引き際も爽やか。英国紳士のダンディな身のこなしを彷彿とさせる。
フィッシュ&チップス、ハーブチキン、マッシュポテト、枝豆、タケノコとワカメの煮もの、ふきのとうの天ぷら、小豆あんなどに合う。

10月から始まった【Beer&Life Style Fashion編】、今回の第10回【ビールとダッフルコートまたはPコートのペアリング】をもちまして、’22ー’23秋・冬コレクションが終了。

一旦お休みをいただき、’23春・夏コレクションに向けて準備中です。
乞うご期待!

*第1回【ビールとボーダーシャツ】は、こちらで。
*第2回【ビールとベスト】は、こちらで。
*第3回【ビールとジャンパー】はこちらで。
*第4回【ビールとセーター】その1はこちらで。
*第5回【ビールとセーター】その2はこちらで。
*第6回【ビールとマウンテンパーカー】はこちらで。
*第7回【ビールとツイードジャケット】はこちらで。
*第8回【ビールとスキーウェア】はこちらで。
*第9回【ビールとダウンパーカー】はこちらで。

Beer&Life StylePコートいわて蔵ビールダッフルコートファッションペアリング藤原ヒロユキ

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

藤原 ヒロユキ

ビール評論家・イラストレーター

ビアジャーナリスト・ビール評論家・イラストレーター

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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