[コラム,ブルワー]2016.4.16

新たな挑戦を通じて造られるビール 【ブルワリーレポート 石見麦酒編】

「江津は東京から電車だと日本で1番遠いところなんだって」と江津駅から醸造所へ向かうタクシーの中で、運転手さんからこんな話を聞きました。

今月より本格的な営業を開始した株式会社石見麦酒。島根県西部に位置する岩見地方に醸造所はあります。

無いからこそチャンスがある!

「江津には地酒がないんですよ」

そう話してくださったのは醸造長の山口氏。江津には元々は沢山の日本酒の蔵元が存在していたのだが、様々な事情により廃業してしまいました。島根県は日本酒の醸造所は30程度あり、お酒文化は元来あるところなのです。

地元との融合と挑戦。山口醸造長の頭には様々なビジョンがつまっている

地元との融合と挑戦。山口醸造長の頭には様々なビジョンがつまっている

「誰もいないからこ、そこの土地には可能性があると思いました」とここに開業した理由を語ってくださいました。山口さんは広島生まれ。しかし、0からだこそ自分の造りたいビール造りができると信じ、この土地を選ばれました。

地元の特産品を活かせるからこその発泡酒免許

石見麦酒が現在取得しているのは発泡酒免許です。やはり設備費や生産量の問題があるから発泡酒免許からスタートしたのかを訊ねてみると「地元の食材を使用したビールを造りたかったから」と答えてくださいました。

島根県は土地や気候の関係で、レモンをはじめとする果実が生育しやすい環境にあります。山口さんはこうした地元の食材を使用することで、地元農業の活性化にもつながると考えています。

スーパーの野菜売り場に生産者の名前や顔が記載してあるものを見たことがあると思います。石見麦酒のボトルラベルには原材料と一緒に食材の生産者が記載されているのです。こうした地元の方々とのご縁を大事にしているところも特徴の1つです。

実際にどんな効果があるのかを聴いてみると「あの生産者が生産しているものを使用しているということで、その生産者のファンの人たちが買っていってくれるんですよ」と波及効果がでているのです。今後もこうした連携を図れる生産者を探して、win-winの関係を築いていくとのことです。

地元企業との連携で今までにない醸造設備が誕生

石見麦酒にはいくつもの特徴があります。今回、取材したなかで最も特徴的だったものは醸造設備でした。ビールを醸造するにあたって、多く使用されるが、銅やステンレスの釜です。石見麦酒でも糖化や煮沸にはステンレスのものを使用しています。ところが、熟成釜はこうしたものを使用していません。「ビール造りでとても重要なことに洗浄があります。しかし、この洗浄作業は大量の水も使用するし、時間もかかります。そこで、うちはこの冷蔵庫のなかに地元企業に特注したビニール袋を入れて、その中でビールを熟成させます」と見せてくださったのは一人暮らし用程度の大きさの冷蔵庫。それを改良して、上から扉が開けられるようになっており、のぞいてみるとビニール袋の中に発酵中のビールが入っています。

冷蔵庫を改造した貯蔵庫。アプリで温度管理を行っている

冷蔵庫を改造した熟成庫。アプリで温度管理を行っている

「こうすることで、作業時間や光熱費を削減しています」と自信作に対して、話してくださいました。

地元企業との協力で生み出された特注のビニール袋。これを使用することで、コストの削減が図れる

地元企業との協力で生み出された特注のビニール袋。これを使用することで、コストの削減が図れる

それに加え、貯蔵庫温度変化をアプリによって、コンピューターで管理しています。これにより24時間、遠隔地にいてもビールの変化を追うことができるのです。データは1分刻みで追うことが可能で、安定した品質管理に役立っています。

1分刻みで、温度管理が可能。きめ細かな情報管理は品質維持には欠かせない

1分刻みで、温度管理が可能。きめ細かな情報管理は品質維持には欠かせない

既成のスタイルにこだわらず、地元の食材を融合させた新たなビール造りへ

開業時のビールはベルジャンホワイト301、アメリカンペールエール520、セゾン744の3種類です。どのビールも既存のビアスタイルをベースにしながらオリジナリティを出しています。

ベルジャンホワイトでは創業100年以上の老舗椛店の椛と香り付けには柚子の皮を使用しています。

アメリカンペールエールはレモンピールを加えることでペールエール特有の柑橘類のアロマが華やかになっています。

セゾンには柚子を香り付けに使用することで、華やかな香りとキレを生み出しています。そして、米を加えることですっきりとした味わいに仕上げています。

こうした地元の食材を利用し、新たなビール造りが石見麦酒の長所と言えると思います。

スタートは3種類。今後も様々なビールが登場予定だ!

スタートは3種類。今後も様々なビールが登場予定だ!

地方という土地や極小の醸造設備と一見ハンデに思える環境をアイデアでオリジナルを生み出そうとしている石見麦酒。まだ、始まったばかりで試行錯誤をしながらの日々を過ごしているが、近い将来、新たな旋風を巻き起こしてくれる可能性のある醸造所であると思いました。

 

◆株式会社石見麦酒(江津工場)

住所:〒695-0016 島根県江津市喜久志町イ405番地

電話:0855-22-2048

FAX:0855-22-3664

E-mail:i-yamaguchi@iwami-bakushu.com

Facebook:http://www.facebook.com/iwamibeer

ブルワリーレポート島根県石見麦酒

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

こぐねえ(木暮 亮)

ビールコンシェルジュ

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは4000種類以上(もう数え切れません)。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

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