谷和さんが見た韓国とアメリカのクラフトビールから探ってみる 日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.15レポート
月に1度ゲストを招いて日本オリジナルのビアスタイルの可能性を探るオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。2023年6月は、ファシリテーターを務めているCRAFT BEER BASEの谷和さんが、今春に訪れた韓国とアメリカのクラフトビールで見て感じたことを聞いた。
目次
法律改正により小規模ブルワリーが増加
今回、1番話を聞いてみたかったのが韓国のクラフトビール事情だ。隣国でありながら台湾や上海と比較すると情報が少ない印象がある。クラフトビールの人気も高まっている話も耳にするが実際はどのような感じなのだろうか。
「韓国のクラフトビールブームは、ここ数年だと認識しています。それまでは日本と同じく年間醸造量の規定が厳しくて参入が難しい状況でしたが、2014年と2020年と二度の規制緩和で色んな人や会社が参入するようになったと聞いています。現地の話を聞いていると最低の仕込み釜設備の大きさが500L。資金を持っている人でないと参入は難しそうでした」
日本のように発泡酒免許(最低年間醸造量6KL以上)があるのかは調べてみたが分からなかった。無いとすると日本よりも参入のハードルは高そうだ。
関心を持っている世代は、日本と似ていて30~40代が多く、「資金と販売できる能力を確信してから起業する人が多いです」と谷さん。
韓国で流行っているビアスタイルはヘイジーIPAで、「流行りのビアスタイルで認知を高めて、自分たちのことを知ってもらう戦略です」。アメリカのクラフトビールを踏襲している感じが強く、楽しみ方は日本と変わらないと言う。
ホームブリューによる経験から生まれるオリジナリティのあるビール
日本と韓国のクラフトビール事情で最も異なるのが法律でホームブリューが認められていること。
「ホームブリューをするための専門店もあるそうです。自分の造りたいビールや試してみたい醸造工程を自由にできる環境があります。飲む楽しみだけではなく、造る楽しみから触れていけるのでクラフトビールが根付いていると感じました」
料理を家庭で自由にできるように、身近に「ビールを造る」環境があるのはビールへの理解も違ってくると言う。
「ホームブリューでビール造りに触れる機会が多いということは経験も違ってきます。私たち企業と違ってホームブリューでは失敗しても社会的信用は失いません。思いっきり挑戦できる。失敗しても気軽に次の挑戦に生かせることで、品質の良いビールを造る経験が身に付きやすい。ブルワーとしてのスタートラインが高くなります」
アマチュアという立場だから失敗してもリスクは少ない。だからこそオリジナリティのあるビールが生まれる可能性が高くなる。実際に谷さんは「マッコリの醸造方法を取り入れたビールに出会い感動しました」と、韓国ならではのビールに触れたことを話してくれた。
クラフトビール市場は落ち着いてきた?
アメリカのクラフトビールの現状はどのような感じなのだろうか。
「現地のクラフトビールカンファレンスに参加した際に、市場の勢いは落ち着いてきたという話がありました」
BREWERS ASSOCIATIONによると、2022年のクラフトビールの販売量は2021年と同水準を維持して、米国のビール市場における小規模で独立系醸造所の数量シェアは13.2%に上昇したとある。しかし、開業数と閉鎖数の差が小さくなっている話もあり、転換期を向かえている印象を谷さんは受けたようだ。
これからはジューシーIPAをはじめ、IPAスタイルだけではなくて「自分達の強みをアピールできるビールを造っていく必要性があると話していた」と谷さん。
「どこに販売するというブランディングの意識も高かったです。自分たちのビールが生きる場所を探して売り込んでいますね」。多くのブルワリーが新しい何かを求めて動いていると話す。
内にある要素と外にある要素。置かれている立場で変わるオリジナルへの関心
オリジナルビアスタイルについての考えはどうだったのだろうか。
「韓国は独自のビアスタイルを確立しようとしていますね。飲んだビールの中にはマッコリの造り方を取り入れたものがありました。販売に目を向けても酒販店のスタッフもホームブリューをしているので個性的なビールへの理解が深い印象を受けました」
日本と同じく国を代表する酒がビールではない韓国。谷さんの話を聞いて、元々ある酒の要素を取り入れることはオリジナルのビアスタイルを構築する可能性があると感じた。
一方、アメリカは「積極的に海外のお酒の要素を取り入れて、新しいビアスタイルをつくり出す意識が高い」と言う。
「それとクラフトビールからローカルビールへ意識が変わってきていると感じました。地元密着や地域だから使用できる素材など、『そこでしか味わえない』『そこでしか造れない』への考え方が強くなっている印象です。極端な考えですが、地元だけで消費できればいいのかなと」
谷さんの話を聞いて、常に新しいものを求めていく姿勢はアメリカらしいと思う。そして、外へ大きくしていくだけではなく、地元に根付いていく姿勢が強くなっていることが今後のアメリカのクラフトビールシーンにどのように影響していくのだろうか。気になるところである。
現地の素材や風土に合った味など、「そこに行かないと飲めないビールからはオリジナルの可能性が高くなる」と谷さん。今、確立しているビアスタイルも地域で飲まれていて広がったものもある。ニューイングランドIPAやヘイジーIPAのような形で世界に広がっていくビアスタイルもあるだろう。次にどんなビールが人気になっていくのか楽しみだ。
谷さんの話を聞いて、海外の人達がどんなことを考えているのか興味が湧いてきた。今後は海外出身者や海外のブルワリーに勤務した経験のある人の話を聞く機会をつくっていきたい。
次回の「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」の開催は2023年7月24日(月)21時から。ゲストは元カケガワビールのブルワーで現株式会社BETの西中明日翔さんを迎える。ベルギーで醸造を学び、現地のブルワリーで勤務した経歴をもつ。早速、西中さんに自身の考えやベルギーのビアスタイルへの考え方などを聞いてみたいと思う。
このオンラインイベントは無料で参加できるので関心のある方は参加してほしい。イベントの情報は「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」のFacebookページを中心に告知します。
今回のイベントの様子をPodcastで配信している。興味のある方はぜひ聞いてほしい。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。