プロシューマー型BREWERYの確立を目指して! 【ブルワリーレポート BREWIN’BAR主水編】
「これで造っているんですよ。凄いでしょ!」と9月に開催された「BeerFes横浜」で試飲をしていたところ、笑顔で話してくれた人たちがいました。今年の4月に銀座で30年以上続いているBARをブルーパブに改装した「BREWIN’BAR主水(以下、主水)」さんです。日本で初めて取り入れた醸造から発酵、貯蔵までを1つで行える80Lの極小タンク「ビアック」で造っています。なぜ、この機器を使うことにしたのでしょうか。そこにはビール業界へのある思いがありました。
新しいモデルを開拓し、次世代へつなぎたい!
「BARって世代を繋げないところが多いのです。それを何とかしたいと考えていました。私たちがやりたかったことの1つに次の世代に『新しい形ができる』と道を示したかったのです。小さなものが発展して大きくなっていくということは良いことだと思います。そのために私たちは小さいモデルをしっかりとつくっていきたいのです。そこで考えついたのが、『ものづくり』でした」とブルーパブをはじめるきっかけを話してくださったのは武蔵昌一氏です。
「当店は30年以上続いてきたBARで、経験豊富なバーテンダーがいます。お客さんの要望にしっかりと応えられるのも強みです。これからは造り手と飲み手が一色単となったプロシューマ―型の時代になっていくと考えています。基本的にオープンソースで、造り手、注ぎ手、飲み手が支え合ってクラフトビールカルチャーをつくり上げていきたいです」と新しいビジネスモデルが生まれ、次世代の人たちにバトンタッチできないと業界も発展していかないと語るのはヘッドブルワーの榊弘太氏です。
BAR業界とビール業界、それぞれの業界が次世代に引き継ぎ、発展していくうえで必要と考えたのが、新しいビジネスモデルの構築でした。しかし、その道のりは簡単ではなかったといいます。
「ビアック」の出会いと育まれる新しいビール造り
「道があるようでない世界でした。自分たちで造ったものを自分たちで提供するのが大事だと考え、BARに工場を併設しているのはイメージできました。しかし、ブルワーがいませんでした。榊ヘッドブルワーに出会えなければ、実現できなかったと思います」とビール造りはもちろんのこと、税務署に提出する免許申請関連で彼の大きな力となったとのこと。
「お店の運営、機器の取り扱いなど、各々の世界での経験を活かし、フォローしながらやってきました。そのなかで出会ったのが『ビアック』でした」と武蔵氏が立ち上げの経緯を話せば、榊氏は「ビールのコンセプトはこだわりのラーメン屋さんのように一品を食べてみてよという形ではなく、お寿司屋さんのようにお品書きを並べて集め、様々なビアスタイルを飲んでいただけるような形を目指しています」といい、それには「ビアック」が必要だといいます。
飲みたいスタイルが飲めるというのが「主水スタイル」。「1回80Lです。頻回に仕込めるため、望んでいた多品種を提供することできます」と話します。3月4日からの初仕込みから50回仕込み、約30種類を醸造しています。
「それとサイズが小さいことで、作業時の身体にかかる負担も少ないです。個人的にはこれからのクラフトビールカルチャーを担うものと思っています」と革新的な機器であるといいます。
飲み手に戻ったから気づいた「お寿司屋さん」スタイル
熱心なビールファンの方はご存じのことと思いますが、榊氏は約8年ブルワーの仕事から離れていました。「前職の横浜ビールでは8年ヘッドブルワーを務め、次第に理想と現実が乖離してしまっていました。『そろそろやれるだろう』、『やらせてくれるパートナーが現れるだろう』と他力本願でした。今、振り返ると少し考え方も甘かったと思いますし、天狗になっていたところもあったと思います」と当時を振り返ります。その間にも後輩がブルワリーを立ち上げ、規模を拡大していくところを目にし、「『自分から動かなきゃいけない』と気づきました。パートナーを探し、知人を介して出会ったのが、主水のスタッフでした。でも、一度離れたことで、飲み手の視点に戻ることができて、『一番大事なのは飲み手なのだ』と感じたのです。『俺のビール、美味しいから飲んでみろ』と押し付けではなく、プロシューマ―の視点が大事だと考えています」と距離を置いたからこそ見えてきたことがあったと語ります。
ビールの味については「お寿司屋さんモデルを掲げていますので、複数のネタを楽しんでもらえるようビールも何杯でも飲めるような味わいにしています。ビールだけではなく、食中酒として料理との相性も楽しめるものを心がけています。ビアスタイルを基本的なところは損なわないようにしています。お寿司でいうとネタの良さを活かすようなシャリですね。ビールだけでもコースを組めるようにしています」と料理とのマリアージュを意識しているといいます。食中酒として合わせることができるスタイルを心がけ、伝統的な根幹の部分は崩さないこと意識しています。
将来は、新しさやユニークさを考えていくなかで生まれるコミュニケーションや価値観といったものが未来の形をつくる礎になればいいと考えています。
「今回、筋道が通っていれば、応援してもらえるということもわかりました。自分たちの思いが実現するのには時間がかかると思います。『ビールを造ることだけが幸せ』ではなく、お客さんが望むものを提供して喜んでもらえること、その土地に必要なビールが造られていくようになって初めてサードウェーブと言えるのではないでしょうか。地域ごとの味噌があるようにね」と最後に武蔵氏が話してくださいました。
斬新な醸造機器にも注目ですが、未来のビールカルチャーに向けた取り組みはとても興味深いものでした。BARということもあり、カウンターでじっくりと語るのもよし。「わいわいと賑やかに盛り上がるのもOKです」と仲間と楽しく過ごすのもありとのこと。銀座からどんなビールカルチャーが生まれてくるか楽しみでなりません。
◆BREWIN’BAR主水 Data
住所:東京都中央区銀座8-11-12 正金ビルB1
電話:03-3574-7004
Homepage:http://www.brewinbar.com/
Facebook:https://www.facebook.com/brewinbar/
営業時間:14:00~23:00
定休日:日曜日・祝日
席数:カウンター8席・テーブル30席
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。