[コラム]2024.12.18

【連載ビール小説】タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗 77~クーデレ豪商の憂鬱と啤酒花 其ノ玖

ビールという飲み物を通じ、歴史が、そして人の心が動く。これはお酒に魅せられ、お酒の力を信じた人たちのお話。
※作中で出来上がるビールは、実際に醸造、販売する予定です

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小西の話は突拍子もないものだった。影は小さな何かの集合体のようなもので、小刻みに動いており、相手が酒を飲み始めると現れる。そしてそれは相手の発言などによって、随時変化するので、みえる色によって相手の考えていることがよくわかる、というのだ。

「だから嘘をついている人間は、一目見でわかる」

商人という仕事柄、それは取引の場面で大いに役に立つものだった。しかし普段の生活の中でも相手のことがみえすぎてしまい、人を信用できなくなってしまう場面も多々あった、そんなことを小西は少し悲しそうに語った。

「どうして酒を生業に選んだか、という質問をお前たちにしただろう?その時のお前たちの影は実に美しかった。だから信用したんだ」

(つまりは……オーラ的なやつってことか!?)

小西の話を聞きながら、直はうーんと唸った。スピリチュアル界隈には全くと言っていいほど縁がない直だ。後ろに見える影でわかる、などと言われたところで「どういうことだ?」と首を捻るしかなかった。

恐らく喜兵寿もよくわかってないだろうな、そう思って隣を見ると、嬉々とした表情で何かを考えこんでいた。

「わたしはこの影のおかげでここまで上り詰めることができた。善良な人間でも、多くの場合は少し濁りがあったりはするもの。しかしお前たちは違った。だからもっと関わってみたくなった、というわけだ」

小西は話終わると、小さくふうっと息をついた。

「まあ、そんなことを言ったところで信じてもらえないかもしれないが」

「いや、わかります!」

いきなり食い気味に話し出した喜兵寿に、直は目を丸くした。このなんだかわからない話に……共感できるだと?!

「先日もお伝えしたように我が実家では酒を造っているのですが、今は亡き祖父がよく言っていました。酒が生まれる瞬間には光が見えると」

喜兵寿の言葉に、小西は黙って目を見開く。

「祖父はもろみの熟成期間に、度々明るい光のようなものがどこからかやってきて、酒に入り込むといっていました。それは黄色だったり桃色だったり、とにかく美しい色だと」

『今年も無事に光が酒に入ってくれた』、祖父は樽を見ながら喜兵寿に耳打ちしてくれたものだ。喜兵寿の目には何一つ見えはしなかったが、酒造りの天才と呼ばれた祖父の言葉だ。疑う余地もなく、祖父の目には何かが見えているのだろう、と信じていた。

「自分にはそのようなものをみる力はありませんが……お話は信じます」

―続く

※このお話は毎週水曜日21時に更新します!
協力:ORYZAE BREWING

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※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

ルッぱらかなえ

ビアジャーナリスト

ビールに心臓を捧げよ!
お酒をこよなく愛する、さすらいのクラフトビールライター。
和樂webや雑誌「ビール王国」など様々な媒体での記事執筆の他、クラフトビール定期便オトモニでの銘柄選定、飲食店等へのビール提案などといった業務も行っています。
朝から晩まで頭の中はいつだってビールでいっぱい!

ビールの面白さをより多くの人に伝えるため、ビールをテーマにした小説「タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗」を連載中。小説内で出来上がる「江戸ビール」は、実際に醸造、販売予定なので、ぜひオンタイムで小説の世界を楽しんでいただきたいです!

その他、ビールタロット占い師としても活動中(けやきひろばビール祭り、ちばまるごとBEERRIDE等ビアフェスメイン)
占い内容と共に、開運ビアスタイルをお伝えしております。

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