酒屋に会いに行く 恵比寿「Night Owl」その4
こんにちは。ビアジャーナリストアカデミー2期生、酒屋好きの池田です。恵比寿「Night Owl」小菅氏のインタビュー、最終回です。
店で販売しているチョコレート。アニスやフェンネルのフレーバー。
プロローグ
https://www.jbja.jp/archives/8259
その1
https://www.jbja.jp/archives/8264
その2
https://www.jbja.jp/archives/8318
その3
https://www.jbja.jp/archives/8859
酒屋を始めるにあたり、何をすべきか、どんなイメージを持つべきか。前回にも少し出てきましたが、最終回の今回はそんな話をもう少し具体的に聞いています。もし目指している方がいたら、参考になるのではないでしょうか。お楽しみ下さい。
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・酒屋「Night Owl」のつくりかた
‐このお店を始める直前は、仕事としては何をされてたんですか?
小:メインの仕事はまた別なのですが、酒屋で働いたり、NIGHT OWLの計画を立てたりですかね。
‐これをやるための準備として。
小:酒屋での経験は、実際の現場対応などで参考になるところが多々ありました。
‐じゃあ、本当に1年弱くらい前に開業を決意されて、そこから準備をして、という感じなんですね。
小:そうですね。なので業界的には全然無名です。お酒への愛だけはある感じで(笑)。
・グラウラー酒屋として
‐ワイン2タップ、ビール4タップ。この中で、これだけは絶対置くぞ、ていうのはあるんですか?
小:ビールは、定番を決めない代わりにバランスだけは取りたいと思っています。4タップあるとしたら、フルーツやサワー等も含めたライトな物、苦いもの、中暗色、スペシャルor変わり種、というのは一応目安で決めてます。
‐スタートする前に、ある程度幅広いブルワーさんたちとの合意はとれていたんですよね。グラウラーで売る形態について。
小:当初、税務署に「造り手が嫌がるのでは?」と言われましたが、クラフトビール業界は基本的にチャレンジを良しとする方が多いからか、実際には想像以上に応援して下さる方が多いのは有りがたかったですね。勿論、断られたところもありますけど。
‐いい話ですねえ。でも、グラウラー売りが一部のブルワーさんに断られたのも、ブルワーさん自身「味が保てるかについて知識がない」っていうことですよね。日本では誰もやったことがないわけですから。
小:たぶんそういうことだと思います。ただ大部分は「面白い」って言ってくれますよ。輸入勢も「グラウラーやるんだ、やってやって」っていう感じで(笑)。
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ここで、HOPS125が直輸入しているオーストラリアのビール「Mountain Goat」のアンバーエールを頂く。
Mountain Goatは、オーストラリア国内のコンペティションでメダルを獲得している実力派ブルワー。
インタビューの間、届いたはずの樽が届かないなど細かいことがいろいろ起こっていたが、冷静にさばいていく小菅さん。その一方で、ビールの温度をはかる温度計など、話をしながらいろいろなグッズが出てくる。ビールへの興味と愛がそこにあったし、ドラえもんかこの人は、と思った。
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・これからのNight Owl
‐サーバーもこれからセッティングですよね。 ※この日すでにサーバーは到着していた
小:そうですね。オープンが(3月)29日、丸10日ですね(取材は19日)。
‐これからやってみたいことは?まず店を始めて、最終的には醸造したい?
