【速報】 “Local ”より身近な “Neighborhood beer ”を目指して。浜松市のまちなかに「OCTAGON BREWING」本日誕生!
2017年12月23日(土)
クリスマスを目前に控えた週末。待ちゆく人々がどことなく浮足立つこの日、静岡県浜松市の繁華街を少し抜けととある場所に、胸の高鳴りを抑えきれない大人たちが集まった。
JR浜松駅北口から、北西の繁華街方面に歩いておよそ8分。
飲食店がひしめく路地を抜け、旧東海道に面した浜松市中区田町の交差点の角を曲がると、目を引く大きなガラスドアを備えた店が佇んでいる。中の様子がよく見えるガラスドアの中央、八角形を模したロゴに、シンプルかつ力強いフォントで添えられた店名は「OCTAGON BREWING(オクタゴン ブルーイング)」。
この日から約2週間後、2018年1月11日本日。
税務署から発泡酒製造免許が交付され、静岡県浜松市に新たなブルーパブが誕生した。
12月初旬に醸造ユニットを搬入して税務署の現場検査を終え、免許交付を待つばかりのこの日。OCTAGON BREWINGの完成披露を兼ねたイベント「クラフトビールを作ること、飲むこと」が開催された。
目次
「うまいビールには人が集い、コミュニティが生まれる」
OCTAGON BREWINGを立ち上げたのは、浜松を中心に不動産関連事業や複合娯楽施設「アプレシオ」を運営する丸八不動産グループ。「不動産会社がビール屋を?」という素朴な疑問は、代表である平野啓介氏の話を聞き、氷解した。
「趣味の自転車レースで海外遠征に行くと、よく仲間とその土地のブルーパブに行くんです。すると、都市部から離れた山奥にあるような店でもいつも満員なんですよ。地元の人が集まって、みんなでワイワイ飲んでしゃべって、とにかくそれがにぎやかで楽しそうで。町にある小さなビール屋のパブに人が集って、そこで活発なコミュニティが生まれているのを実際に見て、ビールには人をつなげて活性化させる力があると思ったんです」
OCTAGON BREWINGが拠点を構える「田町」は、浜松駅からも近く、飲食店の多いエリア。
数多くの居酒屋やバーがあるが、平野氏がこの物件をどう活かすかを考えたとき、よくある没個性的な居酒屋ではなく、都市型醸造所に着目した。その根底には、地元である浜松の「まちづくり」「地域再生・活性化」という願いがある。
人口約80万人を有する政令指定都市でありながら、駅前は商店のシャッターが目立ち、いまいちにぎわいに欠ける浜松の中心市街地。駅前再開発や中心市街地の活性化要望は常に市政にあがっていながらも、集客力のある商業施設はどんどん郊外に建てられ、駅前市街地はドーナツ化現象が進んでいる。そんな浜松の衰えを創業から40年以上も見続けてきた丸八不動産は、不動産事業を介してそこに住まう人々、働く人々、訪れる人々のくらしや地域との結びつきを豊かにする街づくり、地域再生に取り組んでいる。最近では、築50年の「カギヤビル」をリノベーションして、若手クリエイターやアーティストの個性的なショップやカフェ、ギャラリーなどが集まるスペースとして甦らせた。そして、都市型ブルワリーにたどり着く。
商業の町である静岡市に代表する県中部や、一大観光地の伊豆半島を有する東部にはブルーパブ新設の動きがあったが、県西部の浜松にはそういった風潮がなかったことも引き金となった。
“地元の人たちに愛されるビールで、まちなかのにぎわいを取り戻したい “
“本当においしいビールは人を引き寄せ、新しいコミュニティや文化をつくる “
“平凡な居酒屋やカフェではなく、何かユニークなことがしたい “
そんな思いを胸に、2017年3月に「OCTAGON BREWING」事業を立ち上げた。
古くから地域に根差した会社が、活気のあるまちづくり、浜松のにぎわい再生のフックとしてスタートする都市型ブルワリーだ。そのために、おいしいビールはもちろんのこと、店作りでは「つくり手とのコミュニケーション」、「つくり手の顔が見えること」を重視する。単なる再生ではなく、そこから生まれる新たな価値、人と文化が交流する機運に期待を寄せている。
個性の大前提として守りたい「きれいなビール」
