[コラム]2024.11.13

山あり川あり湖あり!自然の景色とビールを満喫する、あずさ号の旅

あずさ号

「♪8時ちょうどの~ あずさ2号で~」

1977年にデビューした男性デュオ「狩人」のデビューシングル「あずさ2号」だ。しかし、現在の新宿駅を8時ちょうどに発車するのは、「あずさ5号」である。なぜか?それは、当時と現在の列車名のつけ方に違いがあるからだ。

1977年当時は、下りの「あずさ1号」「あずさ2号」・・・と、上りの「あずさ1号」「あずさ2号」・・・が存在した。しかし翌年、列車名のつけ方に関するルールが変わり、下りを奇数、上りを偶数という、現在と同じ形になったのである。

では、現在の「あずさ2号」は、上り列車として走っているのか?実は現在は、あずさ2号は存在しないのである。現在の新宿駅を発着する特急列車につけられている名前は、松本行きの「あずさ号」と、途中の甲府止まりの「かいじ号」に分けられているのだが(一部他の行先もあり)、「〇〇号」の数字は、発車する順番で共通の通し番号となっている。

つまり、下り列車の場合、始発の7時発が「あずさ1号」、7時半が「あずさ3号」、8時が「あずさ5号」、8時半は甲府行きで「かいじ7号」・・・という感じだ。

上りは、始発が「かいじ2号」、次が「あずさ4号」、その次は「かいじ6号」と続く。上りの始発に使用する「2号」は、「かいじ号」にあてがわれているのである。

 11:12 新宿駅発車

新宿駅

さて、今回乗車するのは、新宿駅11時12分発の「あずさ85号」である。もう少し列車名に関するうんちくに付き合って頂きたい。

新宿駅から出る中央本線の特急列車は、原則として毎時00分と30分に発車する。それ以外の半端な時間に発車する列車は、乗客が多い日に走る臨時列車なのだ。そして臨時列車には、普段使われない大きい数字を列車名に使用する。通常の列車は「60号」までで、臨時列車は「70号」以上の数字が使われる。

お盆や年末年始などは、どの列車も軒並み混雑するが、通常の土日でも臨時列車が走ることがある。そのような日の臨時列車は狙い目だ。なぜなら、通常の列車よりも格段に空いているからである。

あずさ号

11時ちょうど発の「あずさ17号」は、満席に近い状態で発車して行ったが、その12分後に発車する「あずさ85号」は、窓際さえ埋まらないくらいの状態だ。新宿駅から特急列車で山梨や長野方面へ旅行するときに臨時列車が狙い目であることは、覚えておいて損は無い。

新宿のビール

さて、ビールの話を始めよう。発車前に駅ナカで買い物をしていると、今回の旅立ちにピッタリのビールを発見した。「COEDO Our Time」である。これは今年4月に、新宿駅のエキナカの商業施設「EATo LUMINE」のオープンを記念して造られたビールで、キャッチフレーズが「新宿のビール」だ。詳しくは発売時の記事を読んで頂きたい。

新宿のビール

新宿駅を発車した列車の中で、新宿のビールを飲む。最高の愉悦である。ビアスタイルは、ホッピーウィートエール。晴れた日の青い空を眺めながら飲むのにピッタリだ。優しい口当たり、柑橘系のホップの香り、軽めのボディ。雑多な人々が多く行き交う新宿駅を抜け出した列車の中で、旅立ちの解放感に浸る。

 11:30 立川駅付近

富士山

しばらく列車は東京都の西部を高架線で進む。遠くには富士山がうっすらと見える。つい数日前に、観測史上最も遅い富士山の初冠雪のニュースに接したが、肉眼ではまだ白く見ることはできなかった。

多摩川

最初の停車駅、立川を発車するとすぐに、多摩川を渡る。東海道新幹線が渡る下流域とは雰囲気が違い、中流域のこの辺りは流れもやや速く、砂利の河原も多い。

おべんとう秋

昼も近づき、お腹が鳴る。ビールで一息ついたので、買ってある弁当を開けるとする。今日のチョイスは崎陽軒の「おべんとう秋」だ。

崎陽軒といえば「シウマイ弁当」が定番だが、他にも魅力的な商品がたくさんある。秋限定のこの弁当は、きのこの炊き込みご飯に、鮭、さつまいも、椎茸の煮物など、秋の味覚が詰まっている。崎陽軒の弁当らしく、しっかりとシウマイも2個入っているのがうれしいではないか。

味のしっかりついたおかずを一口、続いて薄めの味付けのきのこご飯を一口。そのあとにホッピーなビール。爽やかな後味、余韻を味わいつつ、変わりゆく車窓に目をやる。この繰り返し。至福のひと時である。

