私の“きっかけ”ビール[4杯目] 欧和 今井礼欧さん『 ツム・ユーリゲ アルトビー ル 』
一杯のビールとの出逢いが、人生の転機に。ビール業界の第一線で活躍している人にインタビューし、「私の“きっかけ”ビール」について語っていただきます。
四回目は、ベルギーで唯一の日本人醸造家で、自社ブランド「欧和( OWA )」を生み出した今井礼欧さん。欧和のビアスタイルに影響を与えたのが、デュッセルドルフ駐在員時代に飲んだ『 ツム・ユーリゲ アルトビール 』でした。
目次
ノーベル賞を目指してた!?「超理系」大学時代に転機
研究者を目指して東京理科大の理学部化学科に入学しました。今井礼欧(れお)の名前は、江崎玲於奈がノーベル賞を獲った日に生まれたことから付けられたんですよ。大学1、2年までは、朝から晩まで勉強してました。でもあるとき、「これは道のり長いな」と気づいたんです。生きているうちに獲れない人生は嫌だなと思いはじめて。
そんなときに、サッカーの「J リーグ」が開幕したんです。高校もサッカー部で元から好きだったこともあって、地元横浜マリノスの応援に熱中してました。サッカーバーも出てきた頃で、そこでは普段知り合えない仕事の人とか、幅広い年代の人と知り合えるんですよ。ビールやカクテルをきっかけに人が集まってくることがすごく新鮮に感じて、サッカーバーを開きたいなと思い始めたんです。
カクテル研究会では商才を発揮
サッカーバーを開きたいって夢はあったけど、当時はビールにこだわっていなかったんです。勉強をしようと思って作ったサークル「カクテル研究会」に、バーテン経験者が入ってきたりして。僕も影響受けて、バーテンダースクールに通っていましたね。かなり本格的だったので、企業にバーテンダーを派遣したりして、アルバイトの必要がなかったですね。
海外駐在先でアルトビールと出会う
大学卒業後、大手ビール会社に就職して、自ら希望して外食事業部に配属されました。店舗経営を学びたかったんです。飲食店で接客していて、自社の商品の作り手に会ったことがないなと、ふと思って。「美味い」「不味い」と言われても、どこか遠い感じがしていたんですよね。その時なんですよ、「自分で作りたい」と思ったのは。そんな想いを抱えていた入社 3 年目に、ヨーロッパ駐在の話があったんです。支店があったドイツのデュッセルドルフで、このアルトビールと出会いました。
アルトビールは好きなのがいくつかあるけど、この『ツム・ユーリゲ』は、苦味がしっかりあるタイプ。現地ではこんな感じの小さいグラスで飲むんですよね。実はこのアルトビールの味が、『欧和』の原点になっているんです。
会社を辞めてスコットランドで酒造りを学ぶ
ドイツに 2 年駐在している間、大学に行って醸造学を学びたい気持ちが固まっていて、会社を辞めて、スコットランドのエジンバラにある、ヘリオット・ワット大学に入りました。まだその頃はビールって固まっていなかったので、蒸留酒も学びたくて。蒸留酒を学べる唯一の大学だったので、そこを選んだ感じです。
1 年学んで、最初に造ろうと思ったのはビールでした。技術者の作り方とか想いが味を定義することと、人を集められるのはやはりビールなのかなと思って。で、いきなりドイツで就職活動開始(笑)。ドイツの北から南まで 20 軒は回ったかな。
20 軒回って選んだ“最高の”醸造所でビール職人として働く
やっぱりお酒を出しているところまで自分で見たかったから、レストランが併設されているところは結構あるので、さらにホテル付きという醸造所に絞って回りました。僕の中で最高だと思ったのが、バイエルン州レーゲンスブルグの Prösselbrau(プレッセルブラウ)という醸造所。そこで 2 年間社員として働いていました。
140 年前から続いている家族経営の醸造所で、おじいちゃんの代から味が変わってなくて。自分の造ったビールを目の前で飲んでくれているんだけど、半年、一年ぐらい働いていると自分の存在をそこに感じられなかった。20 軒回って、ビールも人も気に入って、最高の醸造所だと思っていただけに、目的を見失った感じもあったんです。
もともと、ビールに限らず世界中のお酒を現地で造りたいっていう想いがあったから、メキシコでテキーラ造るのもいいかな、なんて思ったんだけど、隣の国のベルギーに自然発酵のビールなど様々なビールがあるというので興味を持ったのが、今の『欧和』を立ち上げるきっかけでした。
「フォアグラ」より「ご飯」のようなビールが理想
『欧和』を造り始めて 9 周年を迎えますけど、はじめの 3 年はフォアグラのような、印象に残るビールの味を目指していました。でも続けているうちに、本当に自分が目指すのは、インパクトを残しつつもおかわりしたいビールだと思ったんです。お米というかご飯のような、何杯飲んでも飽きないビールに近づけたいと。
「美味しい」にも色々あって、その裏にある意味としてどう捉えるかですよね。僕の場合は、ホップのストレートな苦みがこないっていうのかな、麦芽の焦がした苦みはあって。苦みっていう表現も、ホップから来ているのか、焙煎麦芽から来ているのかで違いますし。
夢はたくさんあって、釣竿を 100 本持っている感じ(笑)
これからやりたいこと? 実は 100 位ありますよ(笑)。釣竿を 100 本下げていて、引きがあったものを釣り上げていくイメージですかね。そこが日本とかヨーロッパだとかは意識していなくて、世界中のお酒を現地で造りたいんです。もちろん引きがあった時のために、勉強や準備はしています。夢のひとつに、鯛焼き屋さんやりたい、っていうのがあって。ベルギーでもイベントで作ったりして結構好評なんですよ。実はロゴだって作っているんです(笑)。
お酒で言うと、日本酒、ウイスキー、テキーラを現地で造りたいですね。近いうちに実現するものもあります! もちろん準備はできているので・・・楽しみにしていてください。
★ 取材協力 「 ビアバー sansa 」
今年 3 周年を迎える赤坂のビアバー。店主の橋本さん(写真左)がセレクトした国内外のクラフトビールが、個性に合うグラスで提供されます。ビールとのペアリングが考えられた、旬の食材を使った創作料理も秀逸。* 今回のビールは取材用のため、お店では提供していません。
★取材後記(みつき)
いつもふんわりした笑顔の今井さん。今回お話して、海外で活躍するサッカー選手のような、「超!仕事人」の印象が加わりました。「自分がそこで何を生み出せるかをきちんと語れる人は、どこに行っても仕事があると思う」とビシッと言い切る、人並み以上の努力もしているし、ハートの強さも感じます。100 の夢を叶えていく今井さんから、目が離せませんね! 次回もお楽しみに♪
★過去記事
> 私の“きっかけ”ビール[1杯目] 木内酒造 木内洋一さん『アンカースチームビール』
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。