OCTAGON BREWINGでは、全10タップのうち半数は自社ビール、半数はアメリカを中心とした海外のゲストビールを提供する予定だ。つまり、自社商品と味の確かな輸入ビールが常に比較されることを意味する。飲み手にとっては選択肢が増えるのでありがたいことだが、メーカー側としては、自社商品の販売機会を失いかねない決断だ。品質管理を徹底したインポーターから仕入れる優秀なゲストビールに劣ることのない、確かな品質のビールを造り続けなければならない。そんな期待とプレッシャーを一身に背負うのは、ヘッドブルワーを務める千葉恭広氏。
浜松にブルーパブができるという話はほとんど表面化していなかったため、あるいは、あまりにプロジェクトがスピーディで謎めいていたため、完成披露イベントにも参加者が集まるのかいささか不安なところがあったが、そんな心配をよそに、主催側の予想をも大きく上回る申し込みで満員御礼。キャンセル待ちも出る盛況であった。
イベントでは、まず「つくり手」としてブルワーの千葉氏が醸造工程を説明し、歓談タイムに入るとグループごとに奥の醸造ルームを案内してくれた。
千葉氏がOCTAGON BREWINGで目指すビールとして挙げたのが、「きれいなビール」
雑味やエグみ、オフフレーバーなど、味に影響を与えうるものを徹底的に排除し、飲んだときに引っ掛かりを感じないスムーズなビール。それがいかなるスタイルであっても、つくり手として表現したい味を邪魔しない「きれいなビール」を目指す。それは極めて基本的なことのように聞こえるが、ユニークで個性的なビールの大前提として、下支えとなる品質をおざなりにしない。
しっかりとした口調に、千葉の固い決意がにじみ出る。
学生時代を過ごした大阪でベルギービールの本と出合い、その多様性と奥深さに触れた千葉氏は、大学卒業後に地道に渡航資金を貯め、ビール醸造の世界的教育機関であるミュンヘン工科大学のBrauwesen und Getränketechnologie(醸造飲料工学科)で醸造の基礎から学び、フライベルガー醸造所やヴァイエンシュテファン醸造所内にある施設での実地研修を経て、ドイツの国家資格であるDiplom Braumeister(ディプロム ブラウマイスター)を取得。休日も数々のブラウハウスを訪ね回った。こうしてドイツでおよそ5年間ビールづくりを学び、帰国後は東京のブルーパブで若手ブルワーの技術指導や品質管理、アドバイザーなどを務めた。
伝統と格式あるビールの聖地で、正統派ともいえるキャリアを積み重ねた醸造家だ。
こうして、平野氏のまちづくりへの志と、千葉氏の「自分の表現したいビールをつくる」という夢がマッチして、OCTAGON BREWINGのコンダクターが決まった。
進化するクラフトビールと世界のトレンド
千葉氏による「作ること」のスピーチ後は、「飲むこと」を主題にしたゲストスピーカーのトーク。そこで「プロの飲み手」として招かれたのは、クラフトビールを中心としたドリンクの情報サイト「CRAFT DRINKS」を運営する沖俊彦氏。都内のバーやベルギービールを扱う酒販店などでビールの輸入・販売に携わった後、海外の醸造所や蒸溜所、パブを訪ね回って研究を重ね、現在は業者向けのクラフトビール販売業の他に、ワンウェイケグ「キーケグ」の輸入販売や、各地でセミナー講師も務めている。
沖氏は「クラフトビールの種類と現状」として、昨今よく耳にする「ビアスタイル」が指し示す意味を解説、クラフトビールの世界的トレンドをけん引するアメリカで、人気が急上昇しているものの例として、「Milkshake」※1と「Mexican lager」※2の紹介がなされた。
品評会で用いる「ビアスタイル」ガイドラインとして、まだ定義されていないこれらのビールを一例に、今までにない新しいビールがどんどん世に誕生していること。それだけ世界のブルーイングテクノロジーは常に変化を遂げ、未知の広がりと可能性を秘めていることをスピーチ。クラフトビールになじみの薄い初心者から、アンテナ感度の高い玄人まで満足できるトークセッションとなった。
※1 近年流行しているNew England IPAの亜種。ラクトース(乳糖)を使用する。
※2 ライトに仕上げるため意図的にトウモロコシを使用。モルティながらさっぱりした味わいのライトラガー。
「 Drink with neighbors in neighborhood !」―― お隣さんと近所で飲もう!