 11:55 高尾駅付近

高尾山

高尾駅を通過すると、列車は山の中へと分け入ってゆく。左側車窓に見えるのは、ご存じ高尾山である。高尾山へ登るには、京王線の高尾山口駅からのアクセスがメインルートだが、こちらの中央本線はその裏側を走る。紅葉の見ごろにはまだ早いようだが、一部の木々は少しだけ色づき始めたようだ。

 12:10 上野原駅付近~鳥沢鉄橋

桂川

小仏トンネルを抜けると東京都から神奈川県に入る。神奈川県の北端にあたる相模湖の横を走り抜けると、またすぐに県境を越えて山梨県だ。ここからしばらくは桂川に沿って走る。ちなみに桂川というのは、相模川の上流部の名前だ。富士五湖の一つである山中湖を源流とするこの川が、神奈川県に入ると相模川と名前を変えて、茅ヶ崎付近で相模湾へと注ぐのである。

鳥沢鉄橋

列車が鳥沢駅を通過するとすぐに「新桂川橋梁」、通称「鳥沢鉄橋」を渡る。山中を走る中央本線の中でこれが最も長い鉄橋で、約500メートルある。川幅自体はそれほどでもないが、広い谷を高い位置で渡るので、眺望が一気に開ける。鉄道写真の撮影名所でもあるので、眼下に目をやると、三脚を立てている撮り鉄の人たちが見えることもある。

笹一

笹子駅の手前では、山梨県の日本酒の老舗である「笹一酒造」が見える。ビールも造っている日本酒の蔵は多くあるが、この蔵ではワインも造っているとのこと。ワインで名を馳せる山梨県の蔵らしいではないか。一度飲んでみたいものである。

 12:40 甲府盆地

甲府盆地

長短のトンネルをいくつか抜けると、列車は見晴らしの良い高台に出る。ここからの車窓は中央本線の白眉だ。手前にはワイン用のぶどう畑、その向こうには甲府盆地の街並み、はるか彼方には南アルプスの山並み。広大な昼間の景色も素晴らしいが、実はここから見る夜景も素晴らしい。今日も天気に恵まれて、遠くの山並みまで見渡すことができた。

FARYEAST

車窓をさらに楽しむために、ビールを切らしてはいけない。今日の2本目は「Far Yeast White」である。Far Yeast Brewingは、中央本線から山を隔てた山梨県の北東部、小菅村の山中に醸造所を構えるブルワリーである。

この「Far Yeast White」、ビアスタイルはセゾン。審査会での受賞歴は数知れず、わが国を代表するセゾンの一つと言ってもいいだろう。ホップの香りとエステルのバランスが良く、ドライなアフターテイストと合わせて、爽快感にあふれたビールである。1本目に飲んだ「COEDO Our Time」と近いビアスタイルだが、それ故に微妙な違いを楽しんでみるのも面白い。どちらのビールも「特急あずさ号」とのペアリングは最高である。

 13:20 小淵沢駅付近~諏訪湖

八ヶ岳

甲府駅では半分くらいの乗客が降りて、元々それほど混んでいなかった車内だが、さらにゆったりとした雰囲気になってきた。小淵沢駅付近では、右側車窓に八ヶ岳の威容を望むことができる。雲に隠れることも多いこの山だが、この日は雲一つない快晴のもと、山裾の端のほうまで全容を見せてくれた。あと少し季節が進めば、上のほうから白くなっていくのだろう。

諏訪湖

いよいよ列車は山梨県から長野県に入る。左側の車窓に諏訪湖が目に入ると、終点の松本は近い。広い諏訪湖を取り囲むように街が広がっているが、市町村は細かく分かれており、中央本線は茅野市・諏訪市・下諏訪町・岡谷市の順番に通ってゆく。そして、それぞれの中心部に茅野駅・上諏訪駅・下諏訪駅・岡谷駅があり、特急列車としては珍しく4駅連続して停車する。

 13:59 塩尻駅

塩尻駅

最後の停車駅は塩尻駅。長野県も山梨県と並んでワインの名産地だが、特に塩尻は明治時代から長いワイン造りの歴史がある。それを象徴するように、ここの駅のホームにはブドウ棚がある。駅名標には駅名だけではなく、栽培しているブドウの品種も書かれており、遊び心が感じられる。

 14:10 松本駅到着

松本駅

列車は定刻の14時10分に、終点の松本駅に到着。松本市の標高は約600メートル。東京から特急列車に乗ってこの駅に降り立つと「寒い!」と感じることが多いのだが、この日は比較的暖かったので快適に散歩が楽しめそうだ。まずは国宝の松本城を目指して歩いてみようか。もちろん、美味しいビールがありそうな店を探しながら、である。

(取材 2024年11月9日  写真は全て筆者撮影)

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

津田 敏秀

ビアジャーナリスト

1972年、東京都出身。獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。
外食チェーン企業に15年間勤務の後、独立。串揚げとクラフトビールの店を7年間経営。今までの経験を活かし、飲食店の経営に関する記事を得意とする。
好きなビールはケルシュ。趣味は乗り鉄。

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