JBJA藤原ヒロユキ代表が考える日本オリジナルのビアスタイルとは?日本オリジナルのビアスタイルを探る旅Vol.18
ゲストを招いて日本オリジナルのビアスタイルの可能性を探るオンラインイベント「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」。2023年11月は、前回に引き続き日本ビアジャーナリスト協会代表であり、与謝野ホップ生産者組合副組合長の藤原ヒロユキさんを招いて開催した。
前回は日本産ホップが広まっていくための課題点を挙げてもらった。今回は、改善策についてイベント発起人であるCRAFT BEER BASEの谷和さんと一緒に聞いた。
改善策その1 品質
前回、課題として挙げられた中で、最も時間が割かれたのが品質についてだ。
「ホップは植えれば育ちはするので毬花は収穫できます。ただ、品質や反収を上げるとなると難しい植物です」と、知識や栽培技術が必要だと藤原さん。
「注目されるようになって嬉しい反面、ビールに使用できるレベルには至っていないと判断するホップにも出会う機会が出てきています。そのような場面に出会うようになり、品質を評価する場所が必要だと感じています」と、谷さんは研究所などを通じて成分を分析して品質向上に努める必要性を説く。
現在、⽇本には「ホップの分析だけに特化した専⾨の機関はないが、協⼒してくれる施設にお願いして、与謝野ホップはアルファ酸や残留農薬の値を分析している」と藤原さんは⾔う。また、ホップの分析ではないが、日本産ホップ推進委員会ではキリンビールの協力の元、日本産ホップを使用したビールの分析会を実施している。
藤原さんは「ホップの品質を高めていくには分析も重要ですが、使用するブルワーがどんなホップを求めているのかをコミュニケーションをとることも大事だ」と提案していた。
また、谷さんからは「ホップ栽培をする人達を一括りにする必要はないのではないか」という話も挙がった。
「今、ホップを育てている人達は、3つに分けることができると考えています。1つ目がホップ栽培を生業にしている人。2つ目は自分達のビールのために栽培しているブルワリー。3つ目が個人栽培や地域コミュニティでホップを育てる人達です」
個人やコミュニティでホップ栽培を楽しみ、そのホップを使用してビールを造り、みんなで祝うものと、ビールや食品など商品として使用するものは分けて考える必要があると谷さん。「様々な目的でホップを育てている人達がいる中で、すべて同じ括りで考えてしまうと逆に発展しない可能性がある」と谷さんは考えを話していた。
ビジネスとしてホップを育てる人達と、コミュニティの一環で取り組んでいる人達では目指しているものが異なる。例えるなら草野球で楽しみたい人とプロを目指す人では取り組み方が違う。それを「野球のレベルを上げる」という言葉でまとめてしまうことは難しい。目的別に分けて考える視点はなかったので、谷さんの考えはありだと思った。
品質を向上させることについては、ホップ農家は成分を数値化することで、目に見える形で品質をアピールできるよう研究機関と連携できる環境をつくっていきたい。数値化することでブルワーも選びやすくなるし、研究機関と協力していくことで品種改良など新種開発の可能性が出てくる。実現すればホップによる日本オリジナルのビアスタイルに発展する期待もできる。与謝野ホップには挑戦してほしいと思う。
改善策その2 価格
個人的に最も難しい課題だと感じているのが価格だ。日本産ホップは栽培量が少なく、生産コストが高くなっていて海外産ホップと比較すると割高である。
与謝野ホップは、1kgあたり4,000円で販売しているが、最近は肥料代など栽培に必要な費用が高くなっていて収益に影響が出ていると言う。藤原さんは、「値上げを考えていますが、高くなると購入してくれるブルワリーが少なくなってしまいます。しかし、値上げをしないと事業として継続が困難になり厳しい状況です」と言う。
ちなみに与謝野ホップの場合、1kg 20,000 円位でないと、農家としては面積当たりの利益率や作業時間における利益率からすると、『他の作物を育てているほうが良い』ということになる。この価格帯にしないと農家はホップを育てるメリットが感じられないわけだ。しかし、「この価格では売れない」と藤原さんは話す。
