150年前のタップ『Legacy』を知ってるか?(Café & diner BAHAMA)
「注ぎ方でビールの味が変わる」
「ビール注ぎ」や「注ぎ分け」に対する認知も徐々に広まり始め、特にビール好きなら上記について「YES」と言ってくださる方がほとんどだと思う。
しかし、サーバーやタップといった「設備」についてはどれだけ興味関心のある方がいらっしゃるだろうか?
今回、150年以上前のタップを使用しビールを注ぐ日本で唯一のお店「Café & diner BAHAMA」を訪れた。
■『Legacy Tap(レガシータップ)』とは?
千葉・市川の住宅街の一角に「Café & diner BAHAMA」は存在する。150年以上前の設備を使っているということから、かなりの老舗を想像していたのだが、OPENは2016年。店主である「江尻 秀嗣(えじり ひでつぐ)」さんが海外のアンティークサイトで『Legacy Tap(レガシータップ)』を探し、購入したのがことの始まりだ。
(注):市場での共通の呼称ではなく、便宜的にその名で呼称している。
「もともとは世界のボトルビールのお店で、ビールサーバーも置いてませんでした。樽生を置こうってなって、最初は普通の現代サーバーでしたが、いずれはレガシータップでビールを注いでみたいなとは思っていました。(江尻)」
そもそも、「タップ(カラン)」とはビールの注ぎ口のことで、現在は「泡付け機能ありの2口タイプ」のものが主流である。レバーと手前に倒すと液体が注がれ、奥側に押すときめ細かい泡ができる。メーカーの指定通りにガス圧やサーバー設備を整えてしまえば、誰でも簡単にビールを注ぐことができる。
しかし、以前はこのようなものはなく、例えば昭和初期ごろまでは多くのビアホールで「スイングカラン」が採用されていた。こちらは注ぎ口が1つしかなく、ハンドルを左右に動かすことでビールが出てくる仕組みになっている。
ハンドルの絞り方により泡や液体の状態を自由に変えることができるが、比較的流速が速く、美味しいビールを注ぐにはそれなりの技術が必要だが、たくさんのビールを素早く提供できるため、ビアホール全盛期では重宝されていた。
さらにはそのシステムやビールを熟知した「注ぎ手」によって注がれたビールは格別に美味しく、現在もその味わいに魅せられて店舗を訪れる方も少なくない。
(実際には注ぎ口だけが問題ではない。ビールが注ぎ口から正しい状態で出てくるように設備全体をチューニングする必要がある。例えば、現在はKEG(ケグ:10-20Lサイズ主流)と呼ばれるステンレスの容器に入れられたビールをサーバーに接続する方式だが、当時のビアホールは店内に巨大なタンク(100L~)があり、そこからビールを供給していた。ビールホースの口径も現在は内径5mm、当時は9mmであり、どちらのホースにするかはもちろん、ビールの容器からサーバーまでの距離(ホース長)や冷やし方(瞬冷か空冷か氷水かなど)、ビール自体の温度など様々なファクターを考慮してビールにかけるガス圧などを調整しなくてはならない)
その「スイングカラン」だが、様々な「原型」が存在していたらしい。
「当店のレガシータップ自体ももともと海外で使われていたものです。調べますとスイングカランの原型みたいなものはごろごろ出てきます。」(江尻)
その中の一つが「レガシータップ」であり、同店では「スイングカラン」と共に2種類のビールサーバーが設置されている。一部メーカーにお願いしているものもあるが、タップはもちろん、江尻さん自身が部品を集め作り上げている。
■2種類のサーバーから味わう「マルエフ」の違いは?
実際の味わいの違いはどうなのだろうか?
同店では「アサヒ生ビール(通称マルエフ)」のみを提供している。「注ぎ手」として有名な「ビアライゼ’98」の松尾光平(まつおこうへい)氏の同ビールに感動し、また本人もアサヒビール好きであったためだ。松尾氏に色々と教えを請うた為、注ぎ方は同じく「2度注ぎ(松尾注ぎ)」である。
(注ぎ方も「1度」「3度」など様々種類があり、同じ注ぎ方でも人や設備、銘柄やビールの鮮度などが違えば味わいも変わる。例えば「ニユートーキヨー」で名を馳せた注ぎ手「八木 文博(やぎ ふみひろ)」氏は1度注ぎの名人の一人である。詳細はこちら。)
「2度注ぎ」はその名の通り、2度に分けてビールを注ぐ。それにより、適度に炭酸が抜け、爽快感の中にもマイルドな口当たりと、麦の甘味や風味がより引き出される。
実際に飲み比べてみた感想としては、「スイングカラン」Ver.のマルエフは、はじけるような爽快な炭酸やのどごしがありつつ、麦の甘味により苦みが緩和され、水のようにするすると飲める味わいに。「レガシータップ」Ver.ではより炭酸が柔らかく、麦の甘味やコクをより強く感じられた。
※左写真提供:江尻さん
「レガシータップ」は「スイングカラン」と構造自体はほぼ一緒ながら、注ぎ口がかなり狭い形状となっている。流速はグラスが満タンになるまでにスイングカランでは5秒、レガシータップでは15秒とかなり遅め、ビール自体の設定温度はともに7℃が同店の設定だ。
「レガシータップとスイングカラン、お客様にどちらで注いだビールが好みか聞くと半々ではあります。ただ、どちらのタップで提供するにしろ「珍しさ」でなく、アサヒビールのキャッチコピーじゃないですけど、『すべては、お客さまの「うまい!」のために。』やれることをやりたいと思ってます。」(江尻)
(今回は割愛するが、そのための日々のメンテナンスや温度管理なども徹底されていたのは言わずもがなである。)
美味しいのカタチは人によって様々だが、いつの時代も「美味しいビールを提供したい」という熱い思いを持つ人がいることは変わらない。「注ぎ」はもちろん、「設備」を含めた店主の見えない努力を知ると、目の前のビールの美味しさがもっとわかるかもしれない。
-Shop Deta-
カフェ&ダイナー バハマ(Cafe&Diner_BAHAMA)
千葉県市川市国分1-4-2
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定休日:火曜日、第3日曜日
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