トークセッションの後は、お待ちかねのビールタイム。
沖氏が「ゆるい」「苦い」「酸っぱい」「濃い」「あっさり」のキーワードで表現した5種類の特徴的なビールが用意され、参加者はバラエティ豊かなビールとおつまみに舌鼓を打った。
カウンターはビールを求める参加者で長蛇の列。
沖氏やオクタゴンチームのメンバーも参加者と杯を交わし、さまざまな場所で会話が弾み、店内は熱気にあふれた。うまいビールは人を引き寄せ、ひとつにする。パブやフェスティバル、同僚や友人、あるいは家庭内でも、ビールは人との交流の場でもっとも活躍する潤滑油だ。初対面同士でもビールをきっかけにコミュニケーションがはじまり、個と個をつないで大きな集合体、コミュニティが生まれる。そのうねりの動力源となる熱量を、まさにここで見ることができた。
やがて用意されたビールが次々と打ち抜かれ、平野氏が自宅からテイスティング用にキープしていたビールを放出する事態となったが、そこで提供されたビールがまたすばらしかった。おおよそ浜松では手に入らないであろう海外のビールを前に、ビール好きとしては申し訳ないという気持ちよりも、つい「ラッキー! 」という興奮が上回る。
カウンターでは、沖氏が参加者や店舗マネージャーの亀井氏を交えて、コミュニケーションツールとしてのビール、そして理想的な飲食店のあり方や、ゲストへの心配りについて、自身の経験に基づいたアドバイスを惜しまない。
気持ちよく過ごせるビアバーとは、海外の名物バーに共通すること、ビールのポテンシャルを最大限に引き出すオペレーションや接客―― どのエピソードも興味深く、話は尽きない。
今はさまざまなビールがあるからこそ、ゲストの好みや要望を引き出し、的確に提案するコミュニケーションが必要になる。おいしいビールそのものやメニュー表の文字だけでは果たせない役割を、店のスタッフが担っている。
ビアバーは、単なるビールを提供する場ではない。
もちろん、それだけを求めて訪れるゲストもいるが、個人的に「最良のつまみ」となるのは、そこでどのような心地よい時間を過ごせるかだ。ゲストはその日のおすすめや相性のいい料理、醸造の様子、あるいはローカルな話や時事ニュース、仕事や友人、家庭の話をするために訪れるかもしれない。一日の疲れを洗い流したいときに、解放感と期待感をもって足を運びたいのは気取らない店だ。そんなゲストが気軽にふらっと立ち寄れる場所になるかどうかは、ビールの味と、店づくり=「人」の力にかかっている。
Pub(パブ)、つまり=Public house(パブリックハウス)として、おいしいビールをおいしい状態で、より楽しめる居心地の良い空間提供までを意識する。それは知識や経験という引き出しの多さも関係することで、一朝一夕でできることではないが、たいていの場合、長く地元に愛される店というは、そのような包容力とコミュニケーション力を備え、時間をかけてじっくりとゲストとの信頼関係を築いている。過ごす時間の豊かさを感じとることができる店だ。
個人的主観だが、特に地方にはそんな店が多いかもしれない。
OCTAGON BREWINGのキーワードは、
「Drink with neighbors in neighborhood 」
“Drink local ” よりも身近な距離、この街のご近所でお隣さんと飲もう。
OCTAGON BREWINGが、田町で長く愛される店となるように。
にぎわいのあるコミュニティを浜松にもたらすように。
そう期待せずにはいられない。
「おいしいビールは人をつなぎ、人が集えば小さなコミュニティが醸成される」
ローカル志向の高まりとともに、すべてのお酒がそうであったように、
OCTAGON BREWINGがコミュニティを育む土壌となることを、浜松の人々が願っている。
■ブルーパブ情報
「OCTAGON BREWING」
住所:静岡県浜松市中区田町315-25
電話:053-401-2007
営業時間:日・月・火・木/18:00 ~ 23:00、金・土/17:00 ~ 24:00
定休日:水曜日
公式HP:http://octagonbrewing.com/
※店舗は2018年2月中旬オープン予定。
※営業日や定休日は予定です。正式オープン時に変更になる場合があります。
■「CRAFT DRINKS」情報
公式HP:http://craftdrinks.jp/
公式ショップ:http://shop.craftdrinks.jp/
公式SNS:FB、Twitter、Instagram
キーケグやビールに関するお問合せ先:https://goo.gl/WG8eYL
※取材時点(12月23日)の情報、最新情報はHPや公式SNS等でご確認ください。
※記事に掲載されている内容は取材当時の最新情報です。情報は取材先の都合で、予告なしに変更される場合がありますのでくれぐれも最新情報をご確認いただきますようお願い申し上げます。