【本気テイスティング】秋〜冬発売 大手の新製品レポート①
10月〜11月にかけて日本の大手4社から新製品が大量にリリースされました。
これから発売される予定の商品もありますが、ビールの審査会JAPAN GREAT BEER AWARDSの審査員経験がある筆者が、
一部ではありますがテイスティングと紹介をしていきます。
※大手4社とは「アサヒ」「キリン」「サッポロ」「サントリー」またはその関連会社を指します。
目次
アサヒ
アサヒスーパードライ ドライクリスタル
色:ゴールド
泡立ち:良くない
度数:3.5%
【背景】
10/11に発売になった、既存のスーパードライの名を冠した3.5%のライトピルスナー。
米、コーン、スターチのスペックは同じなのでシンプルに度数が下がったと捉えて良いでしょう。今回唯一のレギュラー商品です。
【テイスティング】
かろうじてアフターには粗さがなくスッキリ飲み込めるものの、スーパードライが持つクセはボディが下がった3.5%の状態では助長しているような印象があります。
ホップレベルは高くはありませんが、喉の奥にコーンと麦芽の風味が煮詰まったような香りが滞留するのが気になります。
全体としてはスーパードライと味自体の違いはさほどありません。
ただ、表記は生ビールですが、あまりにも発泡酒との共通点が多いライトビール。
発泡酒の方が価格が安ければそちらが選ばれてしまうのでは。
【追記】
定番の銀に差し色でプルトップなどに赤を採用。新鮮です。
既存のスーパードライのレシピ変更でマイルド路線なのはわかっていましたが、
かつての一口目のガツンとくるアタックの強さは後退印象がさらに顕著ですね。
しかし「ビールとの新しい付き合い方はじまる」「時を忘れて飲むんじゃない。自分らしく。もっと、もっと、自分らしく。」のコピーから、時代へ対応する姿勢が伺えます。
アルコールに弱い方、付き合いで飲まなければならなかった方もターゲットにしていると考えると、ホップもモルトレベルも高すぎないこのあたりで調整したと考えるのが自然なので目標の商品としての機能は果たしていると言えます。
キリン
キリン 一番搾り とれたてホップ
色:濃いゴールド
泡立ち:普通
度数:5%
【背景】
11/17に発売。なんと2009年から毎年季節限定品として発売しているので人気商品であることは明らか。
ラベルは数年同じデザインを採用しており、好評だったのでしょう。シズル感とホップが主役であることが伝わる良いパッケージです。
同社が岩手県遠野で力を入れているホップ育成。その現地の農家さんから収穫し生のまま急速冷凍したフレッシュホップを使用した、数量限定品です。
【テイスティング】
アーシー、ハーバルなかすかなアロマ。液からも控えめなハーブ感があります。
しかし最大の特徴は圧倒的なクセの無さでしょう。
雑味がなく飲み込んでから戻り香に軽いビタネスがありとにかく飲みやすい。
まるで大人のスポーツドリンクのようにスイスイいける、引っかかりがないお味。
どんどん飲んだ後から吟醸とイーストのアロマにも気づきます。
【追記】
現行品と比べて特徴的なのは、やはり圧倒的なすっきり感とハーバルなアロマ。かつてフレッシュなホップを使用した場合草感が強まりすぎて飲みにくい商品も存在しましたが、「一番搾り とれたてホップ」は全くそんなことはなく、
日本の技術やその年のホップの出来を占う、ある種「ボジョレヌーヴォー」のような使い方もできる位置づけと言えるのではないでしょうか。
今年のホップ品種の確認ができませんでしたが、去年はIBUKIを使用とのことでした。穏やかな特徴ながら国産品種である信州早生をルーツに持つ品種です。
サッポロ
サッポロ生ビール 黒ラベル エクストラドラフト
色:やや薄いゴールド
泡立ち:良好
度数:5.5%
【背景】
11/14に発売。こちらも限定品ながら去年筆者も飲んだ記憶があり、準定番のような存在と言えます。黒ラベルの名を冠するプレッシャーを真っ赤なデザインで染め上げて、現行品との違いをアピールしています。米、コーンスターチ使用。
【テイスティング】
ほろ苦さが音叉のように長く響き、全体では米由来の吟醸香(カプロン酸エチル?)、その後をコーン由来のクリスピーでありながら爽快感があるフィニッシュが畳み掛けます。
モルトの骨子は感じますが、定番品の「サッポロ 黒ラベル」と飲み比べたところ、つぶれた酸味のような風味がこちらには一切ありません。
甘さ控えめなのでアダルトな、クールなバランスでジャパニーズライスラガーを地で行く素晴らしい完成度です。
【追記】
一年に一度しか出ないので記憶とのすり合わせになりますが、去年よりもやや軽くなったような印象を受けました。
独自開発の「旨さ長持ち麦芽」を採用し、より多くの麦芽を使用している点が功を奏しています。それは黒ラベルよりも0.5%高い度数にも見て取れます。
サッポロクラシック 富良野VINTAGE
色:ゴールド
泡立ち:普通
度数:5%
【背景】
10/24に発売したのですが、北海道限定商品です。
