[コラム]2024.10.2

【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 66~樽廻船の女船長、商人の町へ 其ノ参拾壱

ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です

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「それだ!」

あきちゃんの言葉に、喜兵寿がガタリと立ち上がる。

「それだよ!それ!それほっぷだよ!堺に来たはいいものの、こんなにすぐに見つかるとは思ってもみなかったよ。おい!やるな!なお」

喜兵寿に肩を組まれ、なおは満更でもなさそうに笑う。

「おう。まあな!俺はここぞというところで持ってる男だからな。あきちゃんと目が合った瞬間に、この人は何か知ってるんじゃないか!?とビビッときたわけよ」

「おいおい、そりゃあないだろ!いやでもよくやったよ。でかした」

喜びじゃれ合う二人を尻目に、ねねはあきちゃんに話しかける。

「ねえ、堺の町の薬屋ってひょっとして小西屋?」

「なんや、小西の旦那さん知っとるん?せやで、堺筋の『道修町薬種屋仲間』の小西さんな」

あきちゃんの言葉を聞いて、ねねは絶句した。

「道修町薬種屋仲間」とは数十年前に堺商人・小西吉右衛門が薬種屋を開き、そこから多くの薬種商たちによって形成されてきた団体だ。お上からの公認を得ており、堺商人の間でも強い力を持つ。

外の国から運ばれてくる唐薬種の真偽を見分け、価格を定め、国全土に売り捌く元締め的な存在であり、その幹部ともなれば藩の領主に口を聞くことができる程。小西はその団体の頭だった。

そして……

小西屋には常に薄暗い噂がつきまとっていた。堺の町を裏で取り仕切っている、だとか商店から不当な金を巻き上げているだとか……表舞台に顔を出すことはほぼない小西の存在は謎に包まれており、「小西さん」などと気安く呼べる存在では到底なかった。

「こりゃあ、ほっぷも見つかったも同然だな!」

小躍りする二人を見て、ねねは大きくため息をついた。ほっぷは見つかるかもしれないが、それを買うことは容易ではないことは確かだ。

「ねえあきちゃんさん、道修町薬種屋仲間から唐薬種って買えるものなの?」

「さあ、どうなんやろ……ま、大丈夫やない?小西さんやし」

「いやいや、そんな気軽な話じゃないでしょ。だってあの小西屋よ?唐物問屋はただでさえ出入りできる人が限られているというのに、その中でも薬種屋は特に制限が厳しいはずで……」

どう考えたって、呑気すぎる。ねねは事の大変さを伝えるため必死に説明するも、あきちゃんを始め、喜兵寿もなおも「まあなんとかなるって」と一向に取り合おうとしなかった。

「あー!もう知らないからね!!!」

そしてねねの言葉通り、くるみ餅屋を出た足で向かった道修町薬種屋仲間で門前払いをくらうことになるのである。

※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

ルッぱらかなえ

ビアジャーナリスト

ビールに心臓を捧げよ!
お酒をこよなく愛する、さすらいのクラフトビールライター。
和樂webや雑誌「ビール王国」など様々な媒体での記事執筆の他、クラフトビール定期便オトモニでの銘柄選定、飲食店等へのビール提案などといった業務も行っています。
朝から晩まで頭の中はいつだってビールでいっぱい!

ビールの面白さをより多くの人に伝えるため、ビールをテーマにした小説「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗」を連載中。小説内で出来上がる「江戸ビール」は、実際に醸造、販売予定なので、ぜひオンタイムで小説の世界を楽しんでいただきたいです!

その他、ビールタロット占い師としても活動中(けやきひろばビール祭り、ちばまるごとBEERRIDE等ビアフェスメイン)
占い内容と共に、開運ビアスタイルをお伝えしております。

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