私の“きっかけ”ビール[1杯目] 木内酒造 木内洋一さん『アンカースチームビール』
一杯のビールとの出逢いが、人生の転機に。ビール業界の第一線で活躍している人にインタビューし、「私の“きっかけ”ビール」について語っていただきます。
一回目は、常陸野ネストビールでお馴染みの木内酒造合資会社 専務取締役の木内洋一さん。1996年にビール事業を始める以前にアメリカで出逢ったのが、『アンカースチームビール』でした。
目次
サンフランシスコで初めてのアンカースチームは 「不味い!」
1980年後半、私がちょうど茨城に帰って日本酒ビジネスを始めた頃、毎年カリフォルニアに遊びに行っていたんですよ。そこでは美味しいもの食べたり、ゴルフしたり。当時30代でフラストレーションも溜まっていたのと、単純にカリフォルニア楽しいし好きだったから。ワイナリービジネスと、クラフトビールビジネスが気になり出したのもその頃。
当時、業界の新聞記事に日本の日本酒、アメリカのバーボン、ドイツのビールといった、世界の「国酒」と呼ばれるものがダメだ、という内容の記事を読んだのね。その中で2つだけ、面白いビジネスがあると書いてあって、それが全盛だったナパバレー、カリフォルニアのブティックワイナリー。もう一つが、アメリカのクラフトビール。
天気の良い6月のある日、一日中歩いて喉の渇きを潤そうと、サンフランシスコのピアノバーに行ったの。そこで初めてアンカースチームビールをオーダーしたんだけど、期待を込めて飲んだら、これが「不味い!」(笑)。苦くてしょうがないんですよ。その頃はコロナビールにライム入れて飲んでた時代で、ビールに清涼感を求める飲み方しか知らないから。
その時、「え、流行っているビールがこんな不味いの? でも待てよ、ワインだって、最初酸っぱかったろう?」って思ったの。その頃ワインの輸入業者にいたときだった。喉越しばかり追求していて、この美味しさがわからない自分が悪いんだと考えて、それからいろいろ勉強したの。ビールのスタイルとか歴史とか。
「アンカースチームビール」はラガー酵母を使用し常温で発酵させることでエールのような香りを持つハイブリッドなビール。
久しぶりにアンカースチームをテイスティングしてみて
アンカースチームの話で有名なのが、フリッツ・メイタグっていう資産家が、サンフランシスコのアンカースチームが閉鎖すると聞いて、彼の個人マネーを投資して再生したというレジェンドがあって。カリフォルニア由来のスチームビールと銘打って、1970年代に大成功するんだけど。
実はフリッツ・メイタグは、イギリスのビター、ペールエールといったビールをコピーしたのだと思ってます。それで、今日はイギリスビールとしてテイスティングしてみたところ、ガスが低くて、モルティでホップの感じもきちっとしていて、素朴なペールエールだなと。最初は訳がわかんないビールと思って飲んで「不味い、苦い」だったけど、今改めて飲んでみると「美味しい」。
きっとフリッツ・メイタグは、当時ビールのスタイルも無い時に、いかに、サンフランシスコの地ビールとして宣伝しないといけなかったんだと思うけど、これはラガー酵母でイギリスのビールを模したものとして、素晴らしい出来。レシピも変わっているかもしれないし、自分も変わっているから当時と同じものだという前提だけど。
サンフランシスコは自分にとって特別な街
サンフランシスコといえば、今年中にはサンフランシスコに直営のレストランをオープンする予定。サンフランシスコって小さな街なんだけど美味しいシーフードがあって、ケーブルカーが走っていて、「酒とバラの日々」「ダーティーハリー」といった映画の舞台にもなっていて、映画ファンの私にとって大好きな街。あれ、こうしてみると不思議だな、つながってるね!(笑)。
日本酒、ビール、ワインと知り尽くした木内さんにとってビールの魅力とは
日本酒、ビール、ワインの中で、ビールは、価格の差もないしとってもフレンドリーなお酒。アルコールの低さと苦み、ビジネスの広がりという意味でも魅力的だし、日本酒やワインに感じるような、ブランド志向やマニアックに偏りすぎないのも良いと思う。これからも初心者に対して親切にわかりやすく、ブランドではなくテイスティングで価値を知ることを教えていくことが、業界として大事かもしれないね。
> 常陸野ネストビール誕生秘話はこちら(木内酒造合資会社 HP)
★ 取材協力 「 Le petit L’ouest 北沢小西」
下北沢にある、クラフトビールの品揃え抜群の酒屋さん。店内で購入したお酒を試飲できる「角打ち」もできるので、店内には日本人だけでなく外国人の姿も多く見られます。「アンカースチーム」や「アンカーリバティエール」は、比較的若いアメリカ人も指名買いするスタンダードな銘柄のため、常時置くようにしているとのこと。
★ 取材後記(みつき)
ビール事業以外にもワイナリー、チーズ、蒸留酒など、多角的なビジネスの才能を持つフリッツ・メイタグ。木内洋一さんとお話ししていて、幾度かその姿が重なってくる場面もありました。次の人を指名していく形で進めるこの企画、次回は誰の“きっかけ”ビールが登場するでしょう。どうぞお楽しみに。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。