サッポロクラシックシリーズは道外ではアンテナショップ、通販などで手に入りますが、それのさらに期間限定品なので「知る人ぞ知る」といったビール。
富良野産の、フレッシュホップに絞ったことにより「今しか飲めない」テイストに主眼をおいた商品です。
【テイスティング】
一瞬ジェリービーンズのような甘くハーバルな香り、喉をさっと駆けるダイアセチル。しかしそれは以外は湧き水を飲んでいるようなスッキリさで定番クラシックよりも苦みが控えめです。
嚥下後に雪の下のふきのとうのような青々しくも優しい甘みが喉の奥から少し蘇ります。
【追記】
鋭さも特徴の一つであるサッポロクラシックのらしさも残しつつ、グリーンなほろ苦さと柔らかさを秤に乗せたような繊細なバランシングが瑞々しいです。
位置づけ的には「キリン 一番搾り とれたてホップ」への対抗馬として意識されて開発されていることは間違いありませんが、フレッシュスッキリなポイントは同じながら、こちらでは端々に甘さを感じる仕上がりとなっています。
このあたりで好みが分かれそうですね。
YEBISU CREATIVE BREW #02 ヱビス オランジェ
色:明るい銅
泡立ち:良好
度数:6%
【背景】
10/11発売。ヱビスは大手の発売商品の中でも限りなくクラフトビールに近いアプローチをしてきており、枠に囚われないラインとしてマーケットのトレンドを探る役割を担っています。
「CREATIVE BREW 」と銘打った第二弾はオレンジピールを使用。
【テイスティング】
ベースはヱビスらしいほろ苦さと品の良さを保ちつつ、果汁ではないあくまで「ピール」のさりげないオレンジ感がかなりアダルティなバランス。つまり甘み控えめ。
ファンも多く微細な変更にも注意が必要な大手だからこそ絶妙なレベルのニュアンスです。洋食想定かもしれませんが意外と豚の生姜焼きに合わせても面白そうです。
少々金属臭があります。
【追記】
オレンジピールは元々ベルギーの伝統スタイル「ベルジャンホワイト」にて重用されてきた副原料です。
これはホップが育ちにくい土地であるベルギーが他の材料を使うことにした苦肉の策でもあるのですが、コリアンダーと併用することで結果爽やかな香りと味わいを付与し人気となりました。
日本ではヤッホーブルーイングの「水曜日のネコ」が該当するスタイルです。
話を元に戻します。
麦芽100%がヱビスブランドのこだわりなのですが、そこを崩してまで採用したオレンジピールという副原料はヱビスという商品という目線では大胆なアプローチです。
また、HPを見るに、多く産地の選定にもこだわりが見て取れます。
しかし、クラフトビール全体から見ると、この味わいに正直目新しさはありません。
大手しか飲まない層には斬新に映るかもしれませんが、多様なビールに触れているクラフトビール好きには慣れ親しまれた副原料です。
さらにジューシーさがないためオレンジピールを使用したビールとしては独特な位置にあると思われるでしょう。
ヱビスは「プレミアムビール」路線の商品ですから、食事とのペアリングを想定するワインやシャンパンを競合の視野に入れているはず。
しかしそこには同じくオレンジピールを使う、イタリアの有名レストランが開発したジューシーな傑作「イネディット」があるため比較されることは必至。
ヱビスチームが参考にしていないはずはありません。
そう思うと、枠を超えるほどのインパクトを残せたかは疑問でした。
琥珀ヱビス プレミアムアンバー
色:澄んだ銅
泡立ち:普通
度数:6%
【背景】
11/21発売。毎年秋商戦に発売している季節限定商品として高い知名度を誇る一品ですね。
2006年からデザインを微調整しながら長くファンとの関係を気づいてきた主力商品と言える存在。
色合いもですが赤一色ではない配色からも研鑽の果ての洗練すら感じさせます。
【テイスティング】
HPに「アンバー」スタイルと明記があるのでそちらに則った判断をします。
ポイントはモルティさとカラメルとなります。
甘さ控えめなのは定番ヱビスファン層への配慮と邪推しますが、とにかく圧倒的な雑味のなさが液色にも出ており驚きました。
澄んだ綺麗な味です。
カラメル系の穏やかなまろみと香り、ドライいちじくのようなアーシーさ、ローストビタネス。
しかしヱビスらしいザーツホップ由来のような、ヨーロピアン品種の密かで落ち着いた香りを伴う苦みは終始続きます。
ホップもモルトも感じさせつつ滋味に富んだ見事な出来栄えです。
【追記】
HPにもある通り、みりんや醤油などの日本の調味料との相性は異常なほどに良いでしょう。
今年は11月後半とはいえ、食卓が豊かに彩られる季節にそれに合わせたビールを発売するのは計算されているタイミングと見ました。
日本は口中調味の国ですから、和食に寄り添うようなバランスのレシピには脱帽です。
しかもスッキリ飲ませるのでもう一口、つい一口と口に運びたくなる…
サントリー
ザ・プレミアム・モルツ ホップセレクト 華やぐハラタウブランホップ