では、どのようにしたら販売価格を抑えながら栽培費用を賄えるのだろうか。藤原さんは以下の提案をする。
「ふるさと納税や行政の補助金を活用していくのが良いのではないかと考えています。岩手県遠野市では、ふるさと納税を利用してホップ栽培に必要な資金を調達しています」
ふるさと納税のシステムは与謝野町でも取り入れていると言い、さらに「従来からある農協システムのアイデアを活用することで、栽培費用の一部を補いながらホップ栽培の基盤を構築していくのはどうか」と考えを話す。
「マーケットと農家をつないで販売の基盤をつくることは大事ですね。そのために、最初は補助金などの力に頼るのは良いと思います」と谷さんも同調していた。
実現のためには「ロビー活動も大事になってくると思います。ホップが国の財政にメリットがあるところを示していかないといけません」。しかし、現状としてビール業界を含めて行えていないが、「同じ志をもった人達が業界の発展のために動き続けることが大事だと思います。やっていくことで輪が広がっていくのではないでしょうか」と谷さんは提案する。
品質の良いホップが生産できるようになっても、購入してもらえなければ意味がない。自分達の力だけでは難しいならば、藤原さんが話すように行政の力を借りて基盤をつくっていくのが良いのだと思う。そのためにもホップ栽培のメリットをアピールできる材料を集めていきたい。
改善策その3 人材
クラフトビール人気の高まりもあり、ホップにも関心を持つ人が増えていると岩手県遠野市のホップ産業を取材したときに聞いた。しかし、経営が成り立たないと生活ができず継続はできない。
人材が増えていかないことは、栽培量にも影響を及ぼす。栽培量が増えていかなければ収穫量も増えていかないため、販売価格が上がってしまう。
「ホップに情熱をもっていても年間を通して育てる手間と得られるお金を比較したら割に合いません。人材の確保は、ホップの価格と密接に関係しています」と藤原さん。
ホップ栽培に関心を持つ人が増えても売れて生活できるようにならないと離れていってしまう。先に挙がった価格の課題を改善するアイデアの他に改善策はないのだろうか。
「ブルワリーと協業してホップを育てていくのはどうでしょうか」と藤原さん。
ホップ栽培に関心を持っているブルワリーが増えているが、通常業務が忙しく、特にホップが育ち、収穫する夏場は繁忙期のため十分に手が回らない話も聞く。そうしたブルワリーと業務提携を結び、栽培していくことで販路も確保できる。「ブルワリー側でホップ担当者を 雇⽤してもらえれば⼈材の獲得にもつながります。この方法は来季から与謝野で行いたいと模索していて、今後の”持続可能なホップ栽培”と原料から育てるという”真のクラフト魂”にもつながると思います」とアイデアを出す。
確かにこの方法だとホップを育ててみたいブルワリーにとってもメリットがある。実現していけば人材の課題も解決に向かう光となる可能性がある。
正直、どの課題も早々に解決するものではない。可能性を感じるアイデアに挑戦しながら修正を重ねて地道に改善に取り組んでいかなければならないだろう。そうしていく中で、オリジナリティのあるホップが開発され、日本オリジナルのビアスタイルが生まれていくかもしれない。
日本産ホップについては「日本産ホップ推進委員会」がホップ栽培の勉強会やイベントを開催、ホップの啓蒙活動を行っている。多くの人の目に触れることで、様々な分野で活躍する人たちの関心を引き、今までにない改善策が見つかることもあると思う。引き続き、日本産ホップに注目していきたい。
次回の「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」は2024年1月末を予定。詳細が決定次第、「日本オリジナルのビアスタイルを探る旅」のFacebookページを中心に告知する。
このオンラインイベントは無料で参加できるので関心のある方は参加してほしい。また、イベントの様子は、Podcastでも配信していて、過去の様子も公開している。誰がどんな考えを話しているのか通勤時間や作業中に聞いてみてはいかがだろうか。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。