唯一無二のビールを目指して 【ブルワリーレポート 風上麦酒製造編】
2016年7月。神奈川県川崎市に新たなブルワリーが誕生しました。その名も「風上麦酒製造」です。その名前の由来は、「ビール界の風をここから起こす!」という想いが込められています。すでに都内のビアバーなどで飲まれた方もいらっしゃると思います。私の周辺からは「なかなか個性的なビールを造っているよ」と聞き、醸造所へお話を伺いに行ってきました。
私にしか造れないビールを造る!
「どこにもない独特なビール」
風上麦酒製造のビールを言葉で表現すると、どのような形になるのかを訊いてみると田上達史氏はこう答えてくれました。
独特なビール。それは一体どのようなビールなのでしょうか。田上氏は万人受けをするビールを造るつもりがないと言います。
「フルーツやフレーバーを使用したビールがありますが、私からするとほんのりと香る程度です。もっとしっかりとしたアロマが香るビールを造りたいのです。私と同じようにアロマが強いビールを飲みたいと思っている人たちがいると思います。風上麦酒製造のビールはすべて香りの強いものを造っていきます。そのためにハーブやスパイスの勉強もたくさんしました」と方向性を語ります。
経験を補う卓越した理論
田上氏がビールに魅了されたのは2008年。ある酒屋で出会った5年熟成の「シメイ(青)」です。
「そのビールを開栓したときに月日が味を磨くと初めて知りました。伝統ある技術と酵母がもつ自然の力が時間によって、結実したのだと思います。私の理想のビールはトラピストビールなのです」と語ってくれました。では、今後は長期熟成のビールを造っていきたいのかを問うと、「いえ、今の段階ではさすがに難しいです」とのことでした。
元々、物理学を専攻し、予備校講師として活躍されていた田上氏。物理学の知識を活かし、理論的にビールを醸造されています。
「私はまだまだ新人醸造家ですが、経験の少なさを今まで物理学で培ってきた理論を用いて、どこにも負けないビールを造っていきます」と強く、熱く語ります。
醸造設備も1人で製作しています。麦芽を破砕する装置をはじめ、醸造所の設備は田上氏自らの情熱溢れるアイデアで設計されています。
定番ビールから魅せていく
現在、醸造されているビールは「無意識の承認(ポーター)」、「慢性的賛歌(ベルジャン・トリプル)」、「崇高な侵略者(ベルジャンIPA)」の3種類です。どのビールがフラッグシップなのかを訊くと「無意識の承認です」と答えます。
「このビールが造りたくて、醸造所を立ち上げたビールです。ベースは少し甘めのポーターなのですが、ハーブとスパイスで香りと味を付けています。スパイスには主にクローブを使っています。薬っぽい独特な香りがあり、ビールとは感じられないかもしれません。『ワインっぽい』、『コーラみたいな香り』、『消毒薬』など、いろんな感想を持たれています。間違いなく世界で1つしかないビールです」
日本ではフラッグシップとなるビールに黒色系のビールを定めるところは少ないと思います。さらにハーブやスパイスを用いることで、他にはないビールを確立している辺りに田上氏のこだわりが感じられます。
ラインナップは今後、どのようにしていくのかを訊ねると、「基本はこの3つのラインナップでいきます。まだ、理想の形にはなっていないので、レシピの変更はあると思いますが、基本の形はこの3つのビールになります。あとは限定ビールを造ると思います」と定番3種類のビールで勝負していくと言います。
自分の味を好む人たちに飲み続けてもらえるように
現在は1人で醸造から営業、販売までしています。「地方の方からネット販売や直接、醸造所にビールを求めて来られる方もいるのですが、1人で行っているので、そこまで手が回らないのが現状です」と言います。ネット販売については「今後は開始していきたいという思いはある」とのことなので、期待して待っていてほしいと思います。
常設しているビアパブや酒屋はまだないと言いますが、「武蔵小杉にあるビアパブ、マッキャンズさんや下北沢の北沢小西さんでは飲んだり、買ったりすることができる機会が多いと思います。これからもどんどん営業をしていって、自分が造ったビールを飲んでもらえる機会をふやしていきたいです」と今後の展開について語ります。
「自分の味を好む人たちに飲み続けてもらえるように頑張っていきたい」と語る田上氏。その想いはビール界にきっと新しい風を吹き込んでくれることだろう。
◆風上麦酒製造 Data
住所:神奈川県川崎市幸区南加瀬3-23-9アーバニティ1階A
電話:080-3001-0125
E-mail:kazakamibeer@gmail.com
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。