色:ゴールド
泡立ち:良好
度数:5.5%
【背景】
11/14に発売。一時期から大手の商品でも見かけるようになった、「ホップ品種を明記し訴求する」タイプの限定商品です。
しかもハラタウブランは目立つポジションにあるわけでなく、シングルホップビールはあまりお目にかかれない、所謂「攻めた」新作と考えて差し支えないでしょう。
エンジ色のパッケージも目を引きますが、うっすら白く印刷されているホップからも強調が伝わるので、伝統に手を加えたことがわかる良いデザインです。
【テイスティング】
はっきり言及されているわけではありませんが、審査会でも用いるビアスタイルガイドラインに照らし合わせると、スタイルはさしづめジャーマンピルスナーでしょうか。
泡持ちが良いわけではないですが、白く泡のほろ苦さが特徴的。これはノーブルホップの大事な特徴ですので好感です。
ただ、品がないわけではないのですが、華やかさよりはウッディ、アーシーで酸味とモルトが甘味より優位なため、ドラマチックな味わいを期待しすぎるといぶし銀寄りな印象に感じるかと思われます。
派手なキャラクターがないのはヨーロッパホップの品種の共通点はありますが、定番品を好むファンにはこの微細な差が楽しむポイントとなっていることでしょう。
喉の奥で森林を感じさせるようなテイストなのにあっさりした着地。
一口ですぐに「うまい」と思わせるタイプではないですが、温度上昇でもバランスが崩れませんし、ホップの特徴を如実に表現できた商品です。
ただ、HPでも謳っている肝心の白ワインのキャラクターは自分には拾うことが出来なかったので残念でした。
【追記】
ハラタウブランはドイツの品種ですが、実はカスケードをルーツに持ち、ゲラニオールというバラ系の香気成分を多く含む品種です。
それ故ゲラニオールは品の良さを感じさせますが、白ワインのアロマであればニュージーランドの代表的なホップ「ネルソンソーヴィン」があまりに有名。
もし品以上に白ワインのアロマを求めていたならホップの選定を変えたほうが得策だったのでは、と私は思いました。
余談ですが、ハラタウブランはNYのトップクラスのブルワリー、Other Half Brewingの看板商品、「FLORETS」にも用いられています。
単一ではなく複数のホップを組み合わせているビールであるため、白ワインニュアンスのみを求めたレシピというよりは全体的に品のあるまとまりを持たせるために起用していると自分は考えています。
ザ・プレミアムモルツ ジャパニーズエール ゴールデンエール
色:ゴールド
泡立ち:普通
度数:6%
【背景】
10/17発売ですが、この商品を最後に持ってきたのは理由があります。このラベルがお正月を意識したデザインのように感じたからです。
しかし現在関東ではあまり見かけなくなってしまいました。
プレモルシリーズは早くから正面パッケージに「エール」とはっきり明記し、ラガー隆盛の日本の大手でありながらエールへの着手が早かったことは無関係ではありません。
この商品のコピーの地の文にも「まだ世界のどこにもない香りのビールを求めて。
挑戦したのは、世界で人気を誇る伝統的な“エールビール”でした。」とありました。
エールが人気なのは納得なのですが「特徴がないことが特徴」と揶揄されることもあるゴールデンエールをチョイスした理由は気になるところです。
【テイスティング】
1000以上の酵母から選抜したらしいのですが結局何の酵母を採用したのか明記がないのは売り方としては非常にもったいないですね。
ですので酵母由来の特徴が判断しにくかったのですが、
ゴールデンエールの飲みやすさの肝となる、ほどほどのレベルの苦みバランスを仕上げてくるあたりは、さすがエールに着目しているサントリーさんです。
モルトチョイスによるピカピカのゴールドカラーも素晴らしいですね。
ホップは数種類使用されているようですがいまひとつ控えめです。ただその点もこのスタイルらしいとも割り切れます。
反面、後半にケミカルな甘味が高まってくるところにクセがあると感じました。
【追記】
飲みやすさに影を落とす甘味はありますが、価格帯から考えるとコスパが高い商品であることは断言できます。
もしパッケージが青かったら、受け取る印象は段違いだったでしょう。
賑やかで明るいイメージが商品自体の印象を良くしていますね。
やわらかさを追求したのは良いのですが、「ジャパニーズエール」という表現だけがちぐはぐで、全体のストーリーからも浮いてしまっています。
「日本人の嗜好に合う“フルーティな味わいと爽やかな香り”を引き出している」シリーズ作という位置づけらしいのですが、
これまでの日本のビール史から考慮すると日本人らしいビールこそ大手ラガーや米を使ったビールだったでしょうし、このあたりのテーマはもう少し深堀りしないと消費者には伝わりにくいのでは?と個人的には懸念を抱きました。
②に続きます。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。