風間佳成さんが考える日本オリジナルのビアスタイルとは? 日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.14レポート
月に1度ゲストを招いて日本オリジナルのビアスタイルの可能性を探るオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。2023年5月は、ビアツーリズム(※)研究家の風間佳成さんを招いて開催した。
旅行会社での勤務経験を経て、様々な国に精通している風間さんは、ビール旅を通じてどんな可能性を感じているのか。イベントの進行役を務めた筆者がまとめてレポートする。
※ビアツーリズムとは、「ブルワリー巡りを目的とする旅行行動」をいう。具体的には、1カ所以上のブルワリー(タップルームを含む)を訪れ、ブルワリーの見学・試飲・購入・飲食などを行うことを基本とし、ブルワリー訪問に加えてブルワリー周辺にある観光資源を訪れること、それに伴う宿泊や現地のビアパブなどで交流を図ることなどをいう。ブルワリー巡りに代えて、ビールに関係する場所・施設の見学、ホップ収穫体験やビアフェスに参加することも含む。
海外からの刺激を受けても良いのではないか
今回、風間さんの話で「なるほど」と思ったのが外からの視点だ。
「異なる文化をもつ人達の意見は貴重です。海外からの人から話を聞くことで自分たちになかった視点に気づくことができます。新しいアイデアは、新しいビアスタイルをつくる可能性を大きくすると思います。ワインの世界をみると、清酒酵母を使用した商品があります。ビールの世界も海外のブルワリーが次々と日本の要素を取り入れてくるかもしれません。それを受けて日本側が刺激を受けて新しいビールを生み出すかもしれません」と海外からの旅行者や2025年の大阪万博は、「きっかけになるのではないか」と言う。
「実際にアメリカでは清酒酵母や麹を使用したビールがあります」と谷さん。その中には品質の良いビールもあり、「海外のブルワリーが日本の要素を上手く取り入れていることが悔しい」と本音を語る場面もあった。
海外から日本の要素が入ったビールは、Vol.12に出演してくれたヤッホーブルーイングの森田正文さんも話していた。当たり前になっていることや身近なものに対しては、固定概念から気づけていないこともあるだろう。谷さんは悔しさを表していたが、海外のブルワリーが「日本らしさ」を感じる製法や原料をどんな風に取り入れるのか見てみるのは面白いと思う。
その上で風間さんは、「逆輸入のものをさらに発展させるには、しっかりした土壌が必要です。そのために日本のクラフトビールのレベルを上げていかないといけません」と話す。
日本にあるものを見直す
海外の人達が日本を見た感想から刺激を受けて考えることが大事であると同時に、自分達で日本を見直すことも大事だと風間さん。
「クラフトビールには地域性があると思っています。ベルギーをはじめ海外に目を向けると地域ごとの料理とビールがあります。日本各地にも様々な郷土料理があります。そこに注目すると地域独自のビールが完成するのではないでしょうか。今一度、自分達の食文化を見直すことで見えるものがあるはずです」
以前から谷さんも「海外に行くと食文化とビアスタイルの関係を強く感じます」と、日本の食と酒では日本酒が郷土料理に合う酒として地域に根付いていると話す。ビールでも地域の食事に合わせたビアスタイルを考えることは、オリジナルにつながる可能性が高くなるのではないだろうか。
「農林水産省のウェブサイトには『うちの郷土料理』というページがあります。有名なものから『こんなものがあったの?』というものまで数多くの料理が掲載されています。地域で育てられた原料だけではなく、地域の味を表現したビールを造るなどヒントになると思います」と風間さん。
このオンラインイベントを始めた当初は、日本オリジナルのビアスタイルを1つと考えていた。しかし、話を聞いていて、地域の食文化ごとに合うビアスタイルがあっても良いと思うようになった。
以前、海外のビール審査会で審査をするビアジャッジから「現地でしか知られていないビアスタイルがある」と聞いたことがある。最初は、ローカルなビアスタイルかもしれないが、時間とともに広がり、世界から注目されるビアスタイルに発展する可能性はあるだろう。そのために郷土料理を見直すことは1つの道になるかもしれない。
新しいものを生み出すために基本を見直す
「今の時点で日本オリジナルのビアスタイルが必要とは思っていません」
実はイベントの冒頭で風間さんはこのように話していた。
その理由として「創造性に富んだビールを生み出すためには基礎を磨くべきです。守破離という言葉がありますが、基礎ができていないと応用ができません。高い醸造基礎能力を身に付け、技術を磨き上げた先には自ずとオリジナルが生まれると信じています」と話していた。
さらに、「飲み手も成熟する必要があります。そのためには飲み手をいかに増やすかが重要です。ビアツーリズムなどを手段として活用し、業界一体となって多様なクラフトビールに魅力を感じる人を増やしましょう。もっとクラフトビールを楽しむ文化をつくることが結果的に日本のオリジナルなビアスタイルの創造につながっていくのではないでしょうか」とも話していた。
時代とともに変化しているビアスタイル。何かキーとなる原料や製法、出来事があると転換期を向かえる。その時に対応するために、確かな基礎能力が必要だと風間さん。そのために業界としてオリジナル性のあるビールを造ることに意識を強めるのではなく、足元をしっかり固めることに意識を向けた方が良いと話す。
谷さんは「日本の状態を守破離で例えるなら守は伝統的なビアスタイル、破はアメリカが分析・発展させたクラフトビール、そして、離が日本オリジナルのビアスタイルだと考えています」と守破離を日本で例え、「自分達も努力して、いつの日か離を実現させたい」と話していた。
今回は、原料や製法ではなく、身近に海外に誇れる良いものがあることや文化の異なる人達から学べることと言った考え方がフォーカスされた回となった。日本を含め海外のビール文化を見てきた風間さん。ブルワーではない視点からの話は考えさせられるものがあった。新型コロナウイルス感染拡大による行動規制も解除されて、海外との交流も再び活発になってきている。これからどんな反応を見ることができるのか楽しみである。
イベントでは風間さんと谷さんが熱く語るうちに話が脱線する場面もあったので、興味のある方はPodcastで配信しているので聞いてほしい。
次回の開催は2023年6月末を予定している。詳細は決定次第、「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」Facebookページを中心に告知していく。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。