[コラム,ブルワー]2017.11.5

記念すべき初仕込みに密着! 【ブルワリーレポート 秩父麦酒編】

2017年10月16日、念願の醸造免許の交付を受けた秩父麦酒。「10月21日に初仕込みをします!」と醸造責任者の丹広大氏から連絡を受け、初仕込みに立ち会わせてもらうことになった。

「明日は朝6時から糖化を開始して、順調にいけば酵母を16時に投入して終了です」

「朝、早いね…」。それもそのはず、彼が使うのは1000Lの設備。糖化、スパージング、煮沸それぞれの工程に時間がかかる。コンテナハウスで寝られるというので、ご好意に甘え、前日から秩父入りすることに。

西武秩父駅まで迎えに来てくれることになっていたので、途中の池袋駅で到着時刻を連絡。すると「遠いところすいません。しかし、現在バタバタです(笑)」という返事が入る。やはり初めてということで、準備に手間取っている様子だ。特に彼が使う設備は10年以上使われていなかったものだ。ちゃんと動くのだろうか。ちょっと。いや、とても不安になってきた…。

秩父麦酒で使用する機材は2006年に廃業した「ペア―エール」が使用していたもの。隣接するタイセー菊水酒造所株式会社が所有していたのを買い取った

西武秩父駅からの車内で「いよいよこの日まできましたね」と伝えると、「本当に。途中、心が折れた時もあったけど、地元の人や同じ志を持つ人たちの応援でここまでくることができました」と感慨深く話す。もともと、秩父麦酒は地元の会社と立ち上げる予定だったが、諸事情により奥様と2人起業する形となった。醸造所や機材の選定をはじめ工場の内装、醸造免許の申請など1人で対応してきた。以前より交流があったので、定期的に状況を聞いていた。特に醸造免許は、秩父地域で初めてということや個人での運営ということもあり、なかなか進展がみられず、落ち込む姿も目の当たりにしてきた。しかし、彼を支援する周囲の人たちの力もあり、地道に進めてこの日を迎えるに至った。「まだ、泣いちゃいけないのだけど、振り返ると泣きそうです」とその顔は晴れ晴れとしていた。

醸造所に着くと初仕込みをサポートする鈴木孝治氏と機材のメンテナンスを請け負っている業者さんが、準備、点検を行っていた。

「日付が変わる頃には準備は終わると思います」とのこと。だったが、ビールの神様はここで試練を与えてきた…。

配管から水が漏れまくるのだ。漏れるところを調整すると、今度は他のところからバジャーと漏れてくる。

事前のチェックでは水漏れはなかったという。このままでは麦汁が漏れ出てしまう…

色々と調整し、作業が終わったのは深夜2時を回っていた。その後、打ち合わせをして就寝したのは4時半。初仕込みはほぼ完徹のコンディションで行われることに。

仮眠から眼が覚め、時計を見ると「6:42」。見事に寝坊。周りを見ると鈴木氏は目を覚ましていたが、肝心の丹氏はいびきをかいて熟睡中。やはりこのくらいの大胆さがないとここまでやってこられないのだと感心してしまった。

この日は「まほろバル」の店長坪内氏も合流。秩父麦酒を常設予定のバルだ。

糖化に必要なお湯は深夜に貯め、保温しておいたので、作業は麦芽を投入するところから。セレモニー的なものがあるのかと思っていたが、あっさりとモルトを糖化釜へ。ちなみに今回はモルト、ホップともに1種類ずつを使ったスマッシュスタイルのペールエールだ。使うホップはカスケード。「最初ということもあり、シンプルなビールから始めたかった」とその意図を教えてくれた。

記念すべき初仕込みはあっさりと始まったので、慌ててシャッターを押すことに。
この後、参加者全員でモルト投入作業を行った(私もやらせてもらった。感謝です)。

約1時間の糖化作業を終え、ろ過工程へ。まもなく流れてきた一番搾り麦芽を試飲。透明感あるきれいな麦汁で、スッキリとした甘味。そこにいた者たちから自然と笑みがこぼれた。

記念すべき初一番搾り麦汁。
とても美味しかったので、甘酒感覚で販売してみてはと提案するも「麦汁は痛むのが早いので無理です」と即却下。残念…

その後、二番、三番麦汁としっかりとモルトの栄養分を取り比重測定。やや重みのある麦汁。ボディはしっかりとした感じのビールになるのだろうか。

3回に分けて、比重を測定。しっかりと状況を踏まえ、調整を行っていく。

次はホップを投入。全部で3300gを数回に分けて投入(ドライホッピング用を含む)。測定時には部屋中に華やかなフローラルな香りに溢れ、ホッと一息。

笑顔で投入しているが、煮沸の温度は97~98℃と高温のため、非常に熱い。手早く入れないと火傷してしまう。

煮沸中に発酵タンクとそこまでのラインを最終洗浄と消毒。ここで汚染されてしまってはここまでの苦労が水の泡になってしまう。そして、酵母を発酵タンクに入れ、ビールを移動。時刻は16時前。開始時間が遅れたが、念入りな準備のおかげで、初仕込みは大きなトラブルもなく行われた。それでも「実際にやってみると色々課題が出てきますね」とプロの目には様々な課題が写っていたようだ。

煮沸の合間にモルト粕を取り出す。一部は近隣の農家や農場で再利用される。サステナビリティ面もしっかりと考えられている。

この日の作業はここまで。翌日、「順調に発酵しています。期待以上に美味しく変化しています!」と手応えを感じるメールが送られてきた。

秩父麦酒の記念すべき1stバッチは12月の秩父祭りでお披露目する予定だ。今後は定番ビールを造り、外販も順次していく計画だ。

右が代表取締役社長を務める丹祐夏氏。これからも二人三脚で歩んでいく

最初は新たな秩父の名産品として、地元に根付かせることと同時に外販を広げていく方針だ。そして、いずれは世界にも発信していくという。「秩父はワイナリーやイチローズモルトで有名な蒸留所もありますので、将来的にはバレルエイジにもチャレンジしたいです。あとはサワーエールもやってみたいです」と夢を熱く語る。

いくつもの困難を乗り越え、スタートを切った「秩父麦酒」。これからも多くの試練が彼の前に立ちはだかるだろうが、人とのつながりを大切にする丹氏ならば、きっと乗り越えていけると信じている。

最後に初仕込みという大変な時を嫌な顔1つせず、取材させてくださった関係者のみなさまに感謝を申し上げます。

【追記】一部、内容に変更がありましたため、修正いたしました(11/5)

◆秩父麦酒 Data

住所:埼玉県秩父市下吉田3786-1

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ブルワリーレポート丹広大氏秩父麦酒

※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。

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この記事を書いたひと

こぐねえ(木暮 亮)

ビールコンシェルジュ

『日本にも美味しいビールがたくさんある!』をモットーに応援活動を行っている。実際に現地へ足を運び、ビールの味だけではなく、ブルワーのビールへの想いを聴き、伝えている。飲んだ日本のビールは4000種類以上(もう数え切れません)。また、ビールイベントにてブルワリーのサポート活動にも積極的に参加し、ジャーナリストの立場以外からもビール業界を応援している。

当HPにて、「ブルワリーレポート」「うちの逸品いかがですか?」「Beerに惹かれたものたち」「ビール誕生秘話」「飲める!買える!酒屋さんを巡って」などを連載中。

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