[イベント,ブルワー]2024.3.29

《水戸美絵子さん》女性ブルワー 連載取材 「彼女がビールを造る理由」vol.6

クラフトビールのブルワリーで働く女性を取材するこのシリーズ。
第6回は宮城県角田市のJAみやぎ仙南「仙南シンケンファクトリー」水戸美絵子さんにお話を伺いました。

仙南シンケンファクトリー 水戸美絵子さん


1997年(平成9年)に創業した仙南シンケンファクトリー。宮城県仙台市から電車で1時間ほど南下したところにある角田市にブルワリー&レストランを構えます。水戸さんは2年前から醸造のリーダーとして勤務しています。

入り口は金融関連の仕事の面接でした

まずブルワーになった経緯をお伺いしました。水戸さんは前職が飲食系サービス業でしたが違う業界への転職を検討していたところ当時J Aみやぎ仙南で金融系の仕事の募集があり、自宅も近かったことから応募し、面接へ。そこで想定外のオファーを受けます。

「水戸さん、ビールは興味ありませんか?」

実は当時、仙南シンケンファクトリーはコロナの影響を受け、特にブルワリーを担当する人員に関して危機的な状況だったのです。そんな時に面接に来た水戸さん。ハキハキとしていながらも落ち着いた態度、元気もある・・・!第一印象から“救世主が現れた!!”と思われていたそうです。

しかし、水戸さんからすれば、あまりにも突然で、全く違う業種のお話、しかもビールがあまり得意ではない・・・(今もアルコールに弱くてすぐ酔っ払ってしまうそう!)ということもあり決めかねていた時、工場で試飲したスタウトの味に驚きます。「甘みがあって炭酸もそんなに強くない。美味しいと思いました。コーヒーが好きだからというのもあるのかもしれません。」スタウトからクラフトビールに魅力を感じ、「工場に来たら設備も立派で、すごい場所だなと思いましたし、単純にビールって自分で造れるんだというのも新鮮で。」淡い好奇心も芽生え、JAみやぎ仙南に入職することになりました。

まずは必死にやってみようと思った1年目

ブルワーとしてのお仕事を始めた水戸さん。ビール造りは技術指導の方がいらっしゃるものの、その他の業務は前任者がすでに退職していたことから、全てゼロベースの仕事を一つ一つ自分で調べながら覚えていく日々。朝は8時30分に出勤し、出荷作業、酒税関連の書類作業、午後は仕込みやその他の業務をこなし、残った時間でビールに関する本を読んだり、職場の参考資料や雑誌に目を通します。そんな孤軍奮闘する姿は頼もしくも、職場内では心配の声も。同世代のお友達からは今までのお仕事で”一番ヤバい職場”、と揶揄されることも。「全てちんぷんかんぷんでしたが、まずは1年。1年一回りしてみたら何か掴めるんじゃないかと思って頑張ったんですけど、、、まだまだですね。笑」と苦笑いを見せながら話す水戸さん。それでも2年目から少しずつ変化が訪れます。

お取引先様からの励ましの声

コロナ禍から徐々に飲食店の営業も本格的に再開。水戸さんは注文をきっかけに自ら積極的にコミュニケーションを取り始めます。

「まずは取引先様へのご挨拶をしなければと思いまして。“女性の方がやられてるんですね〜”というようなお声もいただきますね。お店を周ったりもしています。」

そこで交わされる会話から、沢山の励ましの言葉をかけてもらったことでお仕事へのモチベーションが高まったそうです。

そして、最近では醸造設備への構造的な理解も深まりました。歴史のあるブルワリーなので設備の不具合が出てしまうこともしばしば。プラント図を広げ、機械の部品一つ一つを点検し原因を究明し、寿命だから交換なのか、修理が可能なのか、対策を業者さんと打ち合わせているそうです。細かい作業のストレスに全てをひっくり返したくなることもあるのでは?と思ってしまうのですが、水戸さんはそうではなく「一つずつ欠陥を見つけてそれを潰していく作業は嫌いじゃないです。むしろ好きな方。確かに面倒ではありますがこのような作業のおかげで機械についても詳しくなれたので結果オーライです。」私からの質問にも一呼吸おいて言葉を選びながら落ち着いてお話しする水戸さん。初めて水戸さんと話した面接官も彼女の言動に、確実に仕事を進めていくブルワーとしての適性をみたのかもしれません。