小:それはまだ先の話なので、まずはやらなければいけないことがたくさんあります。グラウラーを、クラフテッドなものを、もっと身近に感じてもらいたい。輸入もしてみたい。けどその先で、全部日本の原料を使ったものを造りたい、もしくは委託して造ってもらいたいですね。
ホップもうちで育てたソラチエースやフラノスペシャル、麦も練馬ゴールデンとか、イーストは日本酒酵母、熟成は日本酒樽を使った純国産のビール。できるのであれば、他所とは違うアプローチをしてみたいというのはあります。
‐そういう立ち位置のお店がこれまであまりなかったですね。こと酒屋という業態においては、イノベーションがこれまで起こらなかった。
小:酒屋は儲からないですから(笑)。
‐それをやるわけですね(笑)。でも酒屋は利益率が限られるのは事実ですね。勿論、飲食店はその分別の大変な部分がありますが。
小:課題は、うちは大手の物(酒類)を扱わず、一般ユーザーの固定需要がないので、管理、見せ方も含めた商品力を上げていくしかないということ。あと場所が場所なので、通りすがりのフリー客がいないというのも問題ですね(笑)。
‐小菅さんが表現しようとする個性も強烈ですよね。
小:何かを表現しようと思っているわけではないんですけどね。そういう風に思ってもらって、見に来て下されば嬉しいですね。
実際、(グラウラーで売ることに関して)無理だと言われている方は業界関係者でもいらっしゃいましたし。税務署にも言い放ってきたんですよ、「日本のクラフトビールシーンを3年進める!」って(笑)。そんな無謀な状況でも応援してくださる方がいらっしゃるので頑張らなければいけない。
実は免許が下りないかも、っていう時期が一時期あって。あの時は色々言い周った後なので、最悪もうこの業界で飲めない、と思いました(笑)。
‐Night Owlを通じて、例えばこの店でアブサンを飲んで、あそこも行ってみようとか、その人にとっての街が広がるというか、そんな感じですか。長時間居座る場所ではなくて、次のきっかけを作るような店ですよね。
小:うちは『飲みどころではない』と割り切っているので。近くに素晴らしいお店さんがたくさんありますから、お互い使いながらやっていければいいんではないでしょうか。うちで試して頂く、量が欲しかったり、ゆっくりと飲みたいのなら他の店に行ってください、紹介しますから、っていう(笑)
‐閉店も早いですしね。
小:まぁ、その辺はケースバイケースですけどね。あまり遅くまでやると飲みに行けないじゃないですか(笑)。情報収集も大切な仕事の一つですから。
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【後記】
ビールと酒屋。飲食店と比べると、まだ幸せな結びつきの例は限られる。理由はおそらく、酒屋が根本的に、創廃業を繰り返す業態ではないからだ。長いこと利権構造に守られてきた酒屋は根本的に自らイノベーションする力を欠いてしまっていて、多くの店は、近くにコンビニができたら閉店する、もしくはコンビニに業態変更するしか選択肢を持たない。
国税庁の酒税統計情報によると、1991年から2006年にかけて、全酒販店のうち業者数は15万店前後と横ばいだが、販売場数は18万弱から20万弱に増加、そのうち一般酒販店の割合は83%から28%にまで減少。ざっくり計算すると、124,500→42,000。規制緩和によりコンビニやスーパーで酒が販売されるようになり、その販売力に抗えない酒販店が次々に廃業する姿が数字を通して見えてくる。2004年には国税庁が酒販店のために「酒販店のための転廃業マニュアル」というものまで作成している。
そんな中、「面白い酒を売ろう」とする酒屋が少しづつ増えてきているのは皆さんご存知の通りだし、その最たる例が「Night Owl」だ。新しい酒の売り方が、どのように今後の酒販業界、クラフトビール界に影響を与えていくか、一般酒販店、いわゆる「酒屋」の逆襲につながっていくのか、とても楽しみにしている。
個人的には、酒屋、特にこういう角打ちとか有料試飲ができる店は、人と人とをつなぐハブのような、SNSのような存在に一番なりやすいと思っている。ふらっと酔って酒を楽しみながら、席がないがゆえに知らない人との会話が生まれる、そんなシームレスな出会いの空間として、これからますます発展していくだろう。
今回は、「店を始める前」に話を聞いてみたかった。開店後、現実に合わせて変えていった部分もあるかもしれないが、開店直前は、言ってみればその時点の理想が結晶化した状態だ。このインタビューを読んで、「面白そうだ」と思って下さる方がいれば、ぜひ足を運んで、いまのNight Owlと見比べて楽しんでほしい。
取材に応じて下さった小菅さん、ありがとうございました。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。