[コラム]2023.11.10

地球温暖化でホップがピンチ! 影響は?対策は?

地球温暖化によってホップの収穫量や品質が落ちるという、ビール好きにとっては非常に気がかりな論文が、先月(2023年10月)に発表されました。

具体的には、どのような影響が考えられるのでしょうか。そして、対策はあるのでしょうか。
少し調べてみました。

地球温暖化のホップ栽培への影響

地球温暖化がホップ栽培に与える影響について研究をおこなったのは、チェコ科学アカデミーのMartin Mozny博士ら
その成果をまとめた論文が、先月(2023年10月)、学術雑誌「Nature Communications」(ネイチャー コミュニケーションズ)に掲載されました(本記事末尾に記載の参考文献1)。

収穫量・品質とも、既に低下傾向

Mozny博士らは、ドイツ(ハラタウ、シュパルト、テトナング)、チェコ(ジャテツ)、およびスロベニア(ツェリェ)における毎年のホップの収穫量と、アルファ酸(ビールの苦味の元になる成分)の含有量を調査しました。すると、どちらも年を経るにつれて減少していることが明らかになりました。

減少が特に著しかったツェリェでは、1971〜1994年の平均と1995〜2018年の平均とを比べた場合、作付面積あたりの収穫量は19.4%減、アルファ酸含有量も34.8%少なくなっていました。これは、地球温暖化によってホップの成熟時期の気温が高くなったことが原因と考えられます。

今後、さらに低下と予測

Mozny博士らはさらに、気候モデルを用いた将来予測も実施しています。

ホップの収穫量・品質と毎年の気候との関係性を、気候モデルに当てはめたところ、2021〜2050年には、作付面積あたりの収穫量は4.1〜18.4%減少、アルファ酸含有量も20〜30.8%低下すると予測されました(1989〜2018年の平均との比較)。特に、低緯度に位置するテトナングやツェリェといったホップ産地では、影響を強く受けると予測されています。

これは、気温の上昇と、干ばつの増加・激化が原因と考えられます。

さまざまな対策が進む

それでは私たちは、ホップの収穫量・品質の低下はやむを得ない、と受け入れるしかないのでしょうか?

いいえ、決してそんなことはありません。さまざまな対策が進められています
先の論文中でも、ホップ栽培者が取りうる対応として、以下のような例が挙げられています。

  • 圃場の移転(高地、あるいは地下水面の高い谷地へ)
  • 灌漑装置の導入
  • ホップ棚の向きや間隔の変更
  • 気候変動への耐性がある品種の育成

もちろん日本でも、さまざまな観点から研究がおこなわれています。
ここでは、国内で進められている研究を、2例紹介します。

沖縄でもホップが取れた!

オリオンビール琉球大学は、沖縄県でのホップ研究栽培に取り組んでいます(参考文献2、3)。
栽培時期や誘引紐の向きを工夫し、灌漑装置を導入することにより、亜熱帯に属する沖縄でもホップの収穫に成功しています。ホップの品種によって光への耐性が異なることも、わかってきました。

乾燥に強い品種の2050年実用化を目指す

また、ホップの品種改良も行われています。
サッポロビールでは、病気や異常気象に強い品種の開発を進めています。乾燥に強い品種を2030年までに登録出願し、2050年に実用化することを目標に、育種が続けられています(参考文献4、5)。

ホップ

根本的な対策は、やはり、温室効果ガス削減

ホップ栽培の面での対応も大事ですが、根本的な対策としては、やはり、温室効果ガスの排出量削減が挙げられます。

温暖化対策というと、国家レベルの話、あるいは、大企業が取り組むべきもの、というイメージをもつ人も多いのではないかと思います。しかし実は、国内の二酸化炭素の排出は、家庭からのものも14.7%を占めています(2021年度のデータ。参考文献6)。
すなわち、私たち一人一人が日々の生活を変えることで、地球の、そしてホップ栽培の未来を明るくできるのです。

あまり難しく考えず、ビアラバーの立場からも、できることから排出量削減に取り組んでいきたいですね。

参考文献

  1. Mozny, M., Trnka, M., Vlach, V. et al. “Climate-induced decline in the quality and quantity of European hops calls for immediate adaptation measures” Nat. Commun. 2023, 14, 6028.
  2. あだちめぐみ「沖縄で初めてホップの収穫に成功!一年中収穫ができる可能性も?」日本産ホップ推進委員会Webサイト、2022年09月27日公開(2023年11月09日閲覧)
  3. 「県産ホップ 収穫成功 ビール商品化に期待 オリオン×琉球大」琉球新報Webサイト、2022年08月16日公開(2023年11月09日閲覧)
  4. 「気候変動に対応した原料育種」サッポロホールディングス株式会社Webサイト(2023年11月09日閲覧)
  5. 「急ぐホップ品種改良 ビール原料 収量減の恐れ」(毎日新聞、2023年01月30日朝刊)
  6. 「日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2021年度)(確報値)」国立研究開発法人 国立環境研究所Webサイト、2023年04月21日公開(2023年11月09日閲覧)
Martin Moznyホップホップ栽培地球温暖化温室効果ガス論文

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

大橋万紀(おおはしまき)

ビアジャーナリスト

1982年大阪市生まれ、神戸市在住。関西のビールシーンを盛り上げるべく活動中。
大阪府立大学大学院修了、博士(工学)。専門は有機化学。
キリンビールが2007年に実施した、歴史的ビール復元プロジェクトの「復元ビール味覚評価会」にたまたま参加。ビールの奥深さ・幅広さに圧倒され、ビール好きとしての第一歩を踏み出す。
2012年、新婚旅行で訪れたドイツ・ミュンヘンのビアガーデンで飲んだビールの爽快さに感激。以降、ビール愛にあふれた生活が始まる。
目下の悩みの種は、自宅の冷蔵庫がビールで占有されていっていること。レアなビールを開栓するきっかけと勇気、そして一緒に味わってくれる仲間を募集中。

OsakaMetroの沿線紹介サイト「オオサカマニア」にて、クラフトビールのページを監修(2021年9月10日公開)。
また、同サイトのスピンオフイベント〈オオサカマニア×東急ハンズ(江坂店)「クラフトビール」〉も監修(2022年9月10〜25日開催)。

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