ビア女の酒場放浪記(42)黒酢の郷が醸す鹿児島クラフトビール「桷志田(かくいだ)」前編
「鹿児島には黒酢メーカーが造っているクラフトビールがある」
そう聞くと、多くの人が「それって酸っぱいの!?」と驚かれることだろう。
私もその一人だった。
そのビールが造られているのは福山黒酢直営のショップ&レストラン「黒酢の郷 桷志田(かくいだ)」。
活火山である桜島が浮かぶ錦江湾の東側。鹿児島県福山町にある。
200年以上も前からここで黒酢が造られてきた。
福山黒酢の創業は2002年。
今もなお伝統的な製法で黒酢を造る数少ない黒酢メーカーだ。
「黒酢の郷 桷志田」は1階が黒酢を発酵させるための黒酢壺畑と売店、ビール醸造所。
2階は黒酢を使った料理を出すレストランになっている。
ビールが造られるようになったのは、2015年12月。
現在は「桷志田ホワイトエール」「桷志田レッドエール」の2種類が定番商品だ。
そのほとんどが黒酢レストランで消費されてしまうため、他で飲む機会はめったにない。
黒酢壺畑に隣接する醸造所には120L、240L、500Lの発酵タンク2本ずつ並び、その奥には煮沸・糖化のための大鍋が3つ。
シンプルかつコンパクトな施設で、多くの作業は手で行われる。
ビール醸造を担当するのは竹下さんと新山さん。
お二方とも黒酢造りで養った微生物のエキスパートだ。
竹下さんは宮崎県出身。
大学で微生物学を専攻し、黒酢メーカーに就職した発酵の専門家だ。
実は大学生時にビール会社への就職も考えたほどビール好きなのだとか。
一方の新山さんは地元出身。
発酵技術の習得は先輩黒酢杜氏から教わったという叩き上げの職人だ。
正確に計測し記録を取りながら理論的に作業をすすめる研究肌の竹下さん。
一方で経験を頼りにテキパキと作業をする職人肌の新山さん。
なかなか良いコンビだ。
そもそも、黒酢とはどうやって造られるのだろう? ビールとの相違点は?
「黒酢は壺の中で糖化、アルコール発酵、酢酸発酵、熟成をさせています。
ビールは各工程で場所を移しますが、基本は同じです。発酵技術はビール造りにも応用できます」と新山さん。
桷志田での黒酢造りは年に、2回春と秋に行われる。
アマン壷と呼ばれる仕込み用の壷に、玄米、麹、水を入れ、それを屋外に並べる。
昼の太陽、夜の冷気、錦江湾からの海風にさらし、自然酵母を取り込みつつ壷の中だけでじっくりと発酵と熟成が進む。
熟成期間は最短3年、最長10年にも及ぶというから驚きだ。
その間、黒酢杜氏が一壷一壷丹念に覗き、正常に発酵が進んでいるか点検していく。
自然酵母を取り込んで発酵が進むというのは、ベルギーのランビックにも共通するところだ。
でもなぜ黒酢メーカーでクラフトビールなのだろうか?
竹下さんに伺った。
「黒酢もビールも発酵食品です。黒酢造りで培ってきた生物工学、発酵技術、衛生管理技術を活かして新しい商品を造りたいと考えた時に、ビール醸造がいちばん経験を活かせるのではないかと考えました。
実は社長がアルコール好きというのもあります。
弊社ではジョージアワインの輸入もしているのですよ」
ジョージア(旧・グルジア)ワインとは、粘土壺の中でアルコール発酵・熟成させる世界最古のワインで、ユネスコの世界無形文化遺産にも登録されている。
なるほど、伝統的な壺造りの製法は、黒酢造りにも共通するものがある。
「いつかは黒酢メーカーならではのビールにもチャレンジしてみたいですね。
たとえばランビックのように野生酵母を取り込んだ酸っぱいビールや、黒酢の壺で発酵熟成させたビールも面白いでしょうね」
そう目を輝かす竹下さん。
樽で寝かせたビールは聞くが、壺で寝かせたもなど聞いたことが無い。
いや、古代エジプトやメソポタミアなどの古いビール醸造の絵では、壺でビールを造っていた。
これは面白い!
ビールにはまだ様々な可能性があることに気付かされた。
まずはレストランで、黒酢造りの技術を活かして造られたというレギュラービール2種類を味わいたい。
前編はここまで。
次回はビールと黒酢料理をリポートする。
「黒酢の郷 桷志田(かくいだ)」
住所/鹿児島県霧島市福山町福山字大田311-2
電話/0995 (55) 3231
営業時間/8:30 – 17:30ランチタイム 11:00 – 15:00 アフタヌーンティー 14:00 – 17:00
定休日/年中無休
WEB/ http://kurozurestaurant.com/
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。