【第2部】『 Highbury 』が持つ魅力とは何なのか?- Thornbridge ・ Fashion ・ YEBISU 編-
目次
【第1部】『 Highbury 』が持つ魅力とは何なのか?- Pub Culture ・ Nostalgie Tap ・ Plzeňský Prazdroj 編- より続き。
前編ではビールの品質そのものである【ソフト】はもちろん、サービング技術や設備などの【ハード】や店内のディレクションにもこだわりが満ちていることを知ることができた。
「品質」・「提供」・「空間」…どうしてここまでこだわるのだろうか?
それはここで表現される全てが、彼らにとっての「ストーリー」や「付加価値」を明示するものであるからに他ならない。
本章ではお二方の経緯に触れながら【ソフト】であるビールについてより触れていく。
■「Thornbridge TOKYO」として。運命を左右した一杯との出会い
イングランド北部・ベイクウェル、2005年創業の『Thornbridge(ソーンブリッジ)醸造所』。現在100以上の受賞歴を持つ、英国で最も成功しているといっても過言ではない醸造所の一つだ。
ハイバリーは【Thornbridge TOKYO】という商標を掲げ、日本で唯一、同所のアンテナパブとしての役目も担っている。創業間もない頃、時を同じくしてイギリス留学中であった安藤氏があるビールに心打たれたのがことの始まりだ。
『Jaipur IPA(ジャイプール IPA)』。「Thornbridge Hall」という名であった当時から、現在も同所がフラッグシップとして掲げるIPAスタイルだ。
「(前回ご紹介した)『THE WHITE HORSE』を10年前に初めて訪れたときに、そこのオーナーがメモで教えてくれたんです。その後、ダービーの街にある「Flower Pot(フラワー ポット)」というパブでこのカスクエールに出会いました。もう衝撃の一言。それからこのビールがずっと憧れでした。」
その憧憬は彼を動かした。直談判の末、単身「Thornbridge」への修行に踏み切ったのだ。
そこでの経験も経て、今この日本で「ソーンブリッジイズム」を伝える一端を託されている。
実は同ブルワリー、今年で10周年になるのだが、派手なプロモーションは一切していない。また、後述するファッションにも走っていない。そういうところもまた惹かれるという。
今回は2銘柄をご紹介したいと思う。
まずは思い出深い『ジャイプールIPA』。こちらは常設しているのでいつでも飲みに伺える。
ノンパストリゼーション·ノンフィルターとは思えない、光輝く黄金の澄んだ液体にまず驚く。そこからはレモンやマスカット、はたまた柚子のような清らかな甘いアロマが飛び込んでくる。
口に含めばモルトの甘味とコク、メロンのような芳醇な果実のフレーバー。それらが味わいに厚みを与えつつも、なんてドリンカブルなんだろう。
後味の苦味も強すぎずクリーンで、麦芽の甘味を引き立てる品を感じられた。
もうひとつは『ワイルドスワン』。
これを目当てにハイバリーに通う方も多いらしい。スタイルは「ホワイト・ゴールド・ペールエール」と明記されており、アルコールは度数は3.5%という品物だ。
香を吸い込んだ瞬間、レモンや白ブドウ、パインのようなピュアなアロマがからだになじんでくる。口に含むと、こちらもするする喉奥に落ちていく抵抗感のなさだ。
低反発のベッドに飛び込んだような柔らかい麦の味のアタックと、フィニッシュまで続く小麦のコク。余韻に広がるトロピカルな風味やソフトな酸味、3.5%のABVとも相まって、何杯でも楽しませてくれる。
共通しているのは、どこまでもきれいなテイストだ。
特徴的でいて、かつ澄みわたる、何度でも飲めてしまうテイストに彼らはほれ込んだ。そして今は、この新宿の地で自らファンを増やしている。
■『ブルーイングをファッションにしない』という誓いを胸に
安藤氏は「ソーンブリッジ」の他、「常陸野ネストビール」の「木内酒造合資会社」にもその後籍を置いている。同社での数ヵ国に及ぶ海外プロジェクトの立ち上げサポートなどを経験したのち、今回の開業に至った経緯がある。
そこで学んだ、最も大切な理念があるという。それは、【ブルーイングをファッションにしない】という言葉だ。
「例えば原材料にしろ、造り方にしろ、提供の仕方にしろ、そこに「根拠」を持たせたいんです。それを怠ればファッション=魅せ方がウェイトを占めてしまう。もちろん、それもお客様を喜ばせることに繋がりますが、私たちはそれ以上に、流行とは異なる「100年後も残るビール」を念頭に造り、または味わってほしいと思っています。」
だからこそ、すべてにこだわりを、根拠を持って彼らは表現しているのだ。
同様に、榮川氏は「うしとらブルワリー」での醸造経験がある。ハイバリーのラインナップは、彼らがインスパイアされたそのものの表れでもある。
そして、それらの中でも彼らの共通点。「100年後も残るビール」として共にリスペクトしている銘柄を頂く。榮川氏がノスタルジータップで注いでくださったのは、「サッポロビール株式会社」の「ヱビスビール( YEBISU )」だ。
■秘められた職人魂に魅せられて
安藤氏はビール自体の味わいはもちろんのこと、「協働契約栽培」ということに特に品質への「こだわり」を感じると続ける。
同社のHPには、こう説明がある。
——
協働契約栽培とは、ビールの主原料である麦芽(大麦)とホップの産地からこだわり、栽培から加工プロセスまで共につくっていくシステムのこと。
(同社HPより抜粋)
http://www.sapporobeer.jp/qualityassurance/material/contractfarming.html
——
同社では「フィールドマン」と呼ばれる、作物の栽培、加工、育種などのプロフェッショナルを社内で育成している。彼らは、世界中の生産者と積極的に「コミュニケーション」して、「共に」品質の良い原料をつくり上げる役割を担っている。生産したものを受け取る、一方方向のベクトルではないのだ。
その「協働契約栽培」をサッポロでは大麦とホップに関して「100%」行っている。
「すべての原料(麦・ホップ)に対して、つまり100%協働契約栽培を掲げているのはサッポロだけ。このすごさを積極的に伝えないのか、伝わっていないのか…(笑)。「ファッションにしない」ことに似たようなところがありますね。」と安藤氏は微笑む。
きめ細かい白と混じり気のない黄金色のコントラストが美しく、思わず見とれてしまうほど。麦とホップの明瞭も品のある香りだ。
口に含めば麦のソフトな甘味とコクが広がり、隠された苦味が綺麗な余韻にまとめ上げている。これは私の知っている「エビス」なのだろうかと思わず唸ってしまった。
クラフトビールの勢いが増し、「大手の」ビールとひとくくりに言われることが多くなったわけだが、それでも大手足りうるポテンシャルの高さを持つビールが存在すること、それを造りだす人、その秘められたクラフトマンシップを最大限に引き出す名匠がいてくれることに感謝である。
【Next…】
【第3部】『 Highbury 』が持つ魅力とは何なのか?- Cask Ale ・ GUNNERS BREWING 編-(11/24更新予定)
https://www.jbja.jp/archives/14488
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。