ビール造りは諦めず、根気よく、気長に。

ビール造りに関して技術指導をしてる大沼さんは創業時からブルワリーを支えてきたベテランのブルワーさん。水戸さんが入職した際に一番気になったのはブルワリーの設備についてだったそう。「うちはね女性が作業をする工場になってないんですよ。階段もあるしハシゴも上らなきゃいけないし。あるブルワリーは最初から女性も作業をしやすいような工場の設計になってる。これからはそういう形にしていくべきですね。」クラフトビール業界と関わる人々の変遷をずっとみてきた大沼さんならではの視点です。

今では流通していない50L樽をブルワリー内では扱っています。とても重たいので移動させる時は転がしながら。

左が15L樽 右が50L樽

実際、重量のあるものの運搬や、高所作業は水戸さん含むブルワリーのスタッフ3名の他、併設レストランの方で協力しながら行っているとのこと。ブルワリーのユニバーサルデザイン化も今後はあるのかもしれませんね。

水戸さんへの期待も語ってくれました。「時代とともに求められる味も変わります。今造っているものをベースにして次はどうする、来年はどうする、方向性を決めてどんどんチャレンジしていって欲しい。でもね、ビール造りはせっかちになったら駄目。諦めず、根気よく、気長にやるしかない。」頑張って下さいね、と優しい目線を送ります。

左:水戸さん 右:大沼さん

今後造ってみたいビールについて聞いてみました。「フルーツ系のビールはやってみたいです。やっぱり自分があまりビールが得意じゃなかったからこそフルーツを使用した飲みやすいビールに挑戦したいです。」副原料は管理が大変だよ、と横から大沼さんに言われても水戸さんの目線は変わりません。時間をかけてもきっと諦めず、根気よく、挑戦する水戸さんを応援したいですね。

ブルワリーからはビールを楽しむお客様の様子を見ることができます。美味しそうに飲んでくれてる姿を見ると自然と顔が綻びます。

趣味は神社巡り

水戸さんが推しの「金蛇神社」。牡丹や藤、美しい季節の花に心が癒されるそうです。

休日は「寝てるか、飲み歩きか、温泉か、神社巡り」という水戸さん。“推し神社”は岩沼にある金蛇神社。「入り浸りです・・・!水の流れる音を聞いてぼーっとしています。疲れてるんでしょうね。笑」お仕事をしていれば無になる時間も大切。「金蛇神社は金運の神様なんですよ。色々挑戦できるようになったら神社とコラボとかできたら面白いですね。」昨今のクラフトビールはブルワーさん独自の企画も魅力。金運アップの願掛けビール(?!)飲める日を楽しみにしています!

 

  • JAみやぎ仙南 仙南シンケンファクトリー
    所在地 :宮城県角田市角田字流197-4
    TEL : 0224-61-1150
    営業時間:レストラン【昼】11:00~14:30【夜】17:00~21:00(完全予約制)定休日:水曜日・木曜日

 

「彼女がビールを作る理由」シリーズ記事

vol.1 BRIGHT BLUE BREWING 菊地望さん
vol.2 NAMACHAん Brewing 米澤美里さん
vol.3 和泉ブルワリー 松本さちさん
vol.4 ハーヴェスト・ムーン 園田智子さん
vol.5 さかづきBrewing 金山尚子さん

ブルワー仙南シンケンファクトリー女性ブルワー宮城県角田市

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

五十嵐 糸

ビアジャーナリスト

化粧品会社で16年間にわたり、営業・宣伝・PR業務等を経験。
楽しい時も辛い時も毎日ビールを飲んでサラリーマン時代を駆け抜ける。
大好きなビールについて勉強するうちにどんどんその魅力にはまり、PR経験を活かしてフリーに転身。ビールの美味しい飲み方や魅力を日々SNSや協会HPで発信。ビールを通したローカルコミュニティの活性化や、街の復興を目指し、渋谷の街のオリジナルビール「渋生」をプロデュース。

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