エールビールへの思いと転機となったスイーツビール 【ブルワリーレポート サンクトガーレン編】
1994年の酒税法改正。年間醸造量60KLに緩和され、小規模醸造が認められるようになりました。このいわゆる「地ビール解禁」に影響を与えたのが、「サンクトガーレン」の岩本伸久社長です。1993年にサンフランシスコで醸造を開始し、1997年国内で醸造開始。来年で25年を迎えます。これまでを振り返っていただくとともにビールへのこだわりを聞いてきました。
日本に馴染みのないエールビールへの思い
「サンクトガーレン」には多くのラインナップがありますが、そのすべてがエールビールです。「初めてアメリカで味や香りが異なるビールを知り、『なぜ日本ではあまり知られていないのだろう?』と思いました。ビールには色んな楽しみ方があるということを紹介したいと考えるようになり、日本で始めました」ときっかけを話します。
「昔は『日本人はラガービールしか飲まないよ』とよく言われました。それはラガービールしか知らないからです。『ビールを広めたい。もっと知らない人にいっぱい飲んでほしい』そういうビール造りをしていきたいと思っています」とビール文化を発展させたいという思いからエールビールを造り続けています。
ブーム後の低迷を救ったあのビール!
醸造を始めた時期は「地ビールブーム」といわれていましたが、数年のうちに終焉を向かえ、「サンクトガーレン」も苦しい状況になったといいます。そんな時期にある人物との出会いがありました。それが現在、広報を担当している中川美希氏です。
「当時、彼女はとあるテーマパークで勤務していて、そこで開催された地ビールフェアを担当していました。そこで次はどんなビールを造るのかという話になり、私はヴィンテージビールを造ってみたく、バーレーワインかインペリアルスタウトを挙げました。ところが彼女は苦いビールが好きでなくて(苦笑)。だったらインペリアルスタウトを造ろうということになり、『チョコレートスタウトが造りたい』と話しました」とビールが苦手というやり取りが「インペリアルチョコレートスタウト」の誕生につながったとのこと。そして、これが大きな転機となります。
「バレンタインの時期に合わせて6,000本を発売することになり、中川がプレスリリースを出してくれたら、ビックリするほど取材がきました」。その後はネットショップから注文が殺到、電話も朝から夜まで鳴りやまず、対応で醸造の仕事ができない状態だったといいます。
「翌年からは、高島屋さんでの販売が始まりました。20,000本つくりましたが、直ぐに完売でした。購入してくれるのは女性が多く、600円もするビールを惜しげもなく買ってくれる光景を目にして、売るターゲットが違うことに気づきました。『こういう人たちに買ってもらえないといけないな』と感じました」。
このビールが知名度を高めてくれたと同時に新たなブランディングを見出すきっかけになったのです。
「この人たちが飲んでくれる場所はどこだろうと考えました。そこで、カフェみたいなところで飲んでほしいと思い、開発したのがスイーツビールです。ここで誕生したのが、『スイートバニラスタウト』と『黒糖スタウト』です」。その後も「湘南ゴールド」や「アップルシナモン」を開発していきます。
しかし、当時はお客さんや業界内からは批判の声がたくさんあったといいます。「会社内でもスイーツビールは止めようかという声も出ました。でも、海外ではこうしたビールは普通にありますし、間違ったことはしていないと思い継続しました」。そして、なによりも自分たちの挑戦を応援してくれる声が励みになったと話します。
「私自身は『インペリアルチョコレートスタウト』や『湘南ゴールド』は今のクラフトビールの盛り上げに貢献したと思っています」と語るその顔はとても誇らしげでした。
自分たちが誇れるビールを!
20年以上の月日が過ぎ、ビール造りへの思いも訊ねました。
「真面目に造る。原料に関しては、コストはあまり気にしていないですね(笑)きちんと使うことを心がけて、美味しいものを造ることを意識しています。自分が美味しいと思うものを造らないといけないと思っています。自分が自信をもっていない商品を売るのは難しいですね。お客さんに聞かれたときに答えられません」と時代の良し悪しを経験してきたなかで心がけていることを教えてくれました。
原料のほかにも「ビールで怖いのは雑菌です。うちでは『ビールが通るところは特にきれいにしよう』って言っています。配管をつなぐときも十分に洗って消毒してつなぎます。ビールが汚染されて、問題が起きてしまっては大変です。見た目ではわかりませんからとにかくできることはやっておかないと心配で仕方ありません」と雑菌は大敵なので衛生面には細心の注意を払っています。
当たり前と思われることに対して真剣に向き合い続ける姿勢があったからこそ大変な時期を乗り越えてきたのだと思いました。
「納得がいかなくて処分したこともあります。理想的だと感じたのは、これまで数回程度です。不思議なことにそのときのビールは、もの凄く早く売れていきますね」とリピートされるビールを造らなくてはいけないと考えています」とビール造りの難しさと職人としてのプライドを感じました。
エールビールやスイーツビールを展開しているのは、ビールがもつ幅広い個性を知ってほしいという思いがありました。昨年はいち早くNE-IPAを醸造し、今もなおパイオニアとして挑戦する姿勢を続けています。今後について訊いてみると「アンテナショップのような飲食店はやってみたいとは思います。全種類飲めるお店がないので、飲めるお店やブルーパブをつくってみたいです。それで、もっとサンクトガーレンを知ってほしいと思います」とのこと。
日本を代表する老舗ブルワリーは、これからも多くの人たちにビールの魅力を伝えていってくれることでしょう。
◆サンクトガーレン Data
住所:〒243-0807 神奈川県厚木市金田1137-1
TEL:046-224-2317
FAX:046-244-5757
E-mail:info@SanktGallenBrewery.com
Homepage:http://www.sanktgallenbrewery.com/
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