【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 68~クーデレ豪商の憂鬱と啤酒花 其ノ弐
ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です
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ねねと別れた喜兵寿となおは、先ほどのくるみ餅屋に戻ってきた。あきちゃんに相談しようと覗き込むも、先ほどとはうってかわって店の中は大賑わい。なおが「あきちゃーん」と声をかけるも、あきは軽く手を挙げただけで、すぐにバタバタと店の奥へと走っていってしまった。
「こりゃあ今話を聞くのは無理っぽいな。どこかで情報を集めつつ待つか……」
「そうだな!だとしたらこういう時はやっぱり酒場だろ!RPGでも酒場での情報収集の定番だからな」
「酒場?」と首を傾げる喜兵寿に、なおは意気揚々と説明をする。
「酒場は酒が飲める場所だよ。喜兵寿のやってる柳やみたいなさ!」
「お前、それ酒が飲みたいだけなんじゃないか?」
「まあ俺はいつだって酒は飲みたいけど……そうじゃなくて、地元の居酒屋に行けば地元の奴に会えるだろ?だとしたらあの薬屋の攻略方法もわかるかもしれないぜ」
なおは喜兵寿を説得しながら、あたりをきょろきょろと見渡す。見ればくるみ餅屋の斜め向かいに古びた店があった。
「ほら!ちょうどいいところに。あの店構え、醸し出される雰囲気。あれは地元民に愛される名店とみた」
「いや、しかしまだ昼間だぞ?ここは他の場所でまず聞き込みをしたほうが……」
首を振ろうとした喜兵寿の目が『限定日本酒あります』の文字にくぎ付けになる。
「行こう」
喜兵寿はくるりと向き直ると、スタスタと店に向かって歩き出した。
「お?いいねえ。急に乗り気じゃん。そうこなくっちゃ」
2人は意気揚々と居酒屋の引き戸を引いた。少し立て付けの悪くなったそれは、ギシギシときしみながらゆっくりと開く。
「いらっしゃい!」
厨房の中から威勢のいい掛け声が響く。こじんまりとした作りながらも、居心地の良さそうな店だった。焼き物をしているところなのだろう、香ばしい香りが店全体を包んでいる。店内には座敷と長椅子が数個。その一番奥で、初老の男がひとり酒を飲んでいた。
「いらっしゃい。おや、お兄ちゃんたち見ない顔やね。どこから来たん?」
店主だろうか。先ほど威勢のいい声をかけてくれた男がやってくる。
「まあ、そないなことどうでもええか。それにしてもそれにしてもすごい男前やね。ま、ワシの方が男前やけど。おまけするから、ようさん飲んでいってな。今日はえらい活きのいいすっぽんが入ってな……」
「おやじ、外に貼ってあった限定日本酒を2合おくれ。」
喜兵寿は男の話をスッパリと切ると、満面の笑みで日本酒を注文した。飲んだことのない日本酒が楽しみで仕方がないのだろう。大型犬のようにバタバタとしっぽを振っているのが見えるようだ。
「よっ、酒馬鹿!日本一!」
なおは喜兵寿を軽く茶化すと、情報収集をすべく1人飲みをしている男のもとへと向かった。一度酒が入ってしまえばすべてがどうでもよくなってしまう質だ、まずは道修町薬種屋仲間前について少しでも情報を得ておきたかった。
―続